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慈光通信 第209号

2017.6.1

患者と共に歩んだ無農薬農業の運動 9

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1991年1月 日本有機農業研究会発行の「梁瀬義亮特集」に掲載されたものです。】

 

 

近代農法の欠点

 

自然の教える農法とは、それはどんなことか。この農法はどこに正しいところがあり、したがってどこに近代農法の誤りがあるのかと申しますと、およそ生命体というものは孤立してはなく、大自然全体及び大自然の個々の構成要員と密接な関係においてのみ存在するものであります。みなさまがお召し上がりになっているものは、みな土の中の数限りない微生物、ミミズとかのいろいろなものとの関係においてできる植物でできているのです。
だからお日さまもお月さまも、空気も水も、あるいは大地、大地に住む数限りない微生物も、地上に住む人間同士、人間と動物、あらゆる生命体は密接な関連において生きているのが生命の本当の姿です。孤立ということはないのです。
ところが、近代農法は、あるいは近代的な考え方は全体について言えるのですが、一個のものを引き抜いて孤立させ、断絶させ、これを分析してデータから逆に生命体を追及してゆくという、生命の連関を忘れた、生態学的な現実の存在を忘れた原理の上に立つところに欠点があると考えます。
だから個々に取り出して分析し、再び集合せしめ、復元できるものを対象にした工業の世界では人類は成功した。
しかし、相関関係においてしか理解できない分野即ち、生命が関与する医学、農学、政治、経済あらゆるものにおいて決して人類は成功しておりません。断絶という前提を離れて生態学的にものを考えなければいけない、ということだと思うのです。化学農法(近代農法)のもつ欠点もそこにあります。
もっとはっきりいうなら、機械の世界ではバラバラにして、それをまたひっつければもとのものができます。しかし生命体は、バラバラにしてもとのようにひっつけても、もとの生命は出てきません。
ここなのです。化学農法といわれるリービッヒ派のものの考え方は、そこに大きな欠点があるのです。
そこで有機農法というのは、いうならば生態学的な存在である生命を正しく認識して行われる農法ということです。というと話はむずかしいようですが、実はこれは人類が何千年もの間行ってきた農法で、その結果、大地はいつまでも人類に食物を提供する力を失わなかった農法といえるのです。
この農法は一言でいえば「土から出たものを土へ返す」農法なのです。
あらゆる土から出た有機質を必ず土へ返してやる農法です。しかし、ここにその返し方があるのです。この返し方が分からなくて、私たちはずいぶん苦労しました。

 

 

以下、次号に続く

 

 

日焼け対策始めていますか?

 

強烈な紫外線が降り注ぐシーズンとなりました。一歩外に出ると肌が紫外線を浴びます。人間の皮膚は大量の強い紫外線を浴び続けることによって刺激を受け、メラニンが過剰に作られ、シミやそばかすとなって現れます。また、長期的に見ると遺伝子の中で細胞が異形化し、皮膚ガンの原因になるともいわれています。
紫外線にはA波とB波の二種類があります。まず、A波は窓ガラスも通過し、曇りの日でも肌の奥まで届き、シミや黒ずみ、しわ、たるみなどの原因となる紫外線です。
B波は、ガラスは通しませんが、肌にヒリヒリと赤く炎症を起こし、日焼けやシミの原因となる紫外線で皮膚ガンの原因になるともいわれています。
1年のうちで一番紫外線A波が強いのが5?6月、B波のピークは7?8月です。しかし、それ以外の季節も安心してはいられません。紫外線が肌や健康に及ぼす影響を考えると、紫外線対策は1年を通して必要です。
もともと人類は日陰や服装などで強い日差しを避ける工夫をしてきました。紫外線を防ぐには、日傘や長袖などで直射日光を防ぐことが一番といえますが、オゾンホール等の影響で紫外線量が増えている現在は、シミ、ソバカスなどの防止などには日焼け止めクリームも欠かせないものとなっています。
しかし、過剰に化学物質を含んだ日焼け止めの使用は危険です。市販されている日焼け止めのほとんどに、皮膚ガンを起こす可能性がある成分が含まれているのです。日焼けによる皮膚ガンのリスクを避けるための日焼け止めで皮膚ガンを起こす、何という矛盾なのでしょうか。
日焼け止めクリームの成分には、大きく分けて紫外線吸収剤、紫外線散乱剤の2種類があります。
まず、紫外線吸収剤は紫外線を吸収し、化学反応により熱エネルギーに変えて放出し、肌に直接紫外線が届くのを防止するタイプです。透明なタイプが多く、日焼け止め効果が高いのが特徴で、ほとんどが化学合成化合物でできています。主成分であるオキシベンゾンはアレルギー反応を起こしたり、ホルモン異常を起こす可能性が指摘されています。これを日焼け止めとして皮膚に塗ると、皮膚から吸収され体内に取り込まれてしまいます。ヨーロッパで行われた研究によると、日焼け止めを使用していた母親の母乳からオキシベンゼンを含む日焼け止め成分が検出され、新生児がこれを母乳を通して摂取することでアレルギー体質になったり、ホルモン異常を引き起こす恐れが指摘されています。また、パラアミノ安息香酸やプソラレンは皮膚ガンを引き起こす可能性が指摘されています。
もう一つの紫外線散乱剤は、その名の通り紫外線を反射することで日焼けを防止するタイプで、酸化チタンや酸化亜鉛などの鉱物由来成分が利用されています。これは紫外線吸収剤に比べ肌への負担が少ないといわれています。
その他に注意しなければいけないものは合成界面活性剤、防腐剤、合成の着色料や保存料、香料などです。これは化粧品や合成洗剤にも使われています。
これらの薬剤は、最近は超微粒子化しており、肌の奥深くまで浸透しやすくなっています。日焼け止めは、体の広範囲に塗るため全身の皮膚から体に有害物質が吸収されることになります。食べ物に気を使っている人でも、口に入れない場合は注意が甘くなりがちです。しかし、経皮吸収は経口吸収以上に毒性が体に回りやすく、気をつけなければなりません。
日焼けは大人だけではなく赤ちゃんや子供も同じです。注意しなければいけないのは、どの月例の赤ちゃんも直射日光には当てないこと。曇りの日でも10?15分日に当たっていただけで日焼けしてしまいます。日差しから肌を守る一番の方法は、適切な衣服を着せることです。暖かい日は腕や足を覆う軽い綿素材の服を着せ、外出の際には必ずつばの広い帽子をかぶせます。特に夏は日差しが非常に強くなる午前10時?午後3時の間の外出は避けましょう。どうしても日差しの強い場所に行かなければいけない場合は、衣服を着てもむきだしになる顔や手足にだけ日焼け止めを使うようにしてください。また、使用するときには、多くの化粧品メーカーが「天然成分を配合」「自然から抽出」などの文言を使って宣伝しますが、うたい文句に惑わされることのないよう、成分をしっかり確認して安全なものを選びましょう。

 

農場便り 6月

5月2日、八十八夜の別れ霜、元気に育った夏野菜の苗を定植する時期がやって来た。農場の周りの雑木林は陽光強く光を葉いっぱいに浴び、緑は日増しに濃くなってゆく。
5月初旬、気温は異常に上がり、清々しいはずのこの時季にも拘らず春の陽はすでに夏の日差しに近くなっている。鍬を振る額には汗が流れ、背中を伝った汗が作業着に吸い取られてゆく。朝、家を出るときに家人が持たせてくれた冷たい水筒のお茶も残りあと僅か、まもなくポットの底が見えそうである。この暑さにまだ体は慣れず、夏バテ前の初夏バテとなるも、食欲だけは一向に落ちることなく絶好調。
農場の倉庫前できゅうりを始めとして、赤、青じそ、カラーピーマン、トマト、ゴーヤ、リーフレタス、夏キャベツなどの多種、多品目の野菜苗が小さなビニールトンネルの中で本圃への定植の順番を待つ。夏野菜を定植する畑には、3月下旬から4月中旬までに大量の堆肥を持ち込み、地表が隠れるくらい全面に散布する。特にきゅうり、ナスには大量の堆肥を入れ、畑一面が堆肥の海となる。時々、「堆肥は悪臭を放つ不潔なもの」と思っている人がいるが、有機農法で使用する堆肥は完熟堆肥。堆肥を1年以上堆肥場で積み、好気性バクテリアを発生させ、そのバクテリアがアンモニア系チッソやあらゆる生の有機物を分解し無味無臭(但し、無味については経験なし)の美しい堆肥を作る。このようにして出来た完熟堆肥は作物と土壌にとっては最高の贈り物となる。良い畑は有用なバクテリアによって成り立ち、健康な作物を育ててくれる。完熟堆肥については、また後日詳しく書かせていただく。
トンネルで育てられた苗は、一本一本圃場に定植され、それぞれが過保護な生活から一変して厳しい大海原に帆を上げ船出をする。最初に定植されたキャベツ苗は、何回にも分けて定植し4月27日が最終となり、今現在は元気に育っている。元気で素直に育つ苗には油粕と米ぬかをご褒美として条間に入れ軽く中耕をする。4月22日、直接畑に播種した小松菜、大和まな、ビタミン菜、そしてサラダ水菜の条間の除草をし、ご褒美の肥料を。5月は雨が少なく土がカラカラに乾いているため、仕方がないので畑の小さな苗にホースで潅水を行う。この作業、思いの外時間がかかる。潅水の途中、雑草の群と目が合うとついつい腰をかがめ拾い取りをしてしまう。「二兎追うもの・・・」とあるが、つい他所に目を向けるのが生まれ持ったる私の性(さが)、死ぬまで治ることはないであろう。小さな小松菜が「早く水を」と呼ぶ。
3月に播種をした2017年の年の瀬に出荷予定の冬ゴボウは地上30?ぐらいに成長し、管理機による条間の草はきれいに処理したが、すじ蒔きしたゴボウの間で我が物顔で育つ雑草は道具に頼れず、ひたすら手取りが要求される。今現在、ゴボウと雑草の背の高さは同じほど、まもなく発生する梅雨前線で雑草がいち早く成長し、若ごぼうの姿を呑み込んでしまう。恐ろしや・・時期的にはゴボウを救済するラストチャンス。いつものように邪悪なまんまるお腹をグッと引っ込め、雑草群に時間と忍耐のある限り正々堂々戦いを挑む。フランスの作家バルザックは、「忍耐は仕事を支えるところの、一種の資本である」と言った。残念ながら私には資本はないようである。
5月、カラカラで高温の日々が続く。他の畑に定植された苗にもホースを引き、動力ポンプで水をやる。水圧は出来るだけ抑え、母親がわが子に母乳を与えるかのように一本一本優しく水を与える。約半月、力強く大地に根が張るまで3から4日に一度のペースで潅水を行う。きゅうり、ナス(特にきゅうり)は小さな時期には弱く、強風にあおられると地上すれすれのところでポキンと折れることがある。強風からきゅうり苗を守るため、一日も早くネットを張ろうと、杭を大地に打ち込む。メインのロープを張り、2mに一本ずつ支柱を立て、ロープに通したネットを広げてゆく。しかし他の作業との兼ね合いもあり、中々一気に作業がはかどらない。夜間に吹いた風で10本程の苗が折れ、飛び苗となってしまった。200本中の10本、「まあ仕方がないか」と気を取り直してネット張りに精を出す。湿度と水分で育つきゅうりにとって梅雨は大好物、一気にメインロープの上までツルが駆け上がる。
今現在、協力農家の川岸農園のハウスでは、既にきゅうりの収穫が始まり、有機農法を継いだご子息が日々収穫に励む。三代に亘り有機農法を実践される川岸さんに敬意の念を抱く。
5月下旬、ニオイの三大巨匠(ニンニク、玉ネギ、ニラを私が勝手にそう呼んでいる)のうちのニンニクと玉ネギの収穫を行う。これらは、近年の気候によるものか、生産地での病気の被害が注目されている。(家庭菜園での少量栽培は別として)幼苗時に発生する苗立病から始まり、ベト病やナンプ病等々でここ2、3年、産地では深刻な問題となり、枕を高くして眠れないようである。本年5月29日、葉の色が褪せ茎から腰が折れてきた。こうなると収穫のサイン、一本一本力強く引き抜く。畝を覆う黒マルチの中から大きな美白の玉ねぎが顔を現す。どんどん引き抜き、そのまま地面の上に寝かせて2,3日地干しをする。天気まわりが良好ならもっとおいて乾燥させたいところであるが、この時期なかなか難しい。
作業は進み、畝の上は引き抜かれた玉ねぎが地表を覆い尽くす。空気も一変し、玉ネギ臭に畑は包まれる。額からは汗が滴り、二重あごを伝って地上へと落ちてゆく。玉ねぎはできる限り長く自然乾燥させた後、0℃から2℃の冷蔵庫で保管される。良作のうちに終わった玉ネギ栽培、来年もさらに良いものをと願う。有機栽培された玉ねぎは刺激(辛味)が少なく、甘味に富み、栄養価が高い。ポリフェノールの一種のケルセチンや硫化アリルを多く含んだ玉ネギで血液をサラサラにし、健康維持に役立てたい。
玉ネギの収穫を無事終えた隣では、昨年の12月に定植したキャベツが暑さと乾燥に少々バテ気味。例年であれば、この時期のキャベツ畑はモンシロチョウの乱舞となるが、その姿は今年は数えるほどで、何か様子が違う。モンシロチョウの青虫による食害も外葉だけにとどまり、虫食いの外葉の中心部には大きなキャベツが結球している。今年もたくさんのキャベツを大自然の恩恵でいただくことが出来ることに感謝する。外葉が少々美しいだけで、畑でほくそ笑んでいる小さな私を大自然の神様は、ため息交じりで見ておられることであろう。
現在栽培中のキャベツは、このところの少雨のため少々収穫が遅れているが、もうまもなくお届けできる。6月、7月と2ケ月に亘り、夏キャベツとして生食や加熱用としてご利用いただきたい。
5月の農場は猛烈に忙しい日々が続いた。少々手薄のところもあったが、何とか計画したすべての野菜の植え付けと播種を行うことが出来た。これから先、まだ幾種かを播種し、苗を仕立て、畑いっぱいの作物を育てる。
6月上旬、農場から見る夕日は北西の和泉山脈に時をかけ静かに沈んでゆく。一年で最も長い日、朝からの作業は、沈まないお日様が終業を告げず長時間に及ぶ。西から吹く心地よい風、水田の幼苗の生命を支える谷水が水音を立て用水路を流れ落ちる。使用した鍬を用水路につけ一日の泥を洗い流す。
ゲコゲコとカエルが鳴き始める。西の空はオレンジに染まり、今盛りと咲くうの花をもオレンジ色に染め上げる。夕焼けに染まった西方の空から黒いちぎれ雲の黒猪(くろっちょ)が風に乗り運ばれ梅雨の走りを感じさせる。もう一度振り返り、小さな苗が大きく育つようにと願い帰途につく。
夜、ホタルを探して見たが、闇の中に姿を見ることはなかった。目を夜空に向ける。すでにオレンジに染まった夕空は消え、上弦の月が細い姿から優しい光を放つ。ホタルの光に代わり、お月様の光を仰ぐことが出来た。
トボトボと夜道を歩く。水田に張られた水の中で、カエルの鳴き声がひときわ大きく聞こえる。

 

鹿除けフェンスを飛び越えた鹿にゴボウの葉を食害された農場より