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慈光通信 第186号

2013.8.1

病気のないすこやかな生活 ― 医・食・住 ― 9

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1982年(昭和57年)3月6日 熊本県立図書館ホールでの講演録です。】

 

 

動物性たんぱくのとり方について

 

 

牛乳や乳製品も適当に召し上がっていただいたら結構でございます。全く動物性のものを無くした方がよい、玄米と青菜だけでやっていくのが健康の元だと主張をなさる方もあります。例えば二木謙三(ふたき けんぞう)博士は有名な玄米論者でございまして、玄米と野菜だけで十分だというご意見なのですが、実際臨床でみてみますと私の経験ですが、玄米と野菜だけ食べていたら、それで調子がいいという方もなかにはおりますけれど、非常に弱って栄養失調状態になってしまう人が多いのです。もし、玄米、菜食だけでいこうとなさる方には、絶対に大豆や小豆を十分に付け加えることをお勧めしたいのです。大豆や小豆を十分入れなければ、しばらくの期間はいいのですが、長くやっていると調子の悪いことがあります。
それから老人と子供では、また違いますから、色々問題があると思われるのです。ともかく、玄米、菜食主義者には大豆や小豆を忘れてはいけないという事をご忠告したいと思います。
それから動物性のものを食べないと、体が大きくなりにくいことは事実です。大きいことがいいか悪いかは別として、体は小柄になります。一般に玄米、菜食で動物性のものを全然入れなかったら体は小柄になります。私はその一つの例でありまして、私はある事情で成長盛りに全く動物性のものをとらなかったのです。私一人だけが家族で小柄です。成長期を過ぎてからは仮に動物性のものを入れても背は伸びません。
横には大きくなるかもしれませんが、身長は大きくならないのです。しかし、「大男、総身に智恵が回りかね」と言いますから、大きいのがいいか、小さいのがいいか話は別ですよ。私は魚だって生きたいのに殺して食べるのはかわいそうだという気持ちがして、よう食べないのです。しかし、健康的には少し魚をお召しあがりになった方がいいように思います。
ある方ですが、発心して宗教的な意味で玄米と菜食ばかりやっておられたのですが、その方のリンパ腺が腫れまして破れて穴があいてどうしても治らない、私は拝見しまして、「あなたちょっとお魚を食べなさい」と言ったのです。そこでその方はお魚を食べました。すまないけれど許してくれと、拝んで、じゃこを食べた。食べているとその穴がふさがったのです。そういう例がちょこちょこあります。適当に魚とか卵とか牛乳や乳製品とか、あるいは少量の肉類はいいだろうと思います。けれどもあまりたくさんの肉や卵を食べると具合が悪いということは知って下さい。動物性をたくさん食べる程、元気が出るんだというわけにはいかないのです。
私はかつて、少し運動をやっていたことがあるのですが、試合の朝になると若い部員が、「先生、今日は試合に勝たねばならないからビフテキ3枚食べてきました」と言うのです。それで力が出るからしっかりやれると思っているのですが、本当は肝臓、腎臓が苦しんで、分解せねばならないから力は出にくいと思われます。

 

 

白砂糖に注意

 

 

それから白砂糖によく気をつけて下さい。白砂糖をたくさん食べすぎますと、例え正しい食生活をしておってもミネラルやビタミンが抜けるのです。だから白砂糖を使わず、ザラメや黒砂糖のようにミネラルを含んだ糖分を使うようにして、それも量を少なくする習慣をつけていただきたい。一番恐ろしいのはジュース類です。あれは大変に砂糖が多いのです。ジュース類にはビン1本20g位の砂糖が入っていると言いますが、そのぐらいで、1日の摂取量のおおかた極限まできています。皆さん、特に子供さんは、くれぐれも甘い飲み物にご注意下さい。
また1日にコーヒーを8杯や10杯飲むとか言う人がおります。こういう方はカフェインの害と共に角砂糖を1回に2個入れますから、8杯で1日16個の角砂糖を食べることになるでしょう。それだけで体はだめですよ。
この頃の子供は先程申しました通り、ミネラルやビタミンが大欠乏してしまいまして、どうして生きているかが分からない位の生き方をしております。そして背骨が頭の重みを支えきれずに曲がってくるのです。側彎(そくわん)症といいまして、背骨が曲がっている子供が非常に多いのです。それから骨がすぐに折れてしまうのです。ちょっとジャンプした途端、骨が折れたりします。この間、私の所であったんですが、野球のボールを投げた途端にポキッという音がして折れてしまったり、この様な例がたくさん出ています。10年前まで、人口35,000人の私の町の学童の校内骨折は、1年に大体2人だったのです。ところが、現在は40人以上もおります。ものすごく骨が軟らかくなっているのです。骨が軟らかいという事は、骨が折れて困ることですが、精神的にもいわゆる硬骨漢がなくて軟骨漢になっている人が多いのです。軟骨漢というのはいけません。これは何をしでかすか分からないです。ヒステリックで我が強く、激しやすくて何をするか分からないような子が出てまいりますので、甘いものにはくれぐれもご注意ください。

 

 

白砂糖をやめるだけで病気がへる

 

 

白砂糖を止めただけでもずいぶん病気がへります。ところが1週間位して「うちの子供は砂糖を止めたのに病気になったではないか」と、私に不平を言う人がいるんです。体質は少なくとも1年位かからなければ変わらないのです。食事の注意をすると、初めは病気をしたり、治ったりしながらだんだん良くなってきます。

(以下、次号に続く)

 

 

農場便り 8月

 

夏の空が広がり、真っ白な入道雲はまるで生命を得たかのように、高く高く湧きあがる。緑が美しい水田の上を涼しげにツバメが飛び交う。農場はリョウブの甘い香りに包まれ、作業の手を休め胸いっぱいに香りを吸い込む。
8月初旬、5月に播種をし育苗していたセロリの定植を行った。5月20日苗床に播種、本葉2枚になった頃一本一本トレイに植え替えてゆく。太い指の持ち主にとっては決して楽とはいえない作業である。セロリは水分を好み、定植後も水を切らさないよう水管理に注意する。約15?に育った苗をいつもなら山の農場で育てるが、年々猛威をふるうイノシシの害で栽培不可能となり、本年は他の畑に定植を余儀なくされた。本年のイノシシの害を愚痴を交えて聞いていただく。
1月、晩秋に播種したゴボウ畑の一部を掘り起こされ、隣のキャベツ畑にも害が及び、7月収穫予定のキャベツの3分の1をダメにされる。2月、何頭かのイノシシが捕獲されたと聞き、ほっと胸をなで下ろすもつかの間、毎夜毎夜、春まで当園へのシシ様ご一行の行脚は続く。5月、大切に育てていたパプリカの苗を定植。頭の中で赤、黄、緑に育ったパプリカの姿を思い浮かべながら黒マルチを張り、一本ずつ丁寧に植え付け、日々の管理作業に励む。6月下旬、嫌な予感が的中、一晩で、大きく育ったパプリカの畑がイノシシのあの憎きブタ鼻に全面掘り起こされている。身が一瞬にして凍りつく、と同時にパプリカならぬハバネロ並みの熱い怒りがこみ上げてくる。後日、毎年お盆の頃から収穫をする秋きゅうりにも被害が及び、大事なきゅうりの芽を食べられてしまった。これはイノシシではなくシカによる食害である。夕方寂しげなシカの鳴き声を何度も耳にしていた事を思い出し、このままでは・・との思いで、本年の秋冬作は他の2か所の畑で栽培を行うこととなった。
野生動物が異常に増えてしまったこの環境も、人為的なものである事は重々理解し、大いに反省してはいるものの、精魂こめて育てた作物が被害に遭い、目を覆いたくなるような惨状に直面した時、まだまだ尻青き私の心に宿る怒りが全身をかけ抜ける。もちろんシシ除けネットを張り巡らせての話である。思い出してまた怒りモードに突入しそうになった時、全開している部屋の窓から入ってきたオニヤンマが大きな目でジロッと私を見、「そんなに怒らないで冷静に物事を見ては」とばかりに私の周りを旋回し、セミ時雨どころかセミ豪雨の響きわたる山の中へと悠然と消え去る。稀にみる大きさのトンボの姿にある種の感動を覚える。
話をセロリに戻す。以前に紹介させていただいたように120?幅の畝に2条、株間を40?とし、一株づつ根を崩さず植え付けてゆく。本年は若苗300株を定植後根元にしっかり水を与える。涼しさを好むセロリにとっては猛暑の中での植え付けは危険であるため夕方涼しくなってからの植え付けとなる。その後の作業は、まず力強く芽を吹く雑草軍との格闘、暑い中での除草、そして2日に一度の水やり、畝間への追肥、管理機による中耕である。10月中旬、根元から子供の芽が現れる。親株を大きく育てるため子供の芽は全てかき取る。その中に大きな芽を発見、ニンマリ目尻が下がる。パクリと芽をかき取った子セロリにかじりつく。この時期、気温が高いこともあり少々アクが強いが、セロリの香りが口いっぱいに広がり鼻から抜ける。これも耕人のみ許された毎年恒例の行事である。
11月、セロリにとって最高の季節を迎える。株は日増しに大きく張り、茎も太くなる。この時期になると夏草が冬草(ハコベ、ホトケノザ等)へと代わり、セロリの肥料を吸収しどんどん大きくなってゆく。この冬草も除草鍬で軽く削り、これですべての作業が完了する。
11月中旬から出荷、大きい株から順に切り取り、外の茎を取り除き、出荷姿に整える。12月中旬よりセロリは寒さ除けの不織布を二重に被せ、寒さから身を守る。セロリは当園が作付けを行う作物の中で最も長期に亘り管理作業を行う作物である。5月中旬の播種から数々の手をかけ、皆様の元へお届けする。定植したばかりなのに既に私の中では収穫まで思いが馳せる。これを「とらぬ狸の・・・」というのであろうか。
その太い茎に塩を振りかけ、茎の中心部の溝に沿ってマヨネーズを絞り出す。この年になってもまだマヨラーを貫き通す私。この時とばかりに絞り出すマヨネーズの量に家人の眼がきらりと光る。食味に関しては『星三つ』、市販のセロリとの違いは香りとセロリ自体が持つ甘味である。有機質のみで育てられた作物は味、香りはもとより、野菜にとって一番大切な栄養価が高い。過去10数年栽培を繰り返し、今年も作付けをしたセロリをご紹介させていただいた。動物性食物とも相性の良いセロリをこの晩秋から初冬にかけてご賞味いただきたい。
日本の霊峰、富士山が世界遺産に登録された。富士山は賑やかになり、登山道はアリの行列となった。報道でその情景を見る限り、「何か間違っていませんか?」と一言申し上げたい思いである。地球上の大自然の環境や受け継がれた文化などの素晴らしきものを後世に遺し、生命をも守ってゆく、という壮大な計画であるはずが、ただの観光案内に過ぎず、全てが経済の汚水に押し流されてゆくのは見るに忍びないものがある。霊峰富士は登山をする山ではなく、遠くよりその美しい姿に手を合わせ、自分自身の心をも清らかにしてくれる山であるはずである。地球上の素晴らしいすべてのものが後世に受け継がれますように、と霊峰富士に手を合わせてみてはいかがであろうか。
お天道様がオレンジ色の光を輝かせ和泉山脈の西隅に沈んでゆく。きゅうりの葉の間から一日を終えようとする夕日がこぼれる。静かな時間と空間が流れる。あぜ間に豆粒ほどの子ガエルが跳ねる。小さい体で一生懸命力強く生きる姿が健気に映る。津波のような荒業のTPPが美しい国を壊滅に陥れないように、と沈むお天道様にお願いする。薄暗くなった畑に涼しい風が吹く。あと少しの農作業に額の汗をぬぐう。

 

 

暑さよりも蚊に苦しむ農場より