前理事長・医師 梁瀬 義亮
【昭和六一年一〇月二五日「食・農・いのちを考える講座」京都ルミナーホールにて】
難病・奇病がふえている
臨床の立場から見ますと、現代人の健康状態には、想像以上に危険なことが起こっています。
医学が発達し、医療費も一四兆円を突破するほど増えているのに、病気がいっこうに減らない。それどころか、かえって病気が増えている。国民一千人あたりの病人の数は、昭和三〇年で三七・九人でした。しかし、五六年では一三一・五人、五九年では一三七・三人、そして六〇年は一四二・四人と、とうとう一四〇人を超えてしまいました。
それに現代の病気は慢性の退行性疾患、ガンとか、白血病、リュウマチ、慢性肝炎、慢性腎炎、それに膠原病といった、原因も治療法もわからないような難病奇病が多く、人間の体が根本的にずるずる腐ってしまうのです。
そのほかに体力の低下がはなはだしく、また骨がもろくなってきています。さらに重症身体障害児、精薄児、奇形児が多発しています。奇形児で驚いたことに、帝京大学教授の発表によると、東京の奇形児の発生率は、枯葉作戦が原因となったあの有名なベトナムの奇形児の発生率を上まわっているとのことです。
その他に、最近の傾向として、精神の異常が大変多くなっています。いわゆる狂人じゃなくても、狂気に近いような犯罪が増えたり、自殺が多くなっている。そして子供のいじめや暴力など、正常な脳の状態では考えられないことが起こっています。まさに身心ともに、日本民族は大変な危機に陥っているといえると思われます。
平均寿命が四、五〇歳になる日
世間では、平均寿命が伸びてこれから高齢化社会が来るといわれていますが、私は高齢化社会は絶対来ないと言いたいです。
なぜかと申しますと、現代人の死亡原因は、今までの細菌性疾患から慢性の退行性疾患に移行してきているからです。つまり、平均寿命が延びたというのも、この死亡原因の移行期の一現象にすぎないのです。
長生きする人がいると同時に、四〇代五〇代の人がバタバタと死んでいます。これは公害と関係の深い慢性疾患が、だんだんと日本人の死亡原因の中心になってきたということの現れです。
三三年前、つまり昭和二〇八年に、ホリドール(パラチオール)が農薬として使われ始めました。この時が公害の始まりだったわけです。だから日本人の公害年齢は、老いも若きもみな三三歳です。つまり今長命者と若命者が一緒に死んでいるというのは、公害が始まった時六〇歳だった人が今九三歳で死に、一〇歳だった人が今四三歳で死んでいるということです。
農村での農薬による慢性中毒を、臨床経験から研究してみたのですが、微量の合成化学薬品が連続して体内に入ると、普通、一〜五年はどうもないのですが、十〜三〇年ぐらいで症状が現れます。それは中毒としてではなく、慢性退行性疾患として現れて来るのです。
最近の農村にはガン、白血病、肝炎、腎臓疾患、リュウマチ等慢性疾患が非常に多いのです。これら慢性退行性疾患にかかりますと、一年から二〇年で死亡します。だから、公害によって三〇年目ぐらいで発病して、それから二〇年ですから、長くて五〇年で死亡ということになります。
今の赤ちゃんは、胎児の時から汚染されています。ふつう知らないうちに、一日に七〇〜八〇種の食品添加物が体内に入り、さらに二二〇種の農薬が大量に使われていますから、大量の農薬も入ります。ですから仮に今のままで行けば、将来日本人の平均寿命は四〇歳か五〇歳ぐらいになってしまうと思います。日常、子どもたちを診察していますと、その公算は大変高く、日本民族は滅びるのではないかと憂います。 (以下、次号に続く)
日本も新しいエネルギー政策への転換を
先日、「水筒の持参で自販機離れを」ということをテーマにして、ある医師が新聞に次のような投書をしておられましたので、その概要をご紹介してみたいと思います。
《外国を旅行しても、日本ほど飲み物の自動販売機の多い国を経験したことがありません。対照的なのがドイツで、自動販売機はほとんどゼロ。飲み物は食料品店、駅の売店で買うほかありません。
自動販売機の飲み物の缶や瓶は貴重な資源を使って作られ、冷却や保温に二四時間、電力を消費します。資源保護、地球温暖化防止の観点から、自動販売機の飲み物の消費動向は人々の環境に対する意識のバロメーターとなります。医学的にも、糖分の取り過ぎによる健康への悪影響が懸念されます。
そこで、皆さんに「自動販売機離れ」を呼びかけたいのです。私は外出時には水筒を持参し、やむを得ない場合だけ自動販売機に頼ります。最近はリュックを背に街を軽快に歩く姿が一つのファッションとして定着しています。リュックに水筒を入れて歩くのが一般化し、自動販売機を使うことは格好の悪い行為であると大部分の人が感じるようになれば、日本も環境保護の先進国の仲間入りが出来たと言えるかもしれません。ドイツに負けずに頑張りましょう。》
先々号の慈光通信で提案させて頂いたのと同じ内容を、投稿者は外国の現状に比して提案しておられました。「自販機の為に一〇〇万キロワット級の原発が一基必要です。」(日本原子力文化振興財団)などと新聞に堂々と広告を出すのは日本ぐらいなのでしょうね。
「必要だからいくらでも電気を作る」という発想は既に過去のものであり、先進国では省エネ、省資源に向かってたゆまぬ努力が続けられています。
◇ドイツは、国内にある一九の原発をすべて廃炉にすることを決定しました。
◇イタリアは、すでに原発を廃炉済み。
◇スウェーデン、スイスも脱原発に向かっています。
◇アメリカはこの二〇年間原子力発電所を一基も発注していません。このままいくと、二〇三五年に原発保持数ゼロになります。
◇イギリス、フランスでも現在、原子炉の増設は全く計画されていません。
これらの国々では原発に見切りをつけ、エネルギー消費量そのものを押さえる。
太陽光や風力などの自然の力を利用した再生可能なエネルギーを普及させる。などの新しいエネルギー政策へと移行しています。
(以上「原子力資料情報室通信第二九八号付録」より引用)
世界ではすでに「脱原発」が常識になっているのです。
このような世界の流れの中で、日本だけは、さらに二〇基も原発を増設しようとしています。
一方、先日のニュースでは「不景気による電力需要の落ち込みから、和歌山県に計画されていた火力発電所二基の着工計画が延期された。」と報じられていました。電力需要の減少は、不景気の影響もあるのでしょうが、企業、消費者挙げての省エネ努力が実を結んだ結果も含まれていると考えられましょう。「落ち込み」と表現するとマイナスのイメージが強いですが、省エネや地球温暖化防止の観点から言えば、逆にありがたい結果に他なりませんね。
日本は民意が政府の政策に大変届きにくい国ですが、電力消費が減れば、それが様々な影響を及ぼすことは以上の例からも充分考えられます。
時代の流れは既に「脱原発」です。今、私たち消費者は、足元を見直して出来るところから地道に省エネの努力を重ねましょう。一軒の家で出来るささやかな努力も一〇〇万軒集まればとても大きなエネルギーになりますから。通信紙上でご紹介した次のようなこともどうぞご参考にして下さい。
原発一基を動かし続ける「電気食い虫」自動販売機には☆水筒の持参を。
お湯の省エネには☆魔法瓶の見直しと活用を。
料理の時は☆保温調理を実行して。
ちょっとそこまでは☆歩きや自転車で。
家中の待機電力をチェックして☆季節外のクーラーは電源を抜く工夫等。
お風呂の残り湯は、是非再利用を。
不要な電化製品は買わない、持たない、を心掛けると一番の省エネに。
持ち物を減らし、生活の贅肉を落として、簡素な生活を。
慈光会の醤油は一時、国産大豆が極端に品薄で手に入らなくなっていたために、オーガニック大豆を使用しておりました。遺伝子組み換えの問題や農薬の問題等は心配無かったのですが、国内産の農作物を用い国内の農業の振興をはかるという慈光会の趣旨は実現出来ないでおりました。
しかし多くの方のご尽力により、二年前から国内産無農薬の大豆を使用した醤油を仕込むことが出来るようになりました。この醤油は二〇〇〇年の春すぎに二年間の熟成が終わり、瓶詰が出来上がる予定です。
ご存じのように国内産無農薬大豆は大変高価なものです。出来るだけ価格をおさえて設定させて頂くよう現在努力しておりますが、やむを得ず、値上げさせて頂くことになる予定です。諸般ご賢察の上、どうぞ御了承下さいますようお願い致します。