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慈光通信 第251号

2024.6.10

健康と医と農 Ⅴ

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1986年7月6日 西条中央公民館に於いての講演録です。】

 

 

 

動物性食品

 

それから果物も結構ですが、うちの子は野菜嫌いだから果物で補っているという方がありますが、これは臨床的にみて、果物は決して野菜の代用にはなりませんから良く覚えて下さい。その上もう一つ恐ろしい事は、果物にはものすごい農薬汚染があるのです。安全な果物は無い位です。特別に栽培をしているところ以外ですよ。特別に無農薬でやって下さるのは別として、市販の果物で危険でないものは無いといってよい位だから、赤ちゃんには果汁を飲ませては駄目です。危険です。良く肝臓を腫らしたりしてきますよ。それでは赤ちゃんにはどうしたら良いかというと、畑のない方はプランターでもよいですから良くできる、例えばケールとか三つ葉とかをつくって、その葉を取り、すり鉢ですると青汁がでます。これは果汁の10倍以上の値打があります。赤ちゃんは喜んで飲みます。大人が飲むと青臭くて嫌だけれど、子供は喜んで飲みます。私の孫でもちゅうちゅう飲みますよ。レタスでもよいです。ほうれん草とふだん草はしゅう酸が入っているから、具合が悪いです。ケールというのはキヤベツの原種です。バナナも非常に農薬を使いますから危険です。ちょっと話が横にいきましたが今は欠乏という話なんです。生活の中で海藻、菜っ葉、芋、豆を忘れないように、いわゆるミネラル、ビタミンという要素を出来るだけおあがりになるように。今はこれを忘れるので、骨が柔らかくなり駄目になるのですよ。それからもう一つ今の子供さんは甘いものを良く食べますね。白砂糖を沢山撮りますと、幾ら良いものを食べていても全部パーになります。ことに恐ろしいのは飲み物です。コーラとかジュースとか、あれは1缶の中に20g位砂糖が入っていますから極量ですよ。それを2本も3本も飲んでいては、もう骨は駄目になってしまう、血液も駄目になる。これに気をつけて下さい。甘いもの、特にチョコレートなども良く気を付けて下さい。今子供から甘いものを減らすだけでも病気は減るのです。

 

近代農法

 

もう一つの問題はたとえ野菜を食べても、その野菜が化学肥料だけで作ってあると、栄養価値が非常に落ちるのです。私は畜産の所で昭和27年に随分調査をやった事がありますが、化学肥料だけで作った牧草で牛を飼いますと、非常に乳房炎が多くなった上に、受胎率が低くなって、肉牛の所では採算が取れないという事態が起こる場合もあります。だから化学肥料ばかりで作った近代農法、あれは良くないです。あくまで有機農法で作ったものでないといけないし、それから農薬の問題は後から申し上げますが、農薬は極力避けねばいけない。こういう事を注意して下さい。

それから施設園芸を盛んに今政府が補助金をだして勧めていますが、こんな愚かな事はないですよ。季節はずれのものを、そして公害を出して作った電気を多く使い、ビニールを使ったりして、その上あれは栄養価値が低いですからね。そして農薬の使用量も多くなりますから、なるべく季節のもの、旬のものをおあがりになる事をお勘めします。ハウス野菜はなるべく食べない事。大体やはり人間は自然から離れたら病気になります。おもしろいものですね。夏出来る物は人間の体を冷やすようにできていて、冬のものは人間を温めてくれます。随分それを感じるのです。僕の地方では季節はずれの苺がよくみられるのですが、往診に苺をやっている家に行くでしょう、すると冬の二月頃に珍しいでしょうと云って苺を食べさせてくれるのです。食べなきゃ悪いから食べるのですが、その帰り道寒いですよ、本当に寒い。ところがみかん農家にいきますと、みかんを食べさせてくれる、寒くないんです。温度はどちらも同じなのですが寒くないのです。やっぱり苺は体が冷えるのですね。だから季節のものがよい訳です。俗に「夏の餅は犬も食わず」といいますが、これはやっぱり体が要求しないのでしょうね。体が要求しないものを食べるのは良い事ではなく、自然から離れると駄目になるのです。だから季節はずれの、農薬を多く使うようなものを作るのに、大変な補助金を出すという事は民族を忘れた、経済しか考えない、良くない事だと思うのです。そんなものですからこちらの「くらしの会」では、有機農業と結びついておられる事は非常に結構な事と思います。

   (以下、次号に続く)

 

 

 

 

日本の農薬事情

 

日本は世界でも有数の農薬大国という事をご存知でしょうか?日本では、野菜や果物は国産なら安心と思っている傾向があります。しかし、国産というだけで安心してはいけないのです。

日本は農薬使用の基準が緩いのが現状で、驚くことに主要国では農地面積当たりの農薬使用量は中国に次いで第2位です。この使用量はフランス・ドイツの3倍、イギリスの4倍、アメリカの5倍、インドの30倍にもあたります。EUは政策により意図的に農薬を減らしています。それなのに、先進国と言われる日本は中国と農薬使用量はあまり大差がないという状況です。海外では自国では禁止されている農薬を輸出し、それを規制の緩い日本が輸入して使用する、という耳を疑うようなことが行われているというのです。日本は農業の後進国と言わざるを得ません。

スーパーに行くと季節を問わず色々な野菜が並んでいます。もうすぐ旬を迎えるきゅうりやトマト、ナスなどの夏野菜なども年中手に入ります。温度や日照量を人工的に管理して、自然環境では育たない作物を育てる促成栽培のビニールハウス栽培などは、一見害虫から守られている栽培法のように見えますが、ナスは72回、きゅうりは50回、トマトは40回、と地域や時期によっても変わりますが、驚く程の回数の農薬が使われています。もちろん農薬が大量に使われるのは、促成栽培だけではなく一般の露地栽培でも同じです。

これは、消費者は虫食いのあるものや形が不揃いな野菜を購入したがらないということも原因の一つとなっています。例えば、化学薬品や化学肥料を使わず自然栽培されたきゅうりは形が不揃いで少々曲がっていても味に変わりはありません。工業製品のようにすべてが同じ大きさや形をしている方が不自然なのです。大根などの根菜類も地上に出ていないため農薬の使用量は少ないと思われがちですが、化学肥料で育った作物には土の中でも虫がついて肌が汚くなるため、土壌消毒が行われています。それは微生物や益虫までも殺してしまいます。そうして栽培された作物を食べて健康でいられるわけがありません。「農薬は野菜を水につけておくと流れ出るので害はない」などという人がいますが、そんなことは決してありません。知らず知らずのうちに口に入ってしまっていても、すぐには影響が出ないのが残留農薬の厄介なところです。農薬の毒性には、発ガン性や胎児の奇形、遺伝子の異常など徐々に影響が出て来るもの、ひどい時にはめまいや吐き気、皮膚のかぶれ、発熱、のどの渇きといった身体的症状など農薬中毒症状が現れることもあります。それは身体面ばかりではなく精神面にも及びます。

農薬には様々な種類がありますが、最近特によく使用される除草剤の主成分であるグリホサートや有機リン系農薬に次いで作られたネオニコチノイド系農薬による人体汚染が急増しています。

ネオニコチノイド系は無味無臭無色であり、浸透性、残効性、神経毒性の3つが特に人体に悪影響をもたらすとされています。これは子供の発達や大人の神経系の病気を引き起こすことなどが報告されています。除草剤のパラコートは強い毒性に加えてパーキンソン病との関連が疑われ、EUは2007年に域内での使用を禁止し、アメリカでも特に危険とみなされる農薬を禁止する法案が議会に提出されました。そうした規制強化の結果、行き場を失った禁止農薬が日本に向かったり、日本から海外に輸出できなくなった農薬が、国内の消費に回されたりする可能性があります。

未来の子供たちが心身ともに健やかに過ごせるよう、安全な食べ物を自分の目で見極め選んでください。

 

 

 

農場便り 6月 

 

新緑の季節を終え、山々は深く大きな生命の息吹で満ち溢れている。初夏の鳥「カッコウ」の鳴き声も山々に轟き、目を閉じると頭の中には高原の夏が広がる。

遡ること一ヶ月、ゴールデンウィークを目前に異常な熱気が農場を包み込む。まだ4月下旬の作業中、額にはまるで真夏のように汗が流れ、その量たるや冬体内に貯め込んだ毒をデトックスしてくれたかのようである。秋から冬の季節には快適な長靴も、この暑さで蒸れに蒸れ、不快感に我慢ならなくなる。快適な作業用の地下足袋をと倉庫内を探してみてもどこにも見当たらず、昨年の冬に擦り切れて穴が開いたため、処分したことを思い出す。帰宅途中、労働者の強い味方「ワーク〇ン」に立ち寄るが、今まであった商品は棚から姿を消していた。一抹の寂しさを感じるも、「ならば、ネット販売に頼らねばならぬ」と帰宅後、早速インターネットで検索する。そこで目に留まった農業界の最高級履物「力王」。地下足袋13枚の金のハゼが付くブランド中のブランド品。「これでひと夏快適に農作業に従事できる」とほっと胸を撫で下ろし、3日後に無事荷物が届く。真新しい箱から光り輝く地下足袋を取り出し、先が2つに分かれた履物に太い足先を入れる。ピッタリの27㎝、13枚のハゼを恰好良く留め畑に立つ。グッと引き締まった足先は、これから始まる初夏作から真夏、晩秋まで雨の日以外の作業では私の身体の一部となる。

真新しい地下足袋を履き畑へと向かう。畑には春先に定植を行ったレタス各種が育つ。結球レタスは長らく作付けしていなかったため久しぶりの栽培となるが、その割には順調に育っている。中でもリーフレタスの生育には目を見張るものがある。レタスは土壌の環境を整え、好気性完熟堆肥を使用した栽培は、健康で元気に育つ。

5月下旬からレッドリーフレタスの収穫が始まり、大きく育った株を根元からバッサリと収穫ガマで刈り取る。このリーフレタスより半月前にはサンチュの収穫も行った。サンチュは韓国語、西洋ではこれらすべてをカットレタスと言うそうである。現在、このカットレタスの栽培は、工場生産化されつつあり、かなりの量が一般市場で販売されている。土に植えられることなく、液体肥料が流れる台の上で、上部から人工の光を当て栽培される。そこには真の生命が宿ることなく、大自然の中で太陽の光を浴び、土中の生物と共に育った作物とは別物であると考えている。これから活躍する若い人たちが生命力のない野菜を口にすると思うといたたまれない思いになる。一人でも多くの方に葉肉厚く、栄養分をバランスよく含む大自然からの恵みを、高温多湿となるこれからの季節に冷やしたサラダでお楽しみいただきたい。しかしこれらのレタス類は残念なことに暑さに弱いため、7月までの収穫となる。そのため栽培実験を行いながら、少しでも長い収穫を目標として栽培を行う。

ここで少し、レタスの栄養価について書かせていただく。レタスはその90%が水分のため、栄養がないと思われがちだが、実際には様々な栄養がバランスよく含まれている。レタスは大きく分けると、結球レタス、葉レタス、立ちレタス、茎レタスと4種類に分けることが出来る。食感もパリパリしたタイプと柔らかいタイプがあり、種類ごとに含まれる栄養素も変わる。

結球レタスはボールのように丸い球状になるレタスで、玉レタスやサラダ菜も結球レタスに含まれる。その中でも玉レタスは淡色野菜、サラダ菜は緑黄色野菜に分類される。玉レタスは他の品種と比べて栄養の含有量は低めであるが、それぞれの栄養がバランスよく含まれており、シャキシャキした食感が特徴的で、サラダなど生で食べる他、加熱調理にも向いている。

葉レタスはリーフレタスやサニーレタス、サンチュ、フリルレタスなど、球体状にならず、葉が開いて生長するレタスである。これらは緑黄色野菜に分類される。玉レタスと比べると、カリウムは約2倍、カルシウムは約3倍、βカロテンは約8倍、ビタミンCは約3倍の量になる。サニーレタスには、カルシウムや葉酸、食物繊維が多く含まれるため、貧血や便秘の改善にも効果的である。葉酸は細胞の分裂や成熟にかかわるビタミンでもあるため、特に妊娠中の積極的な摂取が推奨されている。葉は柔らかく苦みも少ないため、骨や歯を丈夫にしたい成長期の子供も食べやすい品種である。

サンチュはレタスの中でもβカロテンの含有量が最も多く、ビタミンKも多く含まれる。ビタミンKは骨粗しょう症の予防に効果的な脂溶性ビタミンである。サンチュは肉や野菜を巻いて食べるのはもちろん、炒め物やあえ物にしても美味しくいただける。βカロテンやビタミンE・Kなど、脂溶性の栄養素は油と一緒に摂ることで体内に吸収されやすくなる。そのため、レタスを食べるときはオイルと一緒に食べるのがおすすめである。

また、レタスに含まれるビタミンC、葉酸、カリウムなどの水溶性の栄養素は、水洗いするときに流れやすいため注意が必要である。レタスの葉はちぎってから洗うのではなく、大きい葉のままさっと洗ってからちぎると、栄養の損失を最小限に抑えられる。また、葉をシャキッとさせるために水につける場合も、出来るだけ短時間にとどめた方がよい。

5月上旬、山芋の植え付けを行う。今年は天候により半月遅れてしまった。土中にプラスティックの板を入れる栽培は今年で2年目となるが、1年目は反省点も多かったため本年の栽培は、それを考慮しながら種芋を丁寧に植え込んだ。山芋栽培には堆肥などの肥料はご法度で地力だけでの栽培を行う。「細かく耕した畑土に溝を切り、その中にプラ板を敷き、種芋から出た主根をそのプラ板に沿って導いてゆく」という方法であるが、中々思い通りに伸びてはくれない。山芋の植え付けは約200m、晩秋に大きな山芋を掘り上げる自分の姿を思い浮かべながら作業に励む。

山の畑の倉庫では、この時期の風物詩となってしまったイタチの子育てがまた今年も始まった。終日ガサガサし、日が経つにつれ母親を呼ぶ鳴き声が大きくなるため、うんざりすることも多々ある。イタチの母親が、終日我が子へと食べ物をせっせと運ぶ日が約2ヶ月続いた。5月27日夕刻、作業を終え道具を抱え鼻歌交じりに一日の疲れの気怠さを味わいつつ、倉庫へ戻る。倉庫内の高い所には太い鉄骨が走っている。その上を子イタチを咥えた親イタチがウロウロ、巣離れがいよいよ始まった。今年は偶然その場に立ち会うことが出来、明日からは、また静かな日を送ることが出来るかと思うと、うれしさ半分、寂しさ半分と微妙な心境となった。

春先にヒヨ鳥に外葉を食害されたキャベツもリカバリーし、中心部に大きな球が出来、葉は雨足が強くなったこの時期の雨に洗われる。鳥害に遭っても正しい栽培を行うことにより、十二分に収穫はさせていただくことが出来る。道を誤らず正しい道を進む、これが「天道、人を殺さず」という事であろうか。しかし、多種栽培を行う中にはどうにもならないこともある。その時はそれを素直に受け止め、少しの愚痴を言いながら反省をする。

初夏の風の中、カッコウが山々から鳴き出す。この頃には春キャベツから夏キャベツへと姿を変える。カッコウの鳴き声を耳にしながら季節の変化を感じ、頭には耕人が愛する北アルプスの山々の峰の姿が浮かぶ。昨年定植した春キャベツや夏キャベツ畑、目につく青虫は取って草むらへ捨てるが、そんな事では追いつかずモンシロ蝶が乱舞する。今のキャベツは柔らかく、青臭みがなく香り高く美味しい。レタスと共にサラダで食していただきたい。

大地はレタス、キャベツと共に赤玉ねぎ、ニンニクも育ててくれた。赤玉ねぎの大きな赤い球が地表に姿を現した。茎が折れた時が収穫時のサイン、一気に大地より引っこ抜き並べてゆく。2~3日かけて地干しを行い、茎を切ってコンテナに入れ畑から運び出す。風通しの良い軒下で半月ほど乾燥し、冷蔵庫の中へ。4℃で貯蔵し、形を整え逐次出荷をし、皆様の下へお届けする。ニンニクも同じように収穫、乾燥してから出荷するが、近年は収穫時期に雨が多く、収穫のタイミングを計り難いため頭を抱える。気温の上昇と共に雑草も強くなり、これもまた大変である。堆肥場へと続く道の両側にも大きく草が伸びる。畑作業の合間を見計らい草刈り機で草を刈る。アクセル全開で大きくなったカヤの株を根こそぎ刈り取り、有機農業の心臓部ともいえる堆肥場を死守する。一歩間違えれば谷底へ落ちてしまう危険があるため、堆肥場への出入りが安全に行えるよう道を整える。その道の先には健康な作物を作るための源ともいえる堆肥が大量に積み上げられ、出番を待つ。「幸せになりたい」皆そう思っているだろう。しかし、目先の幸福ばかり追い求め、未来を生きる子孫のこと、環境のことを大きな目で見ることが出来なくなった結果、農薬や化学肥料、食品添加物が生まれ、公害という黒い霧が世界を覆ってしまった。人は人によってのみ生かされているのではなく、全ての生物、自然によって生かされていることを今一度考えて頂きたい。

間もなく梅雨を迎える。お日様は西の山に静かに落ちてゆく。これから夏に向かい、一日が嫌になるほど長くなってゆく。日は落ち、まもなく7時になろうとする夕刻、山の農場の林からフクロウの鳴き声が聞こえる。周りの山々から聞こえてくるフクロウやアオハズクの寂しげな鳴き声に、耕人は人恋しさを覚え帰途に就く。これから迎える日の長いシーズンと共に蚊、アブ、ブヨと三大農民の敵に悩まされる暑い日々がやってくる。夏野菜の栽培実験を行う猛暑の中、本腰を入れ全力で夏の農に向き合う日々が始まる。

蚊より鬱陶しい飛蚊症に悩む耕人より