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慈光通信 第214号

2018.4.1

患者と共に歩んだ無農薬農業の運動 12

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1991年1月 日本有機農業研究会発行の「梁瀬義亮特集」に掲載されたものです。】

 

自然が教えてくれる農法

 

今、申しました通り有機農法というのは、自然が教えてくれる農法であります。生態学的農法です。ところで私たちは大きな錯覚に陥っています。というのは先程も申しましたように、生命体が個々独立に、断絶して生きることが出来ると思っている大きな錯覚です。
私たちの生命は、多くの生命との関連の中においてしか生きることができないのです。生かされ、生かし、そしてまた生かされる、という関連が私たちの生命体の姿です。これを理解することが有機農法の最も大事なことであると存じます。
「有機農法をやるといったって、そんなに資源(有機質)がないじゃないか」とおっしゃる方がいますが、とんでもないのです。資源は無限です。私が一番理想に思うことは、都会のゴミを、あのぼう大なゴミを堆肥にして、日本の大地に返すことです。日本の都会のゴミを全部堆肥にすることは、現在の細菌学の知識と工業力を利用すればわけないことです。これを国営の処理場でどんどんやれば、ゴミ、し尿、全部立派な堆肥になって、それが日本の土地に返すことになれば、農民はそれを田畑に捨てるだけが仕事ということになると、農作物はどんどん出来てくる、都会の人も美味しいものが食べられるのです。
小さいことは皆さまのご家庭で出てくるゴミを、自分の小さな畑の隅へ穴を掘って埋ける。ただし深く埋けてはだめで、穴を掘ってゴミを放り込んだら、それへ農業用石灰を混ぜ、それに土を少し混ぜ、上からビニールのフタをしておきます。
そして月に1回ぐらいかき回しておけば、半年も経てば立派な堆肥になります。それを畑に放っておけば、もう肥料なんか買う必要はない、いくらでもできます。
このように、小は各々ご家庭から、大は全日本が、大小便、ゴミを国家資源であるということを理解しなければいけない、と思うのです。
こういうことを小学校から、「ゴミを大切にせよ」と徹底的に教育するのです。出てくるゴミは全部堆肥にして、これを日本の地に返せば、実に立派な農作物ができ、これによって国民の生命が健康であり幸せであるならば、少々予算が赤字を出しても価値のあることです。そのための国民の税金ではないでしょうか。国民の生命のための税金です。(会場から拍手)
以下、次号に続く

ほっこり体を温めて

いよいよ本格的な冬の到来です。今年の冬は一段と寒さが厳しそうですが、寒いときには暖房のかかった部屋でじっとしていよう・・というわけにもいきません。
体が冷えると血流が悪くなり、風邪をひきやすくなったり病気を引き起こすこともあります。まずは規則正しい生活で健康な体を作るということが基本ですが、寒いときには体が委縮してしまいます。
体を温めるには運動やヨガ、ストレッチなどで体を動かして温める方法や食事や飲み物で体の内から温める方法があります。
運動
一番効果的なのは体を動かすことです。筋肉を使うことで熱が発生し、代謝や血行が良くなるので体が温まります。しかし、激しい運動は必要ありません。簡単に首をぐるぐる回したり、手のグー、パー運動だけでも効果はあります。
食事
食べ物には体を温める食べ物と冷やす食べ物があります。温めるものは冬が旬で寒冷地、地中で育つもの、暖色系、水分が少ないもの、発酵食品です。例えば人参やジャガイモなどの根菜類やネギ、かぼちゃ、納豆など色々あります。生姜や唐辛子などの香辛料も体を温めてくれます。寒いときに温かい鍋料理をいただくとほっこりしますね。
冷やすものは、夏が旬で南国育ち、寒色系、水分が多いものです。トマトやきゅうり、ナス等です。また、冷たいものはたくさん取らず、体温以上の食事を心がけましょう。
飲み物
よく飲まれている緑茶やコーヒーは、カフェインが含まれているため体を冷やす飲み物に含まれます。逆に体を温める飲み物の代表としては生姜湯やココアがあり、血管を広げて血液の循環をよくする効果があります。
食事や飲み物により体の中からあたためることで、表面だけでなく体の芯(内部)からあたたまることができるので、時間が経ってもからだが冷えにくくなります。

 

もちろん冷えた部分を温めるのは一番身近な方法です。それでは実際にどこを温めればより効果的なのでしょうか。間違ったところを温めてもあまり効果はありません。ポイントを絞って温めるとより効果が得られやすくなります。

 

冷え症の方にお勧めする、温めたい体の部位は

首の周りは体の中で一番寒さを感じる部分です。体温が逃げやすく、太い血管が通っている首周りを温めることで血流が良くなり体全体が温まります。温めることで、肩こりが改善され血液環境も良くなります。
身近にあるストールやスカーフなどを上手に使ってみるのもいいですね。

おなか

内臓を温めることにより、臓器の働きが活発になり血流も良くなります。

腰には下半身の神経や血管が集中しています。腰を温めることで血流も良くなるので腰痛を持っている方にもとても効果的です。ですが、炎症のある腰痛などには温めない方がいい場合もありますのでご注意ください。

太もも

意外なことに太ももを温めると効果があります。太ももは第2の心臓とも呼ばれ、血液のポンプの役割を持っています。また、下半身の大事な血管が多く通っているので、その血液を温めることで全身に温かい血液が送られ全身が温められるのです。

手先には細い血管が通っているため、血流が悪くなり冷えに繋がりやすくなります。手袋をつけたり、指を動かしましょう。

外の冷たい空気に触れると頭から熱が逃げ、体が冷えてしまうので帽子などでの防寒対策がおすすめです。

ふくらはぎ

体の冷えはふくらはぎから始まっています。ふくらはぎから足首にかけて徐々に冷えていきます。長いソックスやレッグウォーマーなどがおすすめです。優しくマッサージして血流を良くすることもいいですね。

また、入浴も効果があります。入浴するときには熱いお湯ではなく38℃から40℃くらいのぬるま湯に、15分から20分位浸かると効果的です。熱いお湯に浸かると体の芯まで温まらず、お風呂から上がったあと体が冷えてしまいますが、ぬるま湯は体の隅々まで温まる効果があり、温かさが持続します。
色々な温め方がありますが、どれも簡単にできることです。是非、寒さの中でも快適な生活をお過ごしください。

農場便り 12月

小雪から大雪へと季節は流れる。11月下旬より色とりどりに美しく彩られた山々の木々も北風にさらわれ、枝だけの寒々しい姿へと変わった。最近年を重ねると共に1日が短く感じられる。「無駄な日々を過ごしていると人生の終わりはむなしくなる」と父が生前よく口にしていた。若い頃にはあまり実感がなく聞き逃してしまった言葉ではあるが、月日が流れ、この年になると晩秋の風景と共にしみじみ思い出される。
小春日和の心地よい昼下がり、緑深い葉の奥に隠れ、柔らかい日差しを受けて光る黄色い柚子の実が目に入る。大きく成長した木に柚子がたわわに実り、収穫を待つ。腰にビクを付け、脚立にまたがり、はさみで一つ一つ大切に切り取る。収穫が進むにつれ、柚子の香が山の畑を包み込み、一面の和の世界を作り出す。柚子の香りは、他の柑橘類にはない奥深い品の良さがあり、日本の食材をより引き立たせる。椀にたっぷり張られた出汁に一片のゆず、湯気と共に立ち上る香りは冬の醍醐味である。しかし、このゆずは見た目と香りとはうらはらに収穫の際には大変な困難が伴う。ゆずの樹形はとにかく上へ上へと伸びようとし、高所に良質の実を結ぶ。そのため収穫は高所での作業となる。さらに枝には鋭利な2cmほどの棘がまるで不審者を拒むかの如く天に向けてきらりと光る。葉をかき分け美しい果実に手を伸ばす。果実の周りの護衛の棘が私の掌をブスリ、手の甲もブスリ。木の奥まったところに深く入ると頭や顔にもブスリと突き刺さる。薄手のナイロン製のヤッケは見る見るうちに穴だらけ、時にはカギ裂きにさえなってしまうこともあり、ゆずの収穫日には農場では意味不明の叫び声がこだまする。それでもめげることなく、秋に拾った銀杏とのコラボレーションを頭に浮かべながら作業を進める。
冬の作物の収穫が始まる。例年ならばところ狭しと並ぶ冬野菜であるが、本年は少し様子が違う。原因は10月22日、29日に日本を襲った台風にある。一度目の台風が来て以来、晴天は少なく小雨の日が続く。大地は乾くことなく、土中の水分は飽和状態となった。そこへ追い打ちをかけるかのように次の台風が本土に接近、また雨雲を引き連れ南の海上を進む。もう既に大地に雨水を吸い取る力はなく畑全体が池と化した。水中で作物が水中花の如くゆらゆらと揺れる場所さえある。和歌山の知人の畑は、支流が氾濫し多量の野菜が泥水に押し流されてしまった。今回の台風は、私が20代の頃、台風による大雨で山が崩れ、多量の冬野菜が生育途中ですべて駄目になってしまった時のことを思い出させる。
水分過多に弱い野菜にまず白菜があげられる。水が引いた後に根腐れが起こり、弱った体には大量の害虫が発生する。8月12日に播種をした白菜の50パーセントは食害に遭い、見るも無残な姿となった。難を逃れたものにも虫による食害があり、少し風通しの良い白菜となったが、何とか収穫にこぎつけることができた。冬の冷たい風が吹き抜ける白菜を使って暖かい鍋を囲み、寒い冬を乗り切っていただきたい。
他の作物にも目を向ける。あの豪雨をものともしない作物にセロリがある。大量に降った雨は甘雨(※草木を潤し育てる雨)となり成長を続ける。大量の堆肥と大量の雨水をエネルギーに変え大きく育つ。本年のセロリは太く大きく育ち、セロリ好きの私にとってうれしい限りである。泡立つ飲み物との相性も良く、減塩どころか増塩、そしてマヨネーズをたっぷり、ダイエットは後回し。大きな口を開けてガブリ、その至福の時間は夏の猛暑の中での辛い作業をも忘れさせてくれる。セロリの一夜漬けも又うまし!である。しかし、この強きセロリは寒さにはめっぽう弱く、12月中旬には収穫を終え、一部を冷蔵庫に移動して保存する。年に一度のセロリの期間を皆さまにもぜひ楽しんでいただきたい。
一方、敵にメッタ切りにされさらし首となった白菜のとなりではキャベツ、ブロッコリーが育つ。白菜に比べ幾分かは水分過多には強く、虫と闘いながらも何とか無事に収穫を迎えた。現代人の食生活で一年を通じて使用するキャベツは全国で栽培されている。しかし、使用する農薬は年々増え、産地であるほどその使用回数は驚くばかりである。完全無農薬栽培でのキャベツは極々少なく、減農薬か特別栽培なるものが多く、あいまいな作物が横行している。当会の作物はすべて長年無農薬で培われてきた清らかな大地からのいただき物である。であるがゆえ、中から虫が顔をのぞかせることもある。その時は驚くことなかれ、じっと虫と目を合わせ、これもまた大自然のなせる業と忖度していただきたい。
ブロッコリーも11月で第一弾の収穫を終え、第二、第三へと進んでゆく。収穫作業と並行して次の野菜の植え付けも行う。土作りから始まる作業はいつものように。まず堆肥を畑にまき、石灰を少々、そして耕運と進み、最後は真っ直ぐに立てた畝の上を平らに整地、2週間(気温の低い時期のみ)で苗の定植となる。10月下旬に植えられたニンニクもかわいい小さな芽を出し、日々成長し、12月中旬からは休眠に入る。ニンニク定植の後、来春用のキャベツ、ブロッコリーの苗を植え込む。寒い時期、小さな苗を食する不届きものの影も見えず、安心して成長を見守る。寒い中、目に見えるほどの成長はないが、根は土中深く広く成長する。11月下旬、たっぷりの堆肥、石灰、少々の油粕と米ヌカを入れた地に玉ねぎを定植。細いパイプで穴を開け、一本一本田植えのように苗を挿してゆく。数が半端ではない玉ねぎの定植は、腰の痛さにうんざりし、手先だけでの数のこなしを求められ、「これは大の男が行う作業ではない」と私の固定観念にますます磨きがかかる。
夕刻、昼の暖かさが冷気にかき消される頃、西の空はオレンジ色に染まる。最近設置された防災用の大きなスピーカーから「夕焼け小焼け」の曲が流れる。風のいたずらか、音の外れた不協和音が耳に届く。この雑音に近い音が美しい晩秋の風景が織りなすノスタルジックな感情を一気にかき消す。
最後に地味な里芋と金時人参を。草除けマルチをめくり渾身の力を込めて大地にスコップを蹴り込み、大きな株を掘り起こす。里芋の株基は白い根に囲まれ、大量の畑土と共に可愛い子芋が顔を出す。重い株を持ち上げ、地上にドスンと叩き落す。畑土はバラバラに砕け、たくさんの子芋が姿を現す。腰を落とし、株に向かって力道山並みの空手チョップを見舞わせる。株が割れ、親芋から離れた子芋を拾いコンテナへ。チョップから逃れた子芋をめがけ再びチョップの嵐に続いてのパンチ。年甲斐もなく力任せに行う作業に手はジンジンと痛みが走るが、負けることなく残りの株と死闘を繰り広げる。戦いはコンテナがいっぱいになると同時に終了のゴングが鳴る。
金時人参は年に一度の出番が間近に迫る。これまた地味ではあるがおせち料理に欠かせない食材で、今は色あせた初冬の畑でじっと出番を待つ。
多くの種類の野菜の通年の作付けを行った。大自然の恩恵で大きく栄養価高く育ち、私たちに健康と安らかな日々の生活を与えてくれた。しかし、中には大きく育つことなく淘汰されたものもあり、これもまた大自然のなす業と学習し次の栽培へとつなぐ。
今日も美しい風景が一日の終わりを告げる。日中おとなしくしていた北風が落ち葉を巻き上げながら畑に舞い降りる。セロリの収穫が本日の最終作業となり、太い株をカマで切り取り大コンテナへ。大きく育ったセロリは首を曲げてコンテナに収め、平和な一日はセロリの香りと共に終了した。トラックの荷台いっぱいの野菜と共に帰途につく。倉庫では岩手出身の真っ赤なリンゴが笑顔いっぱいで迎えてくれる。ささやかではあるが平和と安らぎを感じる。
力で世界の経済を支配しようと日々あたふたしている哀れな首長よ。平和な一日の終わりを感謝の気持ちで迎えたことがあるだろうか。世界で一番貧しくつつましやかに生活するウルグアイの大統領ムヒカ、富が人間の価値を決めるとするトランプ、両氏の顔には自身の心が映し出されている。トランプさん、あなたに真の力があるなら未だ来ぬ世界の平和にその力を。采配を間違えてジョーカーにならぬようにと心から祈る。
この一年、当園、当会協力農家の作物にご理解ご協力いただきましてありがとうございました。来る年も「無農薬だから」という言葉に甘えることなく全力で学び、努力して参ります。来年も皆様にとって健康で幸福な年でありますよう心より願っております。

 

すべてに感謝の農場より