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慈光通信 第206号

2016.12.1

患者と共に歩んだ無農薬農業の運動 6

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1991年1月 日本有機農業研究会発行の「梁瀬義亮特集」に掲載されたものです。】

 

 

はじめて農薬禍の患者を診る

 

そしていろいろやっている間に、昭和三四年の二月に「野菜が原因だ」と確信するようになりました。すでにその頃は農業の知識を持っておったので、野菜が原因だとすれば「農薬だ」と思ったのですが、しかしこの真冬に農薬を使うはずがないと不思議に思って、自分で自分の考えを否定したのです。だがどうもまた疑いが起こってきて、農村を調べてまわりはじめて分かりました。出荷する時にあの恐ろしいホリドール(パラチオン)の一〇〇〇倍液を掛けて出すのが、当時当たり前のように行われていたという事実なのです。全く驚きました。これはドイツが開発した恐ろしい毒ガスを少し改良したものです。これを掛けて出しておったのです。なぜ掛けるかというと、ホリドールの作用でキャベツでもナスでも二日、三日たっても採りたてのようにピンとしていてツヤツヤしているからです。
このことを私は知り、更に調査を重ねてその結果を報告申し上げたのです。ところが残念ながら取り上げられませんでした。「いろいろと変なことをいうヤツだ。けしからんことをいうヤツだ。」といわれて、ずいぶん社会から非難を受けたのです。
けれども「放っておいたならば、まさに一大事だ。おそらくこのまま続けば、一〇年もたてば大変なことになってしまうに違いない」と思いました。
そこで協力農家を得まして個人的に運動を始めました。自分のところでたくさんパンフレットを刷って政府、国会、大学、研究所、県庁等へ送り始めたのがこのことの起りなのです。

 

「ノアの方舟運動」を提唱

このようにして私はだんだん運動を始めました。当時、私は「ノアの洪水」ということばを使いました。「第二のノアの洪水が日本に起こってきている。第一回のノアの洪水は水の洪水であったけれども、第二回のノアの洪水は毒の洪水だ。その毒の洪水が今、日本で起こってきている。はやくノアの方舟を作らなければいけない。そのノアの方舟というのは、農薬を使わない農村だ」ということで「ノアの方舟運動」というのを起こしたのです。
そしてまた同時に思いました。必ずこれは農薬を使わない農法が必要な時が、一〇年のうちにくるに違いない。農業というのは理屈だけではなく、実験が必要だから、今から基礎的な研究をやっておかなければいけない。「必ず一〇年のちはそういう基礎的なことは必要になってお役に立つことがあるに違いない」と。
そこで協力して下さる農家の方に、これはどんな方かと申しますと、農薬を使って大規模に近代農法を実践し、農薬中毒のため、一家絶滅の危機に見舞われて、私が治療させていただいた患者さんが大部分です。そういう方と手を組みまして、「農薬を使わない農法」の研究を始めたのです。いろいろとやり、いろいろと失敗しました。
ともかくだんだん分かりました。現在の化学肥料と農薬を主体にした農法は、確かに作物ができるけれども、これによってできたものは成分の欠乏した味のまずい、しかも腐りやすいものであるということです。いわゆるほんとうの自然の野菜やくだものとは、かっこうは似ているけれども違うものができてくるということです。

以下、次号に続く

 

ほっこり甘酒にこんな効果が!

寒い季節に温かい甘酒でほっと一息・・。この昔からある甘酒に色々な効能があることご存知でしたか?
まず、甘酒には酒粕に砂糖を加えて作ったものと米麹を発酵させて作ったものの2種類があります。おすすめは米麹を発酵させて作った甘酒で、砂糖を加えていないため低カロリーで、発酵させることにより自然の甘さを味わう事が出来ます。砂糖が添加されていなくても驚くほどの甘さです。また、アルコール分が含まれていないため、アルコールが飲めない人でも飲みやすいという利点があります。
甘酒に含まれる栄養素は、栄養剤として使われている点滴の栄養素とほぼ同じ内容であることから「飲む点滴」とも呼ばれています。
お粥と麹を発酵させて作る発酵食品なので、麹菌がその過程で作り出すビタミンB群やブドウ糖、アミノ酸、葉酸、オリゴ糖などが豊富に含まれているのです。甘酒は、毎日飲める栄養ドリンクのような飲み物なのです。

 

 

甘酒の効果や効能
○ 美肌効果
○ 美髪効果
○ 疲労回復

○ 腸内環境を整える

 

麹にはコウジ酸がたくさん含まれ、そのコウジ酸は美肌や、頭皮を若返らせ美しい髪を作る効果があるとされています。。
また、風邪で食欲がなかったり、体力を消耗しているときには、原料がお米なので、エネルギー源にもなってくれます。また、 甘酒に含まれるビタミンは、食事から摂取した栄養素を効率よくエネルギーにすることが出来、消化、吸収を助けてくれる消化酵素もふんだんに含まれています。口当たりがマイルドなので、のどの痛みや咳が続く時にもおすすめです。
また、甘酒はお砂糖やみりんの代わりの調味料としても使えます。甘酒を使うと、味に深みと砂糖にはないコクが出ます。

 

◇ 甘酒の作り方

〈材料〉 米麹2 米1の割合で
(米の半分をもち米にしても良い)
? 水加減を普段の3?4割増しで柔らかいご飯を炊く。
? 炊けたら、5分位蒸らしてから70℃くらいまで冷ます。
? もみほぐした麹を炊飯器の中のご飯の上に乗せ、手早くまんべんなく混ぜる。
? 混ざったら合わせたものがちょうどいっぱいになる位の器に入れ替え、クッキングペーパーやラップなどでぴっちりふたをする。新聞紙と毛布で全体をくるみ、中の温度が下がらないようにしてそのまま10時間くらい置く。
? 出来上がったものは3倍くらいに薄めてゆっくり熱を加えて温める。
出来た甘酒の日持ちは冷蔵で1週間、冷凍で1か月です。

 

他にも、簡単にお米を使わないで麹と水だけを使って作る方法や、炊飯器や魔法瓶保温して作る方法など色々あります。
おうちで何時間か寝かせた後に出来る美味しい甘酒はまた格別です。ご自分にあった方法を見つけて手作りしてみませんか。

 

農場便り 12月

 

小春日和の穏やかな日から一気に寒気が日本列島を包み込んだ。北の国では早くも雪景色となり、来年までの根雪となった。
日増しに厚くなってゆく作業着が、吹きさらしの畑の中で北風から身を守る。寒気が降りた中、ゴボウの双葉は緑濃く元気に育つ。
本年も残り僅か、畑では来年の初夏から盛夏にかけて収穫を行うキャベツやブロッコリーの小さな苗の定植を11月下旬に行った。やれやれと息をつく間もなく、夏ゴボウの除草も始まる。
10月26日 空は高く快晴、半月前から土を細かく耕し準備をしておいたゴボウ作の予定地で仕上げの耕運を行い、周りをイノシシの防御ネットで囲い込む。重い鉄ハンマーを振り上げ、杭を地中に打ち込み、ネットを2mおきに杭に止めてゆく作業は終日かかる。実に面倒な作業であるが、ネットなしでは播種後2?3日で栽培地はズタズタに荒らされ、ほぼ全滅に近い状況に陥る。
畑の周りをネットで囲み、いよいよ播種が始まる。以前の慈光通信に登場した「種まきゴンベイ」を使い、凍死する芽も数に入れ少し多めに種を蒔く。低温期ゆえ、発芽に10日以上の日を要し、一足先にいつもお馴染みの雑草が顔を出す。今まさにその雑草と名乗る野武士と一戦交えようと、耕人は除草グワを片手に畑へと飛び込む。幾万の兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、2日間合戦は続いた。私の欠点である「根気のなさ」、単純作業の時にはこれを克服するため色々な事を頭に思い浮かべることにしている。この戦もあと残り僅かとなった。
この一年を振り返る。元旦、あれこれと願い、そして旧年の反省を踏まえ、手を合わせる私である。毎年同じ願いと反省、あまりに馬鹿馬鹿しい内容にここは割愛させていただく。
1月の農場は秋冬作と不織布の下で眠りについている野菜の収穫。未だにお屠蘇気分は抜けきっていない。
2月、正月気分は完全に抜け、本格的な農作業が始まる。空いた畑に堆肥を持ちこみ中耕、春作の準備を行う。堆肥は無機質な土に生命の息吹を吹き込む。
3月、手足の凍えるような季節は去り、光り輝く春と共に農業シーズンが到来。畑を起こし畝を上げ、多種の野菜の播種を行う。本年最初の植え付け作業はじゃが芋の定植。小さく切った種芋を一つ一つ丁寧に植えてゆく。キャベツ、レタス、ブロッコリーはトレイに種を落とし、小松菜、ビタミン菜、冬どりゴボウ、赤しそ、青しそ等々。
4月に入るときゅうり、ズッキーニ、ゴーヤ、山の芋、里芋など数多くの種類の野菜の準備、と安定した日々を過ごす。例のごとく「明日があるサー」と作業をついつい先延ばしにしていた前作の夏野菜の後片付けに追い込まれ、支柱、マルチ、ネットを無我夢中で片付ける。未だ学習能力なし。
春陽を浴びた作物は順調に成長する。特に3月上旬に定植したジャガイモの成長は生命力の塊のようで目を見張るものがある。
4月中旬、モンシロチョウが優雅に畑の上を飛び回り着葉、おしりを突き出し産卵。目を凝らして見ていると黄色い極小の卵を一つずつ産み付け、それが半月後には青虫となり、野菜の葉に涼しげな窓を開けてゆく。モンシロチョウの飛ぶ忌々しい光景は終日続き、農作業はイライラの度数が上昇する。
5月、夏野菜の定植が始まる。ビニールトンネルの中で大きく育ったきゅうりなどの果菜類を中心に定植を始める。定植後、鬼のような顔で苗に気合いを入れすべて完了となる。この時期から気候が悪い方へと変わってゆく。「暑い」異常な気温、さらに畑へのお湿りがない。大量の水を必要とする田植えも始まり、田んぼに入れる水を待つ農家が増える。気温の上昇も激しく、作業着の背中には汗で抽象画を描き、それも消えてすぐに全身汗まみれとなる。この暑い中、セロリの種まきをする。
6月中旬、収穫予定であった玉ねぎがベト病に冒され全滅状態となった。外見は普通だが、中に一枚腐りが入る厄介な病気である。この現象は今年も全国各地で見られたらしい。今後の研究課題がまた一つ増えた。
7月、苗場ではすでに秋冬作の苗づくりが始まった。キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーの播種をする。まず、播種第一号は7月5日のキャベツ、続いてブロッコリー、カリフラワーが後を追う。猛暑の中での育苗には細心の注意を払う。高温のため発芽しない種、発芽すれどもいじけて大きく育たないもの、そこに加えて招かれざる客の害虫が顔を出す。この時期にお正月用の金時人参も播種をするが、暑さで芽が出ず失敗に終わる。
水分の与え方は多くても少なくても駄目で、夏季の苗づくりには苦労する。苗に向かって「暑いのは君たちだけではない!」と叫ぶ。暑さのため普段から少しおかしい頭脳に磨きがかかる。
8月、暑さの中でも無事に育った苗を圃場に定植。定植後すぐに防虫ネットで畝ごとすっぽり覆う。しかし、憎き害虫はどこからか侵入し、苦労して育てた苗を食する。合間を見て発芽しなかった金時人参を再度播種するがまた発芽には至らず。20年来この時期に作る金時人参で惨敗したのは初めての出来事で、玉ねぎと同じく全国的のようで、この時期の西洋人参もかなりの被害が出たらしい。「これも自然が相手では仕方のないこと」と肩を落とす。中旬から下旬にかけて秋作の苗は無事定植を終え、下旬には大根の播種。これまでの毎日の晴天が嘘のように雨が降り始め、来る日も来る日もまた雨となる。
9月下旬にはニンニクを定植。10月10日には雑煮大根を播種、この時期は気候も安定しすべて発芽、その後順調に育ってゆく。4月下旬に定植した里芋(石川早生)もこの時期から掘り始める。大きく育った茎や葉は元気いっぱいで、最初掘りは地下茎も小さい。「まだ小さいのにかわいそう」と仏心がわいてくるが、心を鬼にしてスコップを土に突き刺し、全力で地下茎を掘り上げる。まだ秋は遠し、額に汗が流れる。
11月、8月下旬に蒔いた白菜は大きく育ち、幾分か弱くなった陽ざしの中で成長を続ける。葉が立ち上がり中心から巻き始め、あと一カ月足らずで収穫が始まる。8月11日に播種をした600株あまりの早生白菜は11月初めからの収穫予定であったが、本年の異常な害虫の発生で虫の餌食となり畑から姿を消した。これも自然の摂理である。11月は一千株を超えるキャベツ苗の定植、最終は12月に定植。翌年5月下旬から7月下旬まで収穫を行う。冬草に負けないようこまめな管理に励む。(あくまでも予定ではあるが)
12月、10月27日に播種をしたごぼう畑に二度目の除草に入る。一度目に取り切れなかった雑草、性格上見逃した雑草、その後芽を切った雑草などを除草ぐわで削ってゆく。長靴を通して土の冷たさが伝わってくる。長い栽培時間を要するごぼうは、この時期の除草をおろそかにすると、後々大きなツケが回ってくるという事を毎年身を持って経験している。またしても学習能力がない、とならぬよう心に誓い、最後の紅葉を横目に黙々と完璧・・・?に除草を行う。中旬に最終のキャベツ苗の定植を山の農場で行い、イノシシ除けのネットを張り、すべての農作業を終える。

 

 

仕事に行く道すがら、黄金色に染まったイチョウの葉が地上を埋め尽くす。太い木の根元には、幕末に時早くして謀反を起こし、幕府に捕らわれ打ち首となった天誅組 乾十郎の墓標がある。その墓標にも黄金色のイチョウの葉が降りそそぎ、亡き人の魂を鎮魂する。
季節は初冬へと移り変わる。冬の空気に包まれた農場には淋しさが漂う。大地は生命を失ったかのように冬空の下、眠りにつく。一年、この大地により私たちの生命は保たれ、幸せな日々を送ることが出来た。その中、大地で生きる多くの生物が、我々の生命の犠牲となってゆく。生物の犠牲のもと、私たちの生命は維持される。この事を常に思い、感謝を持って食し、日々の生活を送らせていただく。「すべての生命は自ずから生きるのではなく生かされているという事を忘れてはならない。」という前理事長の言葉を胸に刻み込む。
北風が冷たい空気を運んでくる。夕暮れ、畑に立ち明日のための野菜を収穫する。大自然からの授かりものを皆様へ。本年も当会の活動に暖かいご支援をいただきましてありがとうございました。来る年も皆様が健やかな日々を送ることが出来ますよう、力を込め大地を耕し、大地に種を蒔き続けます。どうぞ良いお年をお迎えください。

 

寒空にカラスの鳴く声が響く農場より