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食品公害による日本民族の危機
  

前理事長・医師 梁瀬 義亮



【この原稿は昭和五七年(一九八二年)に慈光会会誌に掲載されたものです。】

白砂糖の害

 それから白砂糖の害に十分気をつけなければなりません。白砂糖を多く摂るとただでさえ欠乏し勝のビタミンやミネラルが更に浪費されてしまいます。そして骨や歯が軟化し、細菌に対する抵抗力もなくなるのです。白砂糖を黒砂糖やキザラ(着色した偽物に注意)に代え、それも摂りすぎないようにしましょう。殊に甘い飲料はお菓子以上に白砂糖の摂りすぎになり易いので(ジュース一本に約二〇グラムの砂糖が入っている)よくよく注意しましょう。
 それから果物はおやつとしてはよいものですが(最近は農薬汚染が甚だしく危険 − 後述)、栄養的に野菜の代用にはなりませんから御注意下さい。
 以上、第一の欠乏の原因は皆様のよく知っておられることですが、ここにもう一つ欠乏の起こる第二の原因があります。それは食べものの材料自身の養分の欠乏です。というのは化学肥料でつくられたり、或いはビニール栽培の農作物はビタミンやミネラルが欠乏しているのです。最近の野菜は殆どこんな養分の欠乏したものです。
昭和二十七年秋私は自分が化学肥料でつくっている野菜が、山手の農家からいただいた堆肥づくりの野菜に比べて味、香り、日持ちが格段おちることに気付いて、農作物がその栽培方法によって成分に違いの起こることに気付きました。ついで畜産業で化学肥料でつくった牧草のみを与えると牛が下痢をしたり乳房炎を起こし易くなったり受胎率がおちたりすることを知り農学に志したのです。最近やっと有機質肥料による土つくりと云うことが農業指導政策に取り入れられたことは喜ぶべきことですが、尚化学肥料の害についての認識が欠けていることを泌々感じます。
 医の基本に食があり、食の基本には農が有る。医と農は切っても切れぬ密接な関係にあります。医学者は農学を、農学者は医学を知って欲しいものです。

食生活の中の毒物について

 慢性中毒について
 従来から中毒と云えば急性中毒が主として考えられ慢性中毒は急性中毒の緩いもの位に考えられています。農薬の毒性の強弱を決めるLD50という数字ももっぱら急性中毒死を基準にして決定されています。
 昭和三十二年頃より多発した一見肝炎と思われる奇病の原因が農薬によるものであることをたしかめた私は慢性中毒は急性中毒とは全く別のものであることに気付きました。中毒量乃至はそれ以上の量の毒物が急に体内に入ったときに起こる生理障害が急性中毒ですが、中毒量を遥かに下廻る微量の毒物が連読して体内に入っても次々と分解され処理されるので害は無いと考えられて来ました。許容量と云う言葉はそれを端的に言い表しています。しかし現実にはそんな微量の毒物でも永く続けて体内に摂取していると急性中毒とは全く異なった中毒症状の起こることをたしかめました。
 従来毒性の実験と云えば精々二年位のもので、十年、二十年つづけて行うことはありませんでしたので看過されたものと思われます。又、毒物による急性、慢性中毒には個人差が極めて大であります。これはお酒を例に考えればすぐ頷けることです。以上のことから許容量というものは当てにならないものだと御理解いただけることと思います。
 扨、序文にも申しました如く最近三十年の間に甞て人類が経験したことも無い大量の合成化学薬品が人間のたべものや其他のルートを通じて人体に侵入して来ました。農薬、食品添加物、医薬品、洗剤、工場廃棄物、自動車排気ガス等がこれです。昭和三十六年頃までは学界、官民界共々毒物に関する関心と知識が少なく充分な安全テストが行われぬまま化合薬品の農業及び食品加工への使用はどんどん行われました。森永の砒素ミルク事件の起こったのはこの頃で、これは当時の日本全体の化学薬品の毒性の恐ろしさに関する関心の薄さと知識の浅さによる諸事件の中の氷山の一角と思われます。
 今や日本は世界に類の無い大量の合成化学薬品による汚染国となりました。化学薬品による食物汚染や肝臓腎臓疾病等の退行性疾患がどんどん増加して来たのは上述の如くであります。このままでは日本民族は滅亡の憂き目に遇うに違いありません。然もこの汚染を起こすシステムがしっかり日本の社会に定着してしまっています。国民が現状を正しく認識して正しい与論を起こさねばなりません。

 農薬について

 現在約五千種の農薬があり、その中よく使用されるのは殺虫剤百種、殺菌剤七十種、除草剤五十種であります。すべて人体に毒作用があります。然も殆どが植物体内に侵入する滲透剤で、何のことはないキャベツも茄子もすべて人工毒キャベツ、毒ナスビにしてしまうのです。
洗っても皮を剥いてもその毒の量は減っても無くなることはありません。残効期間(農薬が残留する期間)中は採取せぬようとの規定がありますが薬物に素人の農民がそんなものに無関心であるのは当然ですし、守れない規定も多いのです。例えば茄子に農薬を使ってあと数日乃至一週間も採るなと云ってもそれは不可能です。事実夕方に農薬を使って翌朝採取出荷しています。消費者は毒ナスビを食べる訳です。現在殆どの農作物に農薬汚染があると思われ憂いに耐えません。
 その上殺虫剤は使えば使う程農薬抵抗性の外注が増えて益虫が滅亡してしまい、いくらでも農薬を多量且多種類使わねばならぬようになることは過去三十年の経験に照らして明らかです。殺菌剤、除草剤についても同様のことが云えると存じます。
 最近、低毒性農薬と称してスミチオンやマラソン、ダイアヂノン等が盛んに用いられますが、低毒ということは決して無毒ではないのです。ただホリドール等の猛毒性のものに比して一パツでコロリと死なないというだけのことでやはり急性中毒もあり、慢性中毒に至っては恐るべきものです。
 農薬は人間の脳、神経系、内分泌系、肝、腎、造血器、消化系等全身を徐々に侵してゆきます。頭も体もおかしくなるのです。最近癌や肝、腎、リューマチ等の慢性退行性疾患の多発と共に気狂いじみた犯罪、暴行、子供の自閉症や情緒異常、はては訳の分からぬ自殺、交通事故等が多いのは農薬の害によるものが多いと信じます。
 現在の市販の野菜の中でよく農薬を使って危険なものと比較的安全なものを申し上げましょう。
 危険なもの=レタス、茄子、胡瓜、トマト、西瓜、メロン、マクワ、セロリ、キャベツ、白菜、すべての果物、茶及びビニールハウス栽培のもの。
 比較的安全なもの=地下のもの、ナンキン、ホウレン草、ウマイ菜、水菜、キクナ、及び豆類等のグリーンの野菜(但しハウス栽培のものを除く)
 《編集部註 最近では、ほとんどの野菜に殺菌、殺虫、除草剤等が、使用されるようになってきました。また輸入野菜も増えてきているため、生産地やポストハーベストにも注意する必要があります。》
 危険なものの中、果菜類、果実類は皮を厚く剥いて下さい。そしてたくさんはたべないように。キャベツ、白菜は五月半ばより十二月半ばまでは上葉は捨てて下さい。且つたくさん食べないように。
 それから家庭殺虫剤や蚊取線香等にはすべて農薬が入っていますからなるべく用いないようにして下さい。毒物で蚊や蝿が死ぬような空気の中に居て人間だけが健康で居られる筈がありません。夏は蚊帳を用いて下さい。その他農薬の中には中毒以外に催奇形性、遺伝毒性、発癌性等の作用があるものが次々と分かってきました。(以下、次号に続く)


  

毎日の小さな工夫を大切に その一
  


 

   前号で、「外出には飲み物持参で」ということをお勧めしました。  一人一人が携帯魔法瓶や小さな瓶等に飲み物を持って出掛ければ、自動販売機を使わずに済みます。また、缶・びん公害も出ませんし、しかも安全で大変経済的であることをお伝えしました。この私たちの小さな工夫と努力が広がってゆき、自動販売機の数が減ってゆけば、自販機が消費する年間七八億kWh(名古屋市民が三年以上暮らせる量)という膨大な量の電気が少しずつ節電されることになります。現在、若い人たちの間では「マイボトル」として軽量の魔法瓶を持ち歩くことが流行しているそうです。中高年世代にも同じようにこの運動が広がるとよいですね。不思議なことに「地球のために」という大きな目的意識を持つと、実行できますし、持久力も湧いてくるようです。
 さて今回も同じような環境のための省エネアイディアをいくつかご紹介致しましょう。  このごろは大抵のお宅にある電気ジャーポット。このジャーポットの消費電力が最近の大型冷蔵庫の消費電力より多いことをご存じでしたか?年間で換算すると一万四三〇〇円から一万七二〇〇円の電気代がかかっているそうです。(国民生活センターのテストによる。)
「ジャーポットは片付けてしまって、お湯は必要な時ガスで沸かし魔法瓶で保温することにしました。」という会員のかたのお話しですが、その方は朝一回、自分の飲む緑茶を入れるとき以外は、ほとんどお湯を使わないことに気づいたそうです。それまでは一日中(真夜中も)ポットはつけっぱなしになっていたとか。案外そんなお宅も多いのではないでしょうか?あまり知られていませんが、エネルギー効率は電気よりガスの方がはるかに高いのです。同量のエネルギーを得るのに排出される二酸化炭素の量はガスなら電気の1/5で済みます。電気を使わずにガスを使うと、それだけで省エネと環境保護につながるのですね。余談になりますが、環境先進国、ドイツのロットヴァイル市では、電気レンジを止めてガスレンジを購入する家庭には補助金を出して、市民にガスを使うよう奨励しています。ロットヴァイル市に習って、ガスでお湯を沸かし、魔法瓶で保温すれば、ここ日本でも大きな省エネになる訳です。小さな実行ですが、電気を使わないことで環境保護に貢献出来るのがうれしいですね。尚、最近の魔法瓶は性能が良くなり、大変冷めにくくなっている機種もあるそうです。
 引き続き電気ジャーポットを利用する場合でも、低温で保温したり、使わない時には電源を切る等の工夫をしますと、随分省エネが図れます。
 保温の工夫に関連して、ここでひとつユニークな鍋をご紹介いたしましょう。魔法瓶の保温力を生かして調理ができるという鍋です。これは二つの鍋が入れ子になっている構造で、外鍋には魔法瓶の機能があります。一回り小さい内鍋は普通に煮炊きできる鍋です。この内鍋で、豆、ジャガイモ、パスタ、かたまり肉等を四〜五分煮立たせてから外鍋に入れ、そのまま保温しますと、保温だけで茹で上げることが出来るというものです。シチューやカレー、おでんや筑前煮のような煮込み料理も、調味料と共に四〜五分煮立たせてから保温しますと、後は時間が調理してくれて出来上がってしまうのです。この鍋を利用するようになってガス代が半減したという方もおられました。慈光会の職員の中にも愛用者が少なくありません。以前に通信紙上でご紹介した新聞紙や毛布で鍋を包んで行う「保温調理」を、とても便利に行えるよう工夫したものと言えましょう。この種の鍋は大きさや保温の工夫(外鍋をはかせるタイプもある)に色々な種類があるようです。ある試算によれば、全国にこの保温調理法が広まると「六〇〇〇億円分のガスが節約でき、二酸化炭素も減らせる」とのことです。省エネと環境保護、利便性と経済性をも兼ね備えている工夫ですから、一石二鳥ではなくて、一石四鳥といえるかもしれませんね。
 一方、私たちが日常使うもので、メーカーの工夫により資源保護と省エネが同時に実現する場合があります。エコ歯ブラシがその良い例です。(この度、慈光会でも取り扱うことが出来るようになりました。)ドイツ製のこの歯ブラシは、ブラシ部分のみが本体からパチッとはずれるようになっていて簡単に交換出来、今までブラシと共に捨てていた「柄とブラシ周り本体」を繰り返し使用することが出来るようになっています。この歯ブラシをブラシ部分だけ取り替えてもう六カ月以上使用している方が、「替えブラシを取り替えるたびに、今までは使える本体をポイポイ捨てていたのだ、と残念に思わずにいられません。」とおっしゃっていました。ドイツの人々の「資源保護意識」と「ゴミを何とか減らしたい」という真剣なメッセージが伝わってくるような工夫です。日本とはメーカーの意識も国の政策も格段に異なっているのでしょうが、日本でも消費者だけは賢い選択をして、メーカーを動かしてゆきたいものですね。
 次号でも、省エネ、環境保護の身近な工夫をお伝えしてゆきます。会員の 皆様も日常の工夫があれば是非編集部までお寄せ下さい。お待ちしています。

  

 慈光会第2回学習会 環境ホルモン講演
  

日本子孫基金運営委員 三宅 征子




   (一九九八年十月一八日 五條市市民会館での講演を要約したものです。)

身近な「環境ホルモン」の調査

カップめん

 次に私たちが実験の対象に取り上げたのが「カップめん」の容器です。ここにも「カップめん」の絵が出ておりまして触れられておりますが、日本で売られている「カップめん」の容器のほとんどは発泡スチロール製のものです。原料はスチレンですが、このスチレンの中のダイマー、トリマーと呼ばれるものは環境ホルモン作用があると言われています。これを問題にしていろいろ検査をして発表しました。いろんな種類のカップめんが売られているのですが、ブランドの違うもの、名前が違うものを一〇〇個買い集めてきて検査をしました。そうしましたら容器からは全てスチレンが溶出したのです。その結果を発表すると同時に、「カップめんの容器のより安全なものへの切替え」ということをメーカーに提言したのです。一般の消費者に対しては、「カップめんを買うのは控えるようにしたほうがいい」ということを提言しました。このカップめんは、非常に多く出回っており、これを多く食べている方達は若い方たちが多いと思うのです。そういう次の世代を作りだす若い方たちが、こういった「環境ホルモン作用」のあるようなものを多く身体に取り込むということは、影響が大きいわけです。これに関しては業界から反論の広告が新聞紙上に発表され大きな論議を呼びました。全国紙の一面広告で出されてご覧になった方もあるかと思います。これは五月十五日の朝日新聞ですが、「業界でもこのカップめんの容器の調査をしたけれども環境ホルモン作用のあるスチレンは溶出しなかった」と書かれています。しかし国立の検査機関でも同じ検査をして「溶出する」ということを報告しているのです。それにもかかわらず、業界としてはこんな広告で反論を出していたのです。また、日本の最大手のカップめんのメーカーが、ヨーロッパでも同じブランドのカップめんを販売・発売しています。ところがヨーロッパで売られているそのカップめんは、容器に書かれている柄とか絵は全く同じなのですが、容器の種類が発泡スチロールではなく、ポリプロピレン製の容器になっているのです。ポリプロピレンというのは先程も申しましたように、「今のところ比較的安全な容器」と言われている物なのです。実際ヨーロッパではそういう比較的安全と言われる容器で販売されているわけですから、「そういうことが出来ないわけではない」ということです。そういうことを申し入れたのですが、メーカーは当初は全く「危険だという証明がされていない」という理由で「販売に問題はない、販売は継続していく」と言っておりました。そのメーカー自身が今、少しずつ紙製だとかポリプロピレン製の容器に切り換えてきているというのが現実です。私たちとしてはこの発泡スチロール製の容器の物は買わないという配慮、努力が必要だと思います。私たちはこの結果を発表した時に、同じ「めん」でも容器、つまり家でお鍋(なべ)を使うことを提案しました。そうすればカップという、非常に有害なゴミを生み出すことも避けられます。

プラスチックと環境ホルモン

 このように、小さな子供たちそして若い人の環境の中で、影響が大きいと思われるものを取り上げて、実際検査をしてその結果を発表してきました。ここに右のところにグラフがありますが、主要三品目の発ガン性という所で、一番上にスチレンが書いてありまして、乳ガン、肺ガン、白血病と書いてあります。それから下にビスフェノールA、真ん中にありますのが、塩ビ可塑剤、これがいわゆるフタル酸エステル類です。その下の「図の一」この一番右のところに、主要環境ホルモンの年間生産量が載っていてスチレンが飛び抜けて多いということをグラフで示しております。このスチレンの量が多いということは、問題が大きいと私たちは捉えております。ですから「出来るだけこういったものを減らすような努力をしていかなければいけない」と思います。消費者、物を買う人の最大の武器というのは、その名の示す通り「物を買う力」です。「何を買うか」というその行動が物を作りだす側に非常に大きな影響を及ぼすということです。ですから私たちが発泡スチロール製の容器に入った「カップめん」と呼ばれるものを買わなくなれば、当然生産する側は影響を受けて生産を縮小せざるを得なくなるわけです。そして、「じゃあどういう物に変えるか」というところで、「私たちが望むようなより安全な物に切り替わる動きが作られていく」ということです。それは私たち一人一人の消費行動が非常に大きな影響力を持つということですから、「私たちが何を選ぶか」というのは大変大きな意味を持っているということになるのです。わたしたちはそういう所を意識して、より安全な物を選ぶ努力をしていかなければいけないと思います。           (以下、次号に続く)
 

☆ リンゴ予約のお知らせ


imo,mame,nappa,& kaiso 慈光会協力農家が無農薬有機農法で育てましたリンゴの予約を十一月十日まで承ります。販売は、十一月末頃の予定です。どうぞお早めにお申し込みください。  


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