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食品公害による日本民族の危機
  

前理事長・医師 梁瀬 義亮



【この原稿は昭和五七年(一九八二年)に慈光会会誌に掲載されたものです。】
序言
   第二の「ノアの洪水」がやって来た!
 「ノアの洪水」は旧約聖書にあるお話しです。昔人々が神様を信ぜず邪悪になったとき大洪水が起こり人間たちはすべて溺れ死んでしまいました。ただ信心深いノアという人の一家だけは神様のお告げを信じて大きな箱舟(ノアの方舟)をつくって用意していたので助かったということです。これは単なるお話しではなくて本当に「ノアの洪水」があり「箱舟」があったと信ずる学者も多く、最近いくつかの学術調査隊が調査に乗り出しています。
 昭和三〇年頃から恐しい毒性のある化学薬品が農薬という名のもとに私達の食べ物に侵入しはじめました。つづいて種々の化学薬品が十分な慢性毒性や遺伝毒性、発癌性等のテストもされずに食品添加物としてどんどん加工食品に混入することが許可推奨され、更にこれに合成洗剤や医薬品が加わりました。
 昭和三二年頃から現れ始めた多くの奇妙な症状の患者についてその原因を調べていた私は昭和三十四年二月、それが農薬の慢性中毒であることを確かめ、その被害の深刻さと広汎さに驚愕しました。そして慢性中毒についてはっきりと分かったのです。すなわちそれまでは許容量以下の微量の毒物が長期連続体内に入っても無害と信じられていましたが、そうではなくて極微量の毒物でも連続して体内へ入ると長期間を経て急性中毒とは全く異なった形の恐る可き害を与えることを知ったのです。このことは独り農薬のみならず食品添加物や医療品等々あらゆる化学薬品についても云えることです。そこで農薬の慢性中毒について被害の実状とその作用機序等についての知見をパンフレットにして国会、多く大学や研究所、中央官庁等に提出すると共に国会へ次の様な請願書を出しました。曰く『現在使用されている農薬は別附パンフレットに示す如く恐る可き脳及び神経の毒であり又肝臓毒、腎臓毒、内分泌毒、血液毒でもあります。このんま使用を続けますと十年乃至二十年後には癌、白血病、肝臓病、腎臓病、新陳代謝病、血液病等の病気が国民に多発します。同時に脳や神経が侵されて、気狂いじみた犯罪や自殺、交通事故が多発します。この毒の洪水は「第二のノアの洪水」とも名付けるべきもので日本民族はいづれこの毒の洪水の中に漂溺してしまいます。そこでホリドール、エンドリン、フッソール、水銀剤、砒素剤等々強い毒性のある農薬は即刻禁止して下さい。低毒性農薬も五年を期して禁止に踏み切って下さい。そのためには近代農法の欠点をよくしらべると共に全国の篤農家が実施している古来の農法を国家規模で研究して下さい。完全無農薬、完全無化学肥料の有機農法こそ唯一の正しい農法でありこれは吾々の実験によれば必ず実行可能であります』と。
 残念乍ら近代化の波に酔っていた当時は官民共に私達の訴えを一笑に付し、農薬は政府の政策によってますますその使用が推進され遂に日本は世界に類の無い大量農薬使用国となり、食品添加物や医薬品、合成洗剤も世界有数の大量使用国となったのであります。私達は「財団法人慈光会」の前身である「健康を守る会」を設立して恐るべき「第二のノアの洪水」の来襲を叫び、第二の「ノアの箱舟」の速やかな建設を訴えつづけました。
 それから二十二年、今や「毒の洪水」が押し寄せて来たのです。癌や白血病、肝臓、腎臓疾患、様々の新陳代謝異常に基づく疾患、慢性リューマチ等が多発し、終に癌は国民死亡疾患の第一位に躍り上がりました。子供までその死亡疾患の第一位は癌になったのです。狂ったような犯罪、自殺、交通事故は多発し、重症身障児、精薄児、奇形児もどんどん増加しています。平均寿命の延長が喧伝され、明治から生きてきた老人が多く生き残っている反面、三十才、四十才、五十才の壮年者がばたばた上記の退行性疾患で死んでゆきます。農林省関係の某学者は二十五年さきには日本人は五千万人位に減り、平均寿命は四十才を割ると発表しました。実状を見て国民は不安になり、各処で叫びが上がっています。然も世の指導者は知ってか知らいでかいっこうに立ち上がろうとはせず、あいかわらず恐るべき「毒の洪水」がますます甚だしくなるような政策が勧められています。今や社会の機構が、すべて「第二のノアの洪水」源となり、その増強を促すようになってしまったのです。
 農民諸君は立ち上がって下さい。完全無農薬有機農法を私達は二十年以上実行して来ました。これは可能なるのみならず実に有利です。消費者諸君も立ち上がって下さい。理解ある消費者こそ正しい農の発展の重大な要素です。
 「健康と生命」この最も大切な幸福の鍵において生産者と消費者と流通機構関係者は全く一体です。
 愛する子孫のために完全無農薬有機農法の拡充と無添加物加工食品の拡張、合成洗剤の追放の輪を広げましょう。
 これが「第二のノアの箱舟」の建設です。          (以下、次号に続く)
  

慈光会第2回学習会  『環境ホルモン講演』
  

日本子孫基金運営委員 三宅 征子



             環境ホルモンの人体実験?
   このように、野性動物では、様々影響が観察されて報告されています。そして生物の進化の過程に於いて最頂点にいるのが人間なわけで「これら野性生物で起こっている影響が、当然人間にも何らかの形で起きているのではないか」という疑いが出て、その調査がこれから始まろうとしています。ただ、既に人間で実験的に行われたとも言えるような事例があります。これはアメリカで七〇年代に起きたことなのですが、流産防止薬として多くの妊娠中の女性に、人工的に作られた合成女性ホルモン、DESと言われる薬剤が投与されたのです。そしてその薬を服用した女性から生まれた子供たちに、思春期に達するころ様々な生殖機能の異常がでてきたのです。例えば女性であれば、若い女性には通常起こらないような膣癌(ちつガン)が多くなったり、子宮が変形していたり、男性であれば「停留性巣」と言う性巣の異常とか、様々な生殖機能、及び生殖器の異常が報告されたのです。それは普通若い時期に起こるようなものではないのですが、あちこちで出ていることが分かり、それを追跡的に調べていったところ共通していたのが、その子供たちの母親が妊娠中にこの人工女性ホルモンDESを服用していたということだったのです。その中でさらにわかったことは、その投与された時期によって、生まれてきた子供たちの障害の出かたが大きく違っていたということです。どういう風に違っていたかというと、妊娠してから七週目ぐらい、この時期は、生まれてくる子供が男か女か分かれる時期にあたるのですが、この二ヵ月に満たない時期に「環境ホルモン」といわれる化学物質を身体に取り込みますと、子供たちの生殖機能障害が非常に大きくでるということです。しかもこの生殖機能あるいは生殖器の異常は、不可逆的な影響、つまり治療のしようがない、一生涯その機能障害を抱えていかなければならないということがわかったのです。一方、同じ妊娠中にこのDES、合成女性ホルモンを服用していた人たちから生まれた子供でも、その服用した時期が妊娠後期に飲んだ方たちから生まれたお子さんは、ほとんどそういった障害を持たずに生まれてきていた子が多かったということもわかっています。これはまさに、人体実験をしたような結果になったわけです。
  食べ物、医薬品と環境ホルモン
   当然アメリカではこれが禁止されましたが、こういう苦い経験、教訓を私たちは大事にして、それこそ次からそういうことを起こさない方向で、最大限生かしていかなければいけないのですが、この「人工合成ホルモン」は、飼育促進のホルモン剤、あるいは雄の肉を柔らかい肉質に変えるための「人工女性ホルモン」などとして実際、家畜の飼育の段階で使われております。
   このように現在もホルモン剤は使われていますし、また様々な薬剤という形で使われる場面は多いのです。医薬品というのは、そもそもある病気に対して有効でメリットがあるところを、そのデメリット、つまり副作用があることを承知の上で使うのです。ですから医薬品には必ず副作用がある、これは大前提です。このようなわけで、医薬品の場合は別な扱い、捉え方がされていますけれども、こと食品、食べ物にこのような問題が持ち込まれるということは、本来絶対あってはならないことです。ところが、「経済効率を高めるため」という目的のために、様々なものが使われているのが、今の実態だと言っていいと思います。この実態とその問題点をしっかり把握して私たちが毎日の生活のなかでそういうものをとらないような、できるだけ排除するような生活の仕方が求められています。
   このようにホルモンの実際の影響、環境ホルモンの様々な具体的な影響というのは、野性動物でまずいろいろ出ていて、そして結果的には人体実験が行われてしまったと同じ、アメリカでの人工女性ホルモンの投与という事例があるわけです。今世界中で、私たち人間へどういうものがどういう形で影響を及ぼすのかという調査が始まっております。日本でも厚生省が、「人体への影響」という視点から調査を始めるということで研究会が発足しております。このような調査が進みますと、影響の度合い、あるいは影響の出かた、そしてどういう問題があるかということが明らかになってきます。そういう情報を私たちは注意深く見ていかなければならないと思います。現実には、一五三種類もの物質が環境ホルモン作用が疑われるものとしてリストアップされています。そういうものをできるだけ日常的に排除した生活を組み立てていく必要というのも、現実的な問題としてあると言えます。環境庁が当初発表した六七品目、あるいは七〇品目の個別の化学物質についてはこのポスターの裏に個別の化学物質名が全部載っておりますので、日常生活の中で、例えばプラスチックを見る場合とか、農薬についても、この表を参考にしていただけたらと思います。    
         (以下、次号に続く)
  

お知らせ
  



       
  梁瀬義亮前理事長の七回忌を期して慈光会大会を開催させていただきます。 音楽は、ピアノとチェロの演奏(牧村照子、牧村英里子、池村佳子)と共に、梁瀬先生を静かに偲ぶ催しをと考えております。



曲目は
テンペスト(ベートーベン)
コレルリ(ラフマニノフ)
エレジー(フォーレ)
白鳥(サン・サーンス)その他です。
皆様是非ご参加ください。


7月18日(日)
午後一時開場  一時半開演
五條市市民会館ホール

入場は無料ですが、入場整理券が必要です。
整理券は慈光会販売所店頭でお渡しいたします。
遠方の方は7月10日迄にお申し込みください。
小さなお子様のご入場はご遠慮ください。
会員以外の方も、どうぞお越しください。


  



七回忌ご報告
  


    
       

 五月九日(日曜日)の仏教会に、梁瀬義亮前理事長の七回忌の法要と仏眼寺ご住職勝部先生のご法話がございました。
 当日は七〇名近い方々がお参り下さり、梁瀬先生の在りし日を偲びました。  前段で勝部先生は、「宗教とは何か」と言う問題を、「有限」と「無限」という観点から大変分かりやすくお説き下さいました。
 又後段では、有名な「二河白道」(にがびゃくどう)のお話しがあり、私たち人間が必ず出会わなければならない解決不可能な諸問題〔生老病死の四苦に・愛別離苦(愛するものといつかは必ず別れなければならない苦しみ)、怨憎会苦(親子、兄弟、夫婦、嫁姑、商売敵、ライバル、戦場での敵同士など、憎しみ合う人と必ず会わねばならない宿命を持つ苦しみ)、求不得苦(求めて得ざる苦しみ)、五陰盛苦(万象の流転による心身の苦しみ)を加えた八苦〕を乗り越える道について、仏教に則して具体的に説明して下さいました。梁瀬先生存命の頃が彷彿と偲ばれるご法話でした。
 最後に前理事長次女の牧村照子氏によるピアノ演奏が行われ、法と音楽を通じて梁瀬先生のメッセージが心に響いてくるような一日が幕を閉じました。
 (来る七月一八日〔日曜〕の慈光会大会の時にも、牧村氏の演奏があります。奮ってご参加下さい。) 
  

慈光会のジュースのお知らせ
  


    
 
 慈光会の梅ジュースとみかんジュースは、どちらも慈光会が三〇年来完全無農薬有機農法で育てた農産物一〇〇%で作られたオリジナル商品です。豊作の年にしか製造できない貴重な品です。安心でおいしい本物の味をご賞味下さい。

無農薬うめジュース 一本    五三〇円
無農薬みかんジュース一本 七〇〇円
 (消費税、送料別途)     
  それぞれ六本箱入りもございます。ご進物にもご利用下さい。       
  

 自然と人が共に生きる町 
  

《自転車都市 デービス市》


    
       
デービス市中心部から車で五分のところに広がる「ビレッジホームズ」と呼ばれる地域では、九九号でご紹介した「緑と土を生かす工夫」がもっと沢山目の前に広がっています。「こんな所に住みたいな」と思わせられるアイディアがいっぱいなのです。それではレポートを見てみましょう。(雑誌「ECO21」より)
「ビレッジホームズ」、ここは総面積二四万三〇〇〇 に二四〇家族が暮らす地域です。見渡すと、家と家との間に垣根や塀が一切ありません。地続きのそれぞれの家の庭には、家庭菜園が作られていて、色々な種類の野菜が植えられています。ここに暮らす人々は、この収穫を隣人と分け合っていただくのだそうです。ビレッジ内のそこここに見られる木は、たとえばリンゴやアーモンドの木だったりして、花を楽しんだ後に、その収穫も又いただけるようになっています。ぶどう畑も、町内会が栽培していて、ビレッジホームズの住民なら誰でも食べたり持って帰ったりして良いのだそうです。住民同士の信頼関係が伺い知れますね。
 ここでは道路というものの考え方が又、とても違っています。車の為の道路ではなく、人が生活するための道路なのです。道は狭く、二車線しかありません。そして右に左にゆるやかにカーブを描いていて、全てが行き止まりになっています。ですからスピードを出して村を通り抜ける車はありませんし、ビレッジホームズの車もこの道をゆっくりと走るのです。
 公園(運動場)も大変充実していて、人々は三々五々、公園の木陰で骨休めすることができます。人工的にコンクリートで整備された公園ではなく、雑木(ぞうき)林やくさはらが広がる公園なのです。
 体を動かすのが好きな人達は、その広いくさはらで、大人も子供も一緒になってスポーツに興ずることができます。自由に入って水浴びを楽しむ事のできる噴水やボランティアによる水泳教室なども用意されています。又、公園のベンチやあずまや、アスレチックの遊具などの設備は、木を中心にした自然素材が用いられ、使えなくなった後も自然に返るように配慮されています。
 以上のような環境整備や運営維持には、多くの人手やお金がかかりそうですが、ビレッジホームズに住む人達は、これらの費用を、始め自分たちの手で農作業をして捻出していました。しかし続けるうちこれは困難になり、現在では、各戸月額八〇ドルという町会費を払って専門のガーデナーを二人雇って管理してもらっています。ここへの転入希望者は大勢いても、転出希望者は全くいないのだそうです。町会費を払っても住み続けたいと云う人ばかりのビレッジホームズの住環境は、本当の人間らしさにあふれていると言えるのでしょう。
 扠、話をデービス市全体の方へ戻しましょう。環境教育について以前、ドイツの例をご紹介したことがありましたが、ここデービス市では、「環境教育」は「成人市民としての社会マナー習得のため」と目されていて、ことさら新しいものではありません。その根底には「町(自然)はみんなの共有財産」という認識があって、そこから様々な市民の活動が生まれてきています。市民は「自然保護委員会、市街樹委員会、計画委員会、公共施設委員会」などで直接自分の意見を述べることができ、「自分たちの町」をどのようにしたら住みよくできるかに主体的に関わることが出来る訳です。このようなシステムでしたら、公共投資の名の下に行われる自然破壊が、市民の手の届かないところで遂行されてしまうようなことはなくなることでしょう。
 デービス市の例を間近に見てきますと、「エアコンや車をあまり使わなくてすむ、豊かな自然環境のある町並みの整備」と、「市民一人一人のなかにはぐくまれた自然を大切にしようという気持ち」が尊重されるとき、本当の意味での省エネが実現し、質素と豊かさが矛盾なく共存するということが納得出来ます。木々の中に人間が住まわせて頂くという謙虚な発想から街づくりが始まったとすれば、デービス市の様な町が出来てくるのかもしれません。
 様々な角度から撮られた、美しい緑におおわれたデービス市の写真を見ていると、「自然と共に生きる町づくり」とは、そこに住む「人づくり」と必ずつながっているものであることを、木々たちが語りかけてくれているような気がいたしました。
 〔最近日本でも「デービス市見学ツァー」が出来たそうです。ツアーを体験した各国の人々が世界中にデービス市の風を送ってくれるのを期待したいものです。〕
       【完】


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