慈光通信 第180号
2012.8.1
病気のないすこやかな生活 ― 医・食・住 ― 3
前理事長・医師 梁瀬義亮
【この原稿は、1982年(昭和57年)3月6日 熊本県立図書館ホールでの講演録です。】
しんしんと体に入ってくる毒の洪水
私達は昭和34年に国会へ請願書を出しました。その意味はこういうことです。今後0年ないし20年後に、第2のノアの洪水とも言うべき毒の洪水が日本を襲う。其れは現在の恐ろしい農薬によって、ガン、肝臓病、腎臓病が非常に多発してくる。それに伴って異常な犯罪・自殺・交通事故が多発してくる。
だから、速やかに当時用いられていた毒性の強い農薬、ホリドール(パラチオン)・EPN・フッソール・エンドリン・ヒ酸鉛、こういったものを即刻、禁止してもらいたい。そして低毒性農薬も5年を期して完全に禁止していただかなければ危険だ。そのためには、日本で現在行われている篤農家の農法を国家規模に於いて研究しなおしていただきたい。そして近代農法をもういっぺん洗い直してもらいたい。こういう請願書を出したのです。
これは臨床をやっておりますと、今申したことがもう見えていたのです。現在、丁度22年目ですが、皆さん、まわりを見て下さい。ガンや白血病、肝臓病、腎臓病がものすごく増えてきたでしょう。それから異常な犯罪・自殺が増えてきたでしょう。交通事故もそうなってくるわけです。
このままいきますと、あと20年から30年すれば、私は、健康という面で日本民族は滅びる可能性が多分にあると考えるのです。極めて危険でございます。対岸の火災ではありません。第2のノアの洪水がもうここまで来ておると考えていただきたいのです。そして今若くして死んで行く方はこの毒の洪水の溺死者であると考えていただきたい。水の洪水は目に見えますからみな驚きます。
けれど、毒の洪水は目に見えません。しかし、見えないながら、しんしんとして、我々の体に入ってきておる。これを是非本気で取り組んでいただきたいと思って、私は出てきたのです。
新陳代謝の状態は口の中に現れる
昭和23年以来、患者さんの食生活を全部聞く、これを私のモットーにしてきたんです。
必ず、どんなものを召し上がるか、肉食はどうか、魚、甘いもの、果物、野菜、海草はどうか。そして職業はどうか。自分のところで畑を作っているかどうか、この様なことを全部聞いていくのです。
これと、口の中を丁寧に見る、特に子供は口の中を丁寧に見るのが私の方針なのです。
なぜかというと新陳代謝状態は実に口の中に敏感に出てくることを、経験的に知っていたからなのです。
そうすると、面白いことに昭和30年以降からだんだん、子供達の歯が汚くなってきていることに気が付きました。
真っ白い、きれいな歯をした子どもが少なくなって、黄色い年寄りのような歯がだんだん多くなってくる。
これは、一つには抗生物質です。テトラサイクリン系統の抗生物質を飲みますと歯が黄色くなり、骨も黄色くなるはずです。
ところが、それとともに公害物質がだんだん入ってきたことを感じるのです。
というのは、面白いことに果物が非常に農薬汚染が強いのです。
果物をたくさん食べさせているご家庭の子どもさんに歯茎のところに黒い色素沈着が起こっている子が多いのです。みなさんも良く子供さんを調べてあげて下さい。
このことを発表しまして、それから大学の歯科から大勢の専門の方が来て、ずっと統計的に調べたのです。
ところが、そのデータをついに発表出来なかったようです。何か圧力が加わって、ついにうやむやに終わってしまいました。
けれども事実、このお歯黒をつけたような黒い色素沈着のある歯茎がだんだん多くなってきている。
このように、しんしんとしてこの毒物が、われわれの子孫の体を蝕みつつあるのです。
農薬は胎盤を通じて胎児にまで入ってきますから、もう子どもたちはお母さんのおなかにいる時から、合成化学薬品の侵入を受けているわけです。
しかも、現在の医学に於いては、この現在、起こっている合成化学薬品の人体内への侵入という重大な事実が、まだ研究されていないのです。お医者さんが全然、知らないんです。困った事態です。
私は現在、62歳でございます。同窓会に行きますと一緒に卒業した人たちが、立派な医学者で日本の医学を指導するような立場になっておられる方がおります。
その人たちと話してみますと全然、合成化学薬品の人体侵入について知識もなければ、興味もないのです。
(以下、次号に続く)
熱中症とは?
今年もまた熱中症が多発しています。今年の夏は平年を上回る暑さで、猛暑だった2年前と同じペースで救急車で搬送される人が増えているようです。
熱中症は高温多湿の環境下で、筋肉作業や運動により、体内の水分や塩分(ナトリウム)などのバランスが崩れ、体温の調節機能が働かなくなり、体温上昇、めまい、体がだるい、ひどい時にはけいれんや意識の異常など、様々の症状を起こす病気です。炎天下で起こる症状と思いがちですが、湿気の多い日やくもりの日、または家の中でじっとしていても室温や湿度が高いために、熱中症になる場合があります。
熱中症は大きく分けると3つに分けられます。
熱射病
体温を調節する中枢の障害であり、意識障害で発症します。他の症状としては、発汗が停止しているため皮膚は温かく乾燥し、体温(41度以上)・血圧とともに上昇しているのが特徴で、熱中症の中では最も緊急の措置を要します。したがって皮膚が赤く、熱っぽいなど、日射病と判断された場合は、日陰の涼しい場所や冷房の効いた部屋に休ませ、上半身を高くして座っているのに近い状態で寝かせ、とにかく体を冷却します。首、脇の下、足のつけ根など、血管が皮膚表面に近いところを氷などで集中的に冷やし、氷がない場合は、水を体にふきかけ、風を送って冷やします。アルコールで体を拭くのも良いのですが、このとき注意したいのは、体の表面だけを冷やしてふるえを起こさせないこと。以上のような体温降下処置を取ります。反応が鈍い、言動がおかしい、意識がはっきりしない、意識がない、こういった場合はすぐに救急車を呼ぶと同時に、応急処置をします。また、意識がはっきりしない、もしくは意識がない場合の水分補給は厳禁です。また、吐いてしまった場合にのどを詰まらせないよう横向きに寝かせます。
疲労
脱水による心・血管系の虚脱により発症し、皮膚は冷たく湿潤で、体温正常・血圧低下を呈します。自律神経症状が主で脱力・吐き気・下痢・めまい・失神などが認められます。熱疲労は老人・子ども・婦人あるいは病弱な方に多いことが知られています。皮膚が青白く、体温が正常なら、心臓より足を高くして、あおむけに寝かせます。水分が摂れるなら、少しずつ薄い食塩水かスポーツドリンクなどを何回にも分けて補給します。
熱けいれん
大量発汗後に水分のみ摂取すると体の中のナトリウムが希釈されてしまうことで発症します。皮膚は暖かく湿潤で体温・血圧は正常です。症状としては作業に用いた筋肉の有痛性のけいれんです。発汗が多い時には水分のみ摂取するのではなく、塩分を取ることを忘れてはいけません。
筋肉がけいれんした時にはけいれんしている部分をマッサージします。また、体の特定の部分(例えば脚など)が冷えているなら、その部分もマッサージします。
人は体温が上がると、「汗」をかくことでそれを調整しようとします。発汗による体の水分不足をそのままにしておくと、倦怠感やめまい、頭痛、吐き気など、熱中症の症状をもたらす原因になります
水分不足を解消するには、十分な水分補給が欠かせません。ただし一度に大量の飲み物を飲むとかえって調子が悪くなる場合があるので、飲む量やタイミングに気を付けましょう。
◇運動を始める30分前、250mlから500mlを何回かに分けて飲む。
◇運動中は、20分から30分ごとにひとくちから200ml程度を飲む。
◇運動が終わったあとは、減った体重分を補うように何回かに分けて飲む。
暑くなると、つい冷たい飲み物が欲しくなりますが、「冷やしすぎ」は禁物です。温度は8度から13度程度に調整してください。水分とともに失われた塩分やエネルギーを補給するため、運動時には塩0.1%から0.2%程度、糖度2.5%から3%程度を含んだ飲み物が理想です。
夏場の作業やスポーツ時にはスポーツドリンクを持参されるのもお勧めです。スポーツドリンクには水分に加え電解質がバランス良く配合されているためです。しかし、日常、ジュースや炭酸飲料など糖分の多い清涼飲料水を飲みすぎると、血糖値が急激に上昇して「ペットボトル症候群」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。倦怠感やイライラのほか、最悪の場合は昏睡状態になって死に至るケースもあります。血糖値が上がると喉が乾きやすくなるので、どんどん糖分の多い飲み物を摂取するという悪循環に陥ってしまいます。普段からジュースを水代わりに飲むのは避けて、ミネラルウォーターやお茶など、できるだけ糖分の少ない飲み物を選びましょう。野菜ジュースやスポーツドリンクにも糖分が含まれているので、飲む前にラベルの成分表をチェックする習慣をつけたいですね
スイカに塩を振って食することはスポーツドリンクを摂取していることとほぼ等しく、日本人の夏を乗り切るための生活の知恵の一つといえます。汗をかくと水分とともに「塩分」も体から失われるため、熱中症対策には水分補給と塩分補給の両方が必要とされています。ただし、注意したいのは、”日本人は普段の食事で必要以上の塩分を摂取しがち”ということ。運動などで大量の汗をかく場合はその都度補給する必要がありますが、日常生活でじわじわ汗をかく程度の場合は、くれぐれも「塩分のとりすぎ」に注意しましょう。
以上、この暑い夏、熱中症にくれぐれもご注意ください。
農場便り 8月
どこまでも澄みわたる紺碧の空、まるで生きているかのように大きくわき上がる入道雲。太陽は強い日射しを放ち、大地を焦がす。
7月下旬、いつもなら朝夕自由に飛び回るアキアカネの姿はない。周りの美しい風景を映していた棚田も、大きく成長した稲の葉に覆いつくされ、吹く風が葉を揺らし緑の波となって水田を駆け巡る。今年も盛夏がやって来た。太平洋高気圧が横綱の如く、どんと日本列島の上に鎮座した。他の季節は、いつの間にか始まり、いつの間にか過ぎてゆく。が、夏だけは私にとっては別物である。梅雨頃になると目の前に迫ってきた夏に身構える。
農場に目をやる。周りの山の木立ちの奥深くからアブラゼミ、ニイニイゼミが猛暑を楽しむかのように羽音を上げる。この羽音は日々大きくなるが、蒸し暑さも手伝って心地良い蝉しぐれとは決して言えない。この蝉しぐれに囲まれ、猛暑にも負けることなく夏野菜が育つ。ゴーヤは我がシーズンとばかりにツルを伸ばし、オクラは焼けんばかりの日射しを大きな葉に受け黄色い花を次々と咲かせる。里芋は異常なくらい大きな葉を広げ、中に入ると異次元空間に飛び込んだようである。ナスは少々夏バテ気味、水分管理を怠ることなく、常に湿った状態を維持する。今年もニジュウヤホシテントウが発生し、大切な葉を食害する。周りにいる小鳥がニジュウヤホシテントウを追っている姿を目にし、土の上に小さな鳥のフンを見つけ、これで食害から逃れられることを期待する。
農場の南隅にインゲンのつるがネットの上高くまで覆い茂る。このインゲン、早くには初夏より収穫が始まり、大暑を迎える頃、パタリと結実しなくなる。インゲンマメは16世紀ヨーロッパから中国に、そして中国の高僧、隠元大師によって日本に伝わった。種類は金時(赤豆)、うずら(斑入り)、大福、(白豆)、これらを若い時期に収穫し食する。このインゲン豆は温暖な気候を好み、30℃以上では結実しない。また、土壌も酸性度を好まず、乾燥に弱い。これだけでも今栽培している農場には合わないことが分かるが、盛夏に少しでもインゲンがあればと無理を承知で栽培している。毎年春からの栽培は7月中下旬で終了する。何とか夏野菜の一員として店頭に飾れないものかと試作を繰り返す。その中、大暑性のある黒種衣笠を6月初旬に播種し、梅雨の長雨に祟られながらも2m以上に伸びている。後は何とか結実することだけを願うが、作柄の良し悪しはお天道様のみが知る。
この暑さの中、夏山にはつる性の植物がたくさん繁茂する。我が農場も周りの木には高所までつるが絡み、時には大樹を死に至らしめる。つるは、高温であればある程エネルギーを吸収し、どんどん生活圏を広めてゆく。まるで幼いころ読んだ少年雑誌のジャングル探検の絵のようである。以前はここまでひどくなかったように思うが、近年の温暖化による影響で生態系が変化してきたのであろうか。
先日、テレビでアイスランドの永久凍土、そして氷河がどんどん消えてゆく映像を見た。環境を取るか経済を取るか、と番組は進行してゆく。生物は地球環境によって生かされている。自然をコントロールすることは100%不可能であり、それを敢えてしようとするのは愚かな行為である。この小さな空間に於いてでさえ、農業は少しの環境の変動により作柄が左右される。ましてやそれが地球規模となると、人間がどうこうする世界ではない。謙虚な心を持ち、大自然からの恩恵を「奪い取る」のではなく、「いただく」ということが大切である。それにより生物との共存共栄が成り立つ。
週末、幾万の人々が東京に集結しデモを行う。原発反対のデモを目にし、「この集まった人々のエネルギーを使ってさらなる有効な形での反対運動を出来ないものか」と、ふと思ってしまう。「力ずくで押しつぶすのではなく、精神面からの人間を育てる運動になれば」とこんな思いが、わたしの頭をよぎる。自我中心の心が原子力発電を生み育てた。お日様の熱波を大自然の緑に吸収していただき、澄みわたった清らかな頭脳で社会を考えたいものである。
もうすぐお盆を迎える。暑さもお盆までがピーク、キリギリスや蝉のように夏を楽しむことが出来ればと思うが、そうはいかない。今日も、頭の上から強い日射しがお構いなく虚弱な私に降り注ぐ。頼るものは麦わら帽子と1.5?の水筒。酷暑の中、すでに秋冬の幼苗は強く育っている。
水やりに追われる農場より