慈光通信 第218号
2018.12.1
日本農業の危機に思う 4
前理事長・医師 梁瀬義亮
【この原稿は、1978年6月毎日新聞社発行の「農業と経済」に掲載されたものです。】
民族の生存と発展
人類の生存の原理は農業にある。そして農業は自然の法則を無視しては行われない。無農薬有機農法の枠内でのみ農業の発展がある。この枠を出たものは、暴走農法で農業の破壊、従って人類の滅亡を意味する。また農業を軽視して工業を発展せしめることがいかに危険なものであるかを、私はしみじみ思う。
国際分業論という考え方が、今も指導者間にあるようであるが、国家単位ですべてが行われている現在の国際社会で、そんな甘ったれたことは通用しないと考える。いざとなれば食糧は断たれるだろうし、また今でも、どんな農作物が供給されているか分かったものではない。日本民族の生存と発展のため、すみやかに恒久的食糧自給体制を整えるべきで、そのためにも可及的すみやかに近代農法を廃止して、完全無農薬有機農法に切り替えるべきである。
また化肥農薬を主体とする近代農法の農作物が、質的に欠乏食と毒食を生むよくない農法であるのみならず、量的生産にも劣った農法である。化肥、農薬を用いることは、短期間を見れば増産につながるように見える。しかし、永い目で見ると土を殺し、益虫を殺し、抵抗性害虫を発生せしめて減産をもたらすのである。
例えば私の地方では、従来柿は素人の庭でも自然によくできた。専門の人でも年2回の消毒で事足りた。化肥農薬による増産作業が行われて3年、5年の間は増産であった。しかし20年経ってみると、今までなかった害虫が多発し、1年に最小限6回は消毒しなければ、柿はもうできなくなってしまった。(注1)化肥、農薬の近代農法が減産をもたらした一例である。その他の農作物についても同様のことが、いたるところでみられる。
日本農業の進むべき道
膨大な土地を持った米国の農法や農業経営法は、日本の農業には通用しない。狭い日本の土地で一億一千万人を養い、かつ安定した農業を行うには、無農薬有機農法を採用し、小規模、複合経営を行って、農家を天候の不順等から守り、出費を少なくし地力を向上して土地生産性を高め、同じ土地から恒久的に良質の農産物を大量に算出しなければならないのである。例えば米作、野菜、養鶏、果樹栽培を組み合せる複合経営によって、農家の食費はうんと少なくなるし、小米、ワラ、野菜クズ、芋クズ、クズ果実、台所の残飯、雑草等は、すべて卵と鶏糞に代わり、鶏糞は堆肥になって土地に還元されて肥料代の節約になり、かつ地力を高めるので農薬費は不要になるのである。
化肥か有機肥か
化肥を併用することによって、量的に収穫を増やすことは事実である。しかし、それは土地がやせているときの話で、十分に好気性完熟堆肥を施されて出来上がった土では、決して化肥使用に劣らぬ収穫量が得られる。もちろん質的には、はるかにまさっている。化肥併用によって作物の栄養価値は低下し、病害虫は増し、かつ長年月(約10年)の間には地力が低下して、さらに病害虫が多くなる。そして農薬の使用を余儀なくされて「死の農法」の悪循環にはまり込んでしまうのである。
このときの地力低下は、主として土壌中のミネラルの変化および土中生態系の変化によるものと思われる。土壌を健全に保つためには、客土、水成岩粉や海藻、山の下刈りや原野の雑草等の施用による天然ミネラルの補給を推奨している水田では、山野のミネラルが水に溶けて天然ミネラル補給が行われるが、常畑ではどうしてもミネラル欠乏が起こりやすく、これが病害虫発生の一つの原因となるからである。
(注1 農薬の使用量は、現在さらに多くなっています。)
(以下、次号に続く)
冬は野菜が甘くなる
冬野菜がおいしい季節になってきました。寒くなると鍋料理や煮物など温かいものの出番が多くなります。これらの料理には欠かせない大根や白菜、菜っ葉や人参などの冬野菜は、昔から「寒さに当たると甘くなる」と言われています。風が吹き、霜が降りるほどの寒い畑で、野菜は凍っても枯れずに育ち、甘さが増すのはなぜなのでしょうか。
大根や白菜などの冬野菜は寒い畑で育ちます。畑の水たまりが凍り付く日もあるし、霜が降りる日もあります。そんな厳しい寒さの中で生きる植物たちは、冬の寒さをしのぐための術を心得ているのです。冬野菜は、冬が近づくと冬の寒さに耐えて生きるために凍りにくい「体づくり」を始めます。まず植物たちは糖分やアミノ酸などの物質を葉や根の中に増やします。
液体の水が個体の氷に変わることを「凝固する」といい、それが生じる温度を「凝固点」といいます。そもそも水が凍るのは水の分子が結びついて凝固することで起こります。通常の水の場合は、氷となる「凝固点」は0度です。しかし、水に糖分やアミノ酸などの物質が溶け込んでいれば、水の分子が結びつく動きが糖分などの粒によって邪魔されるため、0度では凍らなくなります。この現象を「凝固点降下」と呼びます。
わかりやすく言えば、この「糖分」を甘みをもたらす成分の砂糖と考えると「砂糖を溶かしていない水」と「砂糖を溶かした砂糖水」とではどちらが凍りにくいかを考えると砂糖水の方が凍りにくいのです。そして溶けている砂糖の量が多ければ多いほど凍りにくくなり、その液の凍る温度が低くなるということなのです。だから、冬野菜は葉や根の中で糖分やアミノ酸を増やすことで、冬の寒さの中で凍らず、枯れずにいられるのです。また、糖分だけではなくビタミンなどの量も増えるため凝固点降下の効果でますます凍りにくくなります。葉もの野菜は低温になるほど根の給水機能が低下し、内部の水分が減る事から、糖分が濃縮されてより甘く感じられるのです。昔から「霜にあたった野菜は甘くなる」と言われるのはこういうことだったのですね。
このようにおいしい白菜で簡単にできる鍋料理を一つご紹介します。
今ネットで大変話題になっている「無水油鍋」はその名の通り、水を使わず野菜のおいしさを十分に味わうことができます。
材料(2人分)
白菜250g 豚肉200g
酒 大さじ3 白だし 大さじ1
ニンニク2かけ ごま油 大さじ3
材料はこれだけです。
1. ニンニクをごま油で炒めて香りを移し
ておきます。(土鍋を使うときには、別のフライパンなどで炒めてから油とニンニクを土鍋に移し替えます)
2. 鍋に切った白菜を入れ、上に豚肉を広げます。調味料を入れてふたをして中火で軟らかくなるまで煮ます。
これで出来上がりです。お好みで塩やポン酢、七味などでお召し上がりください。
これらの分量は一応の目安ですので、野菜をもっとたくさん食べたい方には、白菜の量を多くすることをお勧めします。最初はお鍋の蓋が出来ないほどにいっぱいの白菜が、煮えると少しになってしまいます。
季節に関係なく、スーパーにはいろいろな野菜が並んでいますが、どんな野菜にも旬があります。旬の野菜は手の込んだ料理をしなくてもおいしくいただくことができます。是非、旬の味をご堪能下さい。季節外れの野菜は無理をして作っているため、農薬や化学肥料などの使用もさらに多くなり危険です。くれぐれもご注意ください。
農場便り 12月
雷鳴が晩秋の空にとどろきわたる。天空高く雷神より本年最後のメッセージが届く。風神も雷神に負けじと風袋を開き、風の塊を地上に叩きつける。うっすら色付き始めた木の葉は、風神のもたらした風にさらわれ、地上へと舞いながら落ち、山道には落ち葉の絨毯が敷きつめられた。高温が続いたこの秋も、ここに来て朝夕の冷え込みが強く、ゆらめくストーブの炎が心地よく感じられる。季節は冬へと進む。この時期の野菜の種類は多く、店舗の野菜の棚は秋冬野菜や果物でいっぱいになる。五感で四季を感じられなくなってきた近年、当会の野菜は目、鼻、舌と三感に加え、健康をもプラスさせる。残すところあと一か月余り、日々の農作業を書き留めた日誌に目をやる。が、自分のアバウトな性格がたたって何度読み返しても意味不明なところが多く、途中でさじを投げる。
1月5日、みんなが揃って店舗の大掃除、夕方には磨き上げたウインドウに全力で向かう職員の姿が映し出される。すべてを終えての帰宅後、これから我が家の一風変わった新年会と明日からの決起集会が始まる。全員防寒具に身を包み庭で真冬のBBQ、赤々と熾(いこ)った炭の上で多彩な野菜が焼け、真っ白な息は闇に溶ける。夜更けまで宴は続く。
翌日の1月6日、本年初の農作業となる。気合いを入れて農場へと車を走らせる。毎年恒例の一年を無事に過ごさせていただいたことを大自然に感謝し、お天道様と大地に手を合わせる。1月の作業は収穫を中心に他にも年内に片付かなかった所を根気よく片付けてゆく。白菜、キャベツ、大根、里芋、セロリ、山芋、そして葉菜類などの畑で休眠している作物の収穫を行う。
2月、農業用機械のカタログに「畑のシェーバー」と名付けられた商品が紹介されている。畑の雑草を土の際から削り取る、まさに「畑のヒゲ剃り」。新しいもの好きが高じて早速購入、2、3日で某通販会社から商品が届く。普段あまり目を通さない説明書に目を通し、草刈り機の先端に装着。草刈り機のエンジン音と共に畑土と雑草を削ってゆく。雑草の成長に頭を抱える日々からの卒業か、少々仕事は荒いが力強い味方が現れた。少々の難を言えば、刃の減り方が早いのが目につくが、地球を削るのだから仕方がないか…。
3月中旬、数種類の播種が始まる。夏キャベツの他に葉菜や梅干しの友、赤ジソもこの時期に播種をする。4月には同時に畑の準備、トラクターは堆肥散布や耕運とフル回転。秋から晩秋にかけて定植したキャベツ、ブロッコリー、玉ねぎ、ニンニクなどの管理作業も行う。
花は歌い蝶が舞う5月、山桜の花も散り、今度は雑草の花が一斉に咲き乱れる。花だけ見れば、これほど美しい光景はないのであるが。この頃から夏野菜の植え込みが始まる。幾種もの小さな苗が、周りで花が咲き誇る畑に定植される。定植は約1カ月かけて順番に逐次行う。葉菜は、種まき機「ごんべえ」の力を借り、畑に1本の筋に直播きをする。1週間もすれば、地を割って吹いた芽が地上に直線の絵を描く。種から育てたきゅうりも畑に定植、遅霜も下りなくなった5月下旬に作業を行う。早生栽培は川岸農園にお任せし、当園は露地栽培で9月まで2回に亘り播種を行う。定植されたきゅうり苗は成長を続け、きゅうりの壁が出来る。この時期、気候はいびつに変化してゆく。安定した時期であるはずが雨が降りだしたり、そして晴れれば異常な高温に見舞われる。大雨で作物の根は腐り、高温で作物が一部腐敗を起こす。しかし中には力強く育つ野菜もあり、その姿に勇気をもらい、日々奮闘する。
キャベツ畑では、高温多湿を苦手とし、まさにこの気候の中で孤軍奮闘。有機栽培で自然からの恩恵を受け、7月下旬まで収穫を行う。この暑さの中きゅうりは元気いっぱいに育ち、病害虫を蹴散らし、9月まで収穫は続く。川岸・中田両協力農家も農作業に勤しみ、素晴らしい完全無農薬有機栽培の作物の生産に惜しみない力を注いでおられる。本年は雨を苦手とするピーマンの出来が悪く、来年に向けて一層の研鑽を積む。トマトは川岸農園が一手に引き受け真っ赤なトマトを畑いっぱいに作り、食卓を賑わせてくれた。
5月下旬に蒔いたセロリは、日よけで涼しくした下で本葉を覗かせ、暑さに負けることなく元気に育つ。6月、春キャベツが終わり、夏キャベツの収穫が始まると同時に晩生の玉ねぎの収穫も行う。4、5日の晴れ間を見つけ、引き抜いていくと土の中からまん丸い球が顔を出す。2、3日地上で日光を浴びせ、地干しを行う。その後、コンテナに入れ陰干しすること1ヶ月、後は冷蔵庫で3℃で保管し、翌年の1月から3月まで出荷する。6月下旬には、大地の中から黄金色の宝物、ジャガイモを掘り上げる。これも日陰で乾燥してから冷蔵庫へ。あとはお肉があれば、当会の冷蔵庫は肉じゃが天国となる。
6月中は集中豪雨もなく、おとなしい雨が降った。7月に入り、温度、湿度共に不快指数は最高潮に達する。多湿は人を駄目にする。物をするのも億劫になり、鬱陶しい蚊も全身を好き放題に刺し、大切な清き血を吸う。竹やぶの近くの畑では作業中、常に20匹以上の蚊が私の後を付いて回る。
7月中旬には洋食の四天王の内の早生キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーの種まきが始まる。200穴のトレイにもみじのような手で一粒一粒丁寧に蒔き、20日後にはポットに鉢上げをし、強く大きな苗を仕立てる。7月は雨天が続き苗作りは進むが、肝心の畑作りが遅れ、焦る気持ちが生まれ始める。2、3日の晴れ間に堆肥を散布、その後半月間畑の土の上で風雨にさらし、未熟な部分を風化させ、雑草が芽をのぞかせると同時に軽く土を中耕し、混ぜてしまう。その後さらに半月間堆肥には土となじむ時間を与える。
早生栽培の耕作地作りを始める。トラクターの力強いエンジン音を轟かせ耕運、堆肥を土に混ぜ込み、石灰を入れPHを整える。他に肥料は入れず、気温が下がり害虫がおとなしくなる10月中旬まで堆肥のみで育てる。その後油粕や米ぬかを使い一気に仕上げてゆく。油粕や綿実粕、米ぬかなどには野菜の味を深く美味しくする力がある。ポットから本圃へ独立し、独り立ちした幼苗に試練が訪れる。9月、台風が雨と風を運んできた。苗場のトレイ苗は全員倉庫に避難、既に畑に植えられた苗は台風の風雨に呑み込まれた。大量の雨で畑はどっぷり浸かり、排水溝はすべての雨を呑み込むことが出来なかった。キャベツは60%、ブロッコリーは40%、カリフラワーも40%位の苗が一命を取り止めたが、2、3日水は引かず、それ以前に降った雨で土の中の水分は飽和状態となっていた。根が弱ると自然界は容赦なく淘汰していく。害虫の発生など早生の作物は大打撃を受けるが、中生、晩生は順調に育つ。大自然は100%の生命を奪い取ることはまずなく、後へ後へと種をまくことを許される。白菜は、早生は見る影もなく撃沈したが、残る中生、晩生は緑濃く大きな葉を持ち上げ、結球を始めている。その後、二度列島をかすめた台風がまた雨をもたらし、9月上、中旬に蒔いた大根は見事撃沈。協力農家と連携して栽培をしていたおかげで、店舗で大根の姿を見ることが出来た。
現在、畑は作物でいっぱいになり、緑豊かな畑となっている。葉菜も収穫され、柔らかくて苦みのない、健康を守る食材として皆様にお届けしている。晩生のキャベツも大きく育ち、目を凝らすと糸くずのような青虫が葉に小さな窓を開ける。気温が下がれば虫の食欲も落ち、これからは大きな食害は出ないはず、とそっとそのままにし、キャベツ畑を後にする。初冬の一日は、心して作業しないとすぐに夕暮れが周りを包みこむ。この時期に群立つ小鳥は夕刻になると寝ぐらへと帰ってゆく。
中国地方での土石流による災害で家屋を失った人々のことが頭をよぎる。農は土を起こし、また種を蒔けば立ち直るが、尊い命は…と。ロシア西部には「苦しいことは6日ごとにやって来る。喜びは100日おいてやって来る」ということわざがあるという。東洋では、太古の昔から幸福への道を切り開いてゆく力を受け継がれてきた。現代に於いてその気風は少々薄れ気味ではあるが、災いの時こそ日本人の心を生かしたいものである。来年こそは平穏な日々をと祈る。
農場の一年は駆け足で過ぎ去った。春、山桜の美に感動し、夏の耐えがたい酷暑、そして心温まる錦の紅葉に癒され、冬はあたたかき暖に包まれ、雪の美に心が洗われる。
この一年、健康を願い安全で栄養豊かな作物を大地よりいただき、その作物を愛してくださる皆様にお送りできました事に感謝申し上げます。来る年も皆様の健康な食を全力でサポートさせていただく事を使命に邁進してまいります。どうぞ良いお年をお迎えください。
道で助けたカメの恩返しを期待する農場より