慈光通信 第198号
2015.8.1
あなたの健康を左右する食生活 今こそ誤れる栄養学の転換を 2
前理事長・医師 梁瀬義亮
【この原稿は、1973年(昭和48年)4月発行の毎日ライフに掲載されたものです。】
誤った栄養学
人間の体は何千何万という酵素が実に精巧に組み合わされて運行し続けるギヤー装置になぞらえられる。単なる装置ではなくて、それを動かし、かつ自身を作り上げ、さらに補修までする生命力というエネルギーを備えた装置である。「生命に関する無知が人間の知恵の特徴である」と大哲学者ベルグソンはいった。たしかに、生命力の本体は私達には分からない。しかし、その実在の直感と確信が生きていることの原理である。この生命力をそなえたギヤ―装置が順調の時は健康である。人は健康感に溢れ、活動意欲に満ち、溌剌として疲れや肩こりを知らず、風邪もひかない。
この装置の運行が不調になると病気になり、停止した時が人間の死である。大自然は、この生命体の順調な運行に不可欠な重大な役割をするが、同時に、大自然は生命力の弱った生命体には、破壊的な作用をする。この観点に立つと、病原菌に対する考え方が変わってくる。なるほど純粋培養された病原菌の濃厚感染は、恐るべきものであるが、自然状態における感染や無数の他の微生物中における病原菌の意義は変わるのであって、生命力の弱った生命体に自然が破壊作用をおこすときに、その役目を病原菌が行うと解すべきである。結核症における結核菌の意味や、糖尿病における化膿菌の意味もそう解される(ただし局所的な風土病、及び性病などには例外はある)。
こうして、自然状態では、生命力の旺盛な生命体には病原菌は作用し難いのである。生命体が病気になるのは、次のような場合が考えられる。第一は、生命力自身の枯渇ないし激弱、第二は、生命のエネルギーはあるが、ギヤー装置自身に故障のある場合である。後者を、さらに二つに分ける。
(イ)欠乏・・すなわち必要なものが必要なだけ、大自然から導入されない場合(ギヤー装置の油切れに例えられる)。
(ロ)毒物・・不必要、有害なものが入ってくる場合(ギヤー装置にカスがたまるのに例えられる)である。
第一の問題は、生命力の神秘であって、宗教や哲学などの究極問題で本論のラチ外にあるが、医学、農学が生命に関係するものであるから、医学者、農学者は、宗教的、哲学的方面にも関心を持つべきだと思う(しかし、ここでは省略する)。
第二の(ロ)毒物の問題は私に与えられた課題外だが、本論と関係があるので一言触れると、実に第二のノアの洪水が今や全世界に起こりつつある。第一の洪水は水であったが、第二のノの洪水は、毒の洪水で、日本は世界平均の10倍近くもある。
しかし考えてみると同じカドミウムや有機水銀の侵入を受けても、イタイイタイ病や水俣病にかかる人とかからない人がある。また、放射性物質にさらされても、白血病になる人とならない人がある。これは生命力の強弱によるもので特に欠乏の有無、従って、食生活と密接な関係がある。毒物の慢性蓄積作用についても私の臨床体験から、これには二種あることを強調したい。
一つは、従来から論じられている毒物そのものの蓄積である。今一つは、作用の蓄積である。すなわち微量の毒物が、連続摂取される場合、毒物その物は、あるいは体内で分解され、あるいは体外に排出されて、蓄積していなくても一見無害な、軽微な障害作用が繰返されると、ついには恒久的病変を呈するようになる。
例えば、低毒性有機リン剤の体内蓄積は考えられないが、微量連続摂取すると恒久的病変を起こしてくる。この「作用の蓄積」も食生活と関係が深い。
第二の(イ)欠乏の問題が、本論の主題である。人間の生存には大自然が必要だが、なかでも食物は特に大切である。現在日本人の食生活には重大な欠乏がある。それには、二つの場合がある。○aは食品材料の組み合わせ方の誤りによる欠乏、○bは組み合わせ方が正しくても、材料その物に欠乏のある場合である。
まず、二の(イ)の○a食品材料の組み合わせ方の誤りについて、まずX要素という事について述べたい。私達の食生活で考慮されるのは、現在栄養学的な知見からカロリー、タンパク質、脂肪、含水炭素、ビタミン、鉱物質だが、これではまだ不十分で、そのほかに現在の分析では分からないが、健康に絶対必要な要素がある。これを今X要素と名付ける。そもそもカロリー、タンパクなどの現代栄養学の理論は、日本人にも欧州人にもアフリカ人にもどこにも同じに通用する理論で、気候風土の差、人種差、歴史の差などの現実が無視されている不完全な理論である。
X要素の名で総括されるものは農作物、酵母、動物の血や臓器に含有され、未知のビタミン類・酵素類等も含まれるであろうし、既知の成分等でも、その存在する状態あるいは他の成分との調和状態によって、このX要素に入るのである。例えば、同じビタミンや鉱物質でも、合成物あるいは単独状態と天然状態では、化学構造式は同じでも、その生理作用は随分異なる。
(以下、次号に続く)
天然ハーブで防虫対策
今や夏本番。この時期、紫外線に次ぐ悩みの種は虫刺されです。庭仕事やちょっとしたお出かけは日差しの弱まる夕方に、と思っていても、夕方になるとたくさんの蚊が襲撃してきます。
夏は海やハイキング、キャンプなど、アウトドアでの活動が多いので、スプレータイプや液体タイプ、ティッシュタイプなどの虫除け剤が多く使われます。「虫に刺されると大変!」と、お出かけ前に小さなお子さんに虫よけスプレーをシュッとひと吹きしている光景は、一度は目にした事のある光景ではないでしょうか。
しかし、この虫除け剤には注意が必要です。多くの虫よけ剤には「ディート」という物質が使用されています。化学名をジエチルアミドといい、昆虫忌避剤として用いられ、蚊などの触覚に作用する虫よけ剤として1964年に米軍が兵士用に開発しました。ディートは『殺虫剤』や『農薬』ではなく、『忌避剤』という名称を用いているため、無条件に安全であると信じて不注意な使い方をしがちですが、これは農薬に他なりません。アメリカやカナダ等海外では、神経障害や皮膚炎を起こす報告があったため、子供への使用について厳しい規則が設けられています。虫を避けるだけなら危険性がないと思われがちな虫除け剤、虫が嫌がるのですからそれなりの物質が含まれています。
前理事長はこう書いています。
・・・農薬は人体を犯します。農薬の作用を申しますと、まず人間が飲んだら消化管から入ります。皆様にご注意願いたいのは、農薬には家庭で使われているものもありますね。蚊取り線香とか、殺虫剤とかです。これは十分にご注意願いたいんでして、原因の分からない病気の方が来られて、その原因が蚊取り線香であったり、ハエがそばへ行くと、パタパタ落ちるのがありますね。あの下で寝ている事であったりすることがよくあります。
この頃の蚊取り線香は除虫菊だけじゃないんですね。必ず化学薬品を加えているわけです。最近になって、ずいぶんやかましくなっていますが、一時は無茶苦茶だったんです。最近はうんと減りましたけれども、道理から考えましても、蚊と人間というのは、何千万年前か何億年かかって、関わり合いを持ちつつ共に生きてきた生物です。これを蚊が住めないような環境を作ったら、人間にも住むに不都合な環境になるという事は常識だと思います。だからもし、蚊が嫌だったら、蚊の住める環境のままで、蚊の入れない環境を考案することです。蚊帳を吊っても、その中は蚊の住める環境です。蚊やハエが住めないような環境を作れば、人間も住めないという事は、常識で考えたらわかりそうなものと思うのです。
だから毒物で毒性をおびさせて、それで蚊が死んでしまうという世界は人間にとっても不利である。たとえ人間が死なないにしても、人間の生理作用に何か悪い影響のあるとこは当然であって、毎晩香取り線香をたいて寝る方は、朝起きると妙に頭が痛かったり、肩がこったり、色々変化が起きるのであって、私は蚊帳を盛んに進めている。
・・・・・ぜひ家庭農薬に気を付けていただきたい。
私の知っている人で、蚊が嫌いなので、毎日アースを顔や手に塗っている方があったんです。この方は脊髄麻痺をおこして、すでに7年間寝たきりです。アースに人畜無害と書いてあったのを信じてやったのが不幸のもとでした。皆さんもご注意願いたい。・・・ (梁瀬義亮著 生命を守る正しい農法の追求より抜粋)
今は蚊取り線香に代わって置き型虫除けの電気蚊取り器(マット式殺虫剤)がよく使われています。これは殺虫剤を含ませたマットを熱板の上に乗せて加熱することで有効成分を空気中に漂わせ、ハエや蚊を駆除します。マットは、室内にいる数匹の蚊が全部死滅した後も、有効成分が熱板上に残っている限り、一晩中殺虫剤を発散させつづけます。マット式殺虫剤の 有効成分アレスリン、フラメントリンはともにピレスロイド系殺虫剤。しかも臭いがしないように工夫されているため、余計に危険なのです。
是非、人体に害のない蚊取り線香や虫除けスプレーをおすすめします。慈光会には天然成分から作られたものを色々取り扱っていますが、私たちの身近にあるハーブにも虫除け効果のあるものがあります。中でも栽培しやすいものをいくつか紹介させていただきます。
〈ミント〉
ミントには「メントール」が含まれていて、虫に対する忌避効果があります。ペパーミントは数あるミントの中でも特に含有量が多く、ハッカがこれにあたります。ペパーミント以外にはアップルミントがおすすめです。ペパーミントは繁殖力が非常に強く、育てやすいので、お庭やプランターでの栽培も放置状態でもどん増えていくので、気軽に栽培できます。地方名産品のお土産にハッカスプレーなど見かけることもあり、虫除けスプレーとして活用する人もいます。
ミントスプレーの作り方は、フタのできるガラス容器にミントの葉と茎をいっぱいまで詰めます。容器いっぱいまでアルコール(ウォッカ、焼酎、リカーなど)を入れます。毎日容器を振って冷暗所で2週間以上おきます。使うときはガーゼなどで越してからスプレー容器に入れて使用します。
〈蚊連草・ローズゼラニウム〉
ローズゼラニウムは植えておくと蚊が寄り付かないといわれています。植物自身の香りである「シトロネラール」という成分は蚊に対する忌避効果と蚊の大好きな二酸化炭素を察知する能力を低下させる効果があるといわれ、 蚊連草に止まった蚊は炭酸ガスを察知する能力が鈍り、刺しにくくなります。ですので、蚊が寄りつかない、刺しにくいというわけです。ペットボトルなどの容器に積んだ葉を入れ 部屋に置いておく、匂いで防虫の役割をしますが、葉が枯れて乾燥し変色した後も臭いはそのまま残っていますのでしばらく防蚊効果はあります。
〈ローズマリー〉
ローズマリーは料理にもよく使われ、香りが強いハーブです。低い位置でよく茂り、まとまって成長するので、庭木や境界垣、花壇の縁取りなどにもよく植えられます。乾燥や陽ざしに強く、病害虫にも強いので育てやすく可愛い花をつけます。煮出して冷ましてからスプレー容器に入れて使います。
〈カモミール〉
カモミールは「心のお医者さん」と呼ばれているハーブです。効果が精神面に働くという事と同時に、虫除けの効果もあり「植物のお医者さん」とも呼ばれます。
メインの植物への害虫よけのために側に植えられたりすることがあり、このような植物を農学上の言葉でコンパニオンプランツといいます。カモミールはコンパニオンプランツの一つとして、キャベツや玉ねぎ畑で共同作物として栽培されていることもあります。
植物の害虫よけ以外、人間への虫よけ効果としてはかゆみや腫れを取るという効果もあります。
〈クローブ〉
クローブは熱帯・亜熱帯地方で生育する常緑樹です。開花前のつぼみを摘み取って乾燥させると焦げ茶色に変色します。スパイスとして使われ、独特の香りを持つクローブは料理をはじめティーやポプリ、香水、お香などにも利用されています。
この刺激的な香りは、蚊除けとして活躍します。またゴキブリ除けとしても効果があるようです。
蚊除けスプレーの作り方
アルコール(消毒用アルコール ウォッカなど)50ml
クローブホール10g
オイル(ベビーオイル カモミールオイル ラベンダーオイルのうちいづれか一つ)10ml
ビンにアルコールとクローブを入れて4日間置く。強い香りがして茶色くなったら小ビンに液体だけを移しかえてオイルを混ぜて出来上がり。1、2滴を塗って伸ばします。
実際にこのオイルを使って蚊のいるところに出てみましたが、蚊は寄ってきませんでした。肉料理やケチャップにも使われるこのクローブはスパイシーな香りで好き嫌いもありそうですが、虫除けとしては優秀でした。
ハーブはもともと雑草なので、生命力が強く、簡単に栽培することができます。
天然の素材を使っていろいろ試して見られてはいかがでしょうか。
農場便り 8月
鉛色の雲が空全体を覆う。お日様の見えない日が数日続く。早朝から重苦しい空気が辺りを包み込み、夏野菜も日々降り続く雨にあっぷあっぷする。日照不足で葉の緑も薄く目に映り、水田を緑一面に変えた稲穂の背丈も幾分低く感じる。
6月下旬、「テッペンハゲタカ」の春の鳥、ホトトギスから初夏の山に響き渡るカッコウへと変わる。大きく育った夏野菜の収穫には雨具が手放せない日々が続く。雨具は雨から身を守るが、蒸れが強く、中はサウナ状態、自分の汗でずぶ濡れとなる。畑では、この高温多湿を好むきゅうりが梅雨空に向ってツルを伸ばす。ぐんぐん成長したきゅうりは2mを超し、40mの畝の長さの畑に緑のフェンスを作りだした。
4月9日、「夏すずみ」という品種を128穴のトレイに一粒づつ丁寧に播種をする。水分管理に注意し、約一週間で土の表面が割れ、発芽開始。力強く土を押し上げ、地上にきゅうりの生命が宿る。それからの成長は早く、3週間で圃場へと植え付けられた。
今回の農場便りは、夏の代表作物ともいえるきゅうりを紹介させていただく。
まだ春の空気に時折冬の風が残る3月、冬作も終え、ほぼ空き状態になった牧野地区の畑を見回す。その姿は、他の人から見れば「怪しい」の一言ではあるが、本年初となる牧野の畑で春夏作の作物の場所決めを行う。スケールを手に畑の端から目印を付けてゆく。作物の中には連作を嫌うものが多くあり、次の作付けまでに7、8年を要する作物もあるため、配置に気を遣いながらきゅうりの栽培地を決定する。約3.5mの畝に2条植えとし、左右には深い溝、中央は収穫の際の通路、そして追肥のためのスペースとする。決定したきゅうり予定地にまず完熟堆肥を運び込む。畑の隅に積み上げられていた2年越しの堆肥を地表が隠れる位にたっぷり施し、その後消石灰を全面散布、冬の終わりから長期休暇をとっていたトラクターを再びエンジン音を轟かせ、ムチを入れて荒起こしを行う。
この時期、迷惑をこうむるのがいつも登場するカブトムシの幼虫。堆肥の山を崩すと驚くほどの幼虫が姿を現す。「ごめんなさい」と謝りながら、バケツに拾い安全な堆肥の山に戻すのは毎年恒例の作業。それを分かっていながら産卵を繰り返すカブト虫も学習能力に欠ける。小さな命をレスキューし、きゅうり栽培はスタートを切る。
育苗中に土を作り地力を上げ、畝には黒マルチを張り、雑草からきゅうりを守ると共に地温を上げ水分を保ちながらきゅうりの成長をアシストする。
5月9日 元気に育った苗を本場に定植する。黒マルチに50?間隔で穴を開け、根を傷めないように丁寧に植え付けてゆく。それまで過保護に育てられた苗もこれから一人旅、立派に育つ事を祈る。2条に定植されたきゅうり栽培の次の作業として、畝の両隅に杭を打ち込み、2m間隔でポールを立て、最高位置にロープを張り、ロープにネットを張り巡らせる。ロープとポールを一体化させ、夕立の強風やこれから押し寄せる台風に備える。
それ以外にも横風対策として、アンカーを入れ、より頑丈なものを作り上げる。きゅうりに目があるのか、ツルがネットにきれいに絡んでゆく。専用のホッチキスでツルをネットに止めてゆく。真っ直ぐ伸びるよう、道先案内を行う。この作業、4日に一度は行い、きゅうりの成長と共に作業の感覚は短くなる。この頃になると、苗は活着し根を広げてゆく。50?の間隔に中央に油カスを追肥する。二にぎりの油カスを軽く土と混ぜ、そこに根が届くのを待つ『待ち肥え』として施す。
5月中旬、きゅうりの隣りの高畝に山芋を定植する。ひと夏きゅうりと共に過ごす山芋は前年栽培し、秋に収穫した中から選抜し、種芋として保管された大和芋と山芋の二種類、本年も気合を入れ定植する。山芋は、一般によく食されるが、大和芋は高級なため、贈答品として珍重される。コストと手間はかかるが、大和芋の栽培は楽しいため、我が家の家長である鬼嫁の目を盗みながら本年も栽培を行う。家長には全て「山芋」と報告済みである。芋類の種芋は野ネズミの食害に遭う事が多く、地上に芽が出るまでは目が離せない。地上部でネズミ、地下部はモグラと2元攻撃を日々受け、その対処に追われる。
話をきゅうりに戻す。日々上昇する気温と湿度にニコニコ顔のきゅうりの一日の成長は目を見張るものがある。主枝が伸び、脇芽は地上より4節まで全てかき取り、それより上に出る芽は雌花の先の葉一枚を残し、摘芯を行う。一本一本行う作業は時間を要する。一番果は小さなうちに摘果し、二番果から大きく育ててゆく。
6月15日 初収穫を行う。収穫時期の頃、きゅうりの実は少々短い形をしているが次第に形は良くなって行く。この頃2度目の追肥を行う。畝間に米ぬかを全面散布、高温多湿が後押しし、2、3日で真っ白なカビが発生し、ぬかを分解してゆく。その後、分解状態を見ながら管理機で軽く中耕する。この頃きゅうりは最上部まで達し、緑のフェンスとなり、収穫する私の姿を飲み込む。本格的に始まった収穫は1日2回行う。朝穫りを中心に日が沈んだ夕刻にも見回り、日中に成長し、翌朝まで置いておけないものだけを集める。収穫用のカゴを片手に、葉を掻き分け、地上部から最上部まで渾身の注意をはかり、取り残しがないよう見て回る。朝採りは、早朝まだ気温の上がらない涼しい時間帯に見回るが、7時を過ぎると額から汗が流れ、頬を伝って顎先から落ちてゆく。喉もカラカラ、朝、家人が入れてくれた冷えたお茶を喉を鳴らして一気に飲み干す。日射しが強くなる頃、きゅうりの収穫を終える。この収穫は6月中旬から9月上旬まで続く。第一弾のきゅうり栽培が終盤を迎える頃、第二弾のきゅうりの収穫が始まる。秋きゅうりの栽培は5月30日 同じ行程で播種を行う。気温も高いこの時期の苗は成長も早く、短期間の育苗で圃場へと定植される。雨も多く、きゅうりの苗は見る見るうちにネットを駆け登ってゆく。ザラザラの大きな葉の上で、今春産まれたアマガエルの子どもが体を休める。
6月中旬から7月中旬の1ヶ月、平年にない雨量が全国で観測される。畝間の雨水を水路に落とすのも大切な管理作業であり、水分を好むきゅうりも畑全体が水浸しでは根腐れを起こし、立ち枯れてしまう。きゅうり栽培に葉を掻き取る作業がある。収穫してから4、5日、葉の元気がなくなり色が変わるのを見計らい掻き取る。これは、古い葉を維持しようとするエネルギーを他に使うようにするためである。古葉を取ると後に新芽が顔を出し、新たな成り枝が出来、新しい葉には再び生命力が宿る。
7月下旬の夕刻、いつものように今日2度目の収穫に入る。上に下にと目を凝らし実を探しまわる。先程まで降っていた雨も上がり、夕日に輝く美しい虹が弧を描くも湿度は一気に上がる。足元の長靴は泥まみれ、汗と雨でぬれネズミならぬ、ぬれ豚に。眼鏡はくもり、汗は滴り落ちる。くもった眼鏡の先にとぐろを巻き、臨戦態勢をとるマムシを発見、今年2匹目となる。マムシとのバトル、睨み合いの後、近くにあった棒きれで頭を抑え首根っこをつかみ、レジ袋の中へ。きゅうり収穫後、マムシは人里離れた山奥の谷川に放たれた。「こら、マムシ人に近寄る事なかれ!」と言って聞かせる。この夏の珍事である。
8月に入り気温は益々上昇する。第一弾のきゅうりは役目を終え、間もなく生命が尽きようとしている。緑のフェンスも向こうの風景が見えるようになった。第二弾のきゅうりはこの暑さにも生きようと燃え盛る太陽に向ってツルを伸ばす。「きゅうりさん、元気でいられるのも私のおかげ」と小声でブツブツ。秋口まで収穫するきゅうりの味を思う存分楽しんでいただきたい。
7月、台風が本土に上陸、雨脚は強く、見る見る吉野川の支流、丹生川の水は濁流と化す。時間を追うごとに本流も透明度を失い、水位は増し茶色く濁ってゆく。夜間降りしきる雨は豪雨となり、時折吹く風が庭の木々を揺らす。モミジの木も風に揺れる。その木の枝に山鳩が巣を作り、温めて孵った2羽のヒナを育てている。日々成長するヒナを下からそっと見上げるのが我が家の楽しみの一つであった。あまりの豪雨と強風にハトの親子が心配になりリビングに家族が集まる。「誰が・・?」という前に、家族全員の目が私に「早く行け」と無言の圧力をかける。仕方なく、傘をさし片手に懐中電灯を持ち豪雨の中、外に出る。ハトの巣を照らし見上げる。親バトは体を広げヒナを雨から守る。今、社会では親子の事件が後を絶たない。親バトは我が生命をかけ小鳩を守る。
翌日巣を見てみると、2羽いたはずのヒナが1羽になっている。巣から落ちたのであろうかと家族で探したが姿を見つけることはできなかった。2日後、我が家の駄犬、はながハーブの茂みの中で息絶えたヒナを発見。そのまま自然に還すことにし、もう1羽のヒナは元気よく育ち大空へと羽ばたく。
夕方の収穫を終え、1日の作業が終わる。駐車場前の鎮守の森のクマゼミの騒々しい鳴き声も消え、静かに眠りに入る。道路わきに単車を止め、女性がゴソゴソ。見ればわが娘、思わず大声で「何をしているのか」と聞くと「道の上を這っているセミの幼虫を車に轢かれないように草むらに移動中」との事。娘が小さな生命を愛おしむ大人に成長したことをうれしく思い大自然に感謝する。と同時にその優しさの一かけらをこの老いた父にも!と。私の人間の小ささは猛暑の中でも健在である。
夏バテ、クタクタの農場より