慈光通信#112-#152 |
現在、なぜ医学が発達しながら病人が増えているのかという問題は、病気とは何か、そして生きるとはどういうことなのかを考えてみればわかることです。
私の学生時代、細菌学の先生が講義のはじめに必ず「バイキンが諸君の世界にいるのではなく、バイキンの世界に諸君がいるのだ」とおっしゃっていました。つまり、病原菌の中にいて病気をしないのが、生きているということなのです。我々のまわりには病気になる原因がいっぱいアリマス。そしてそこにいながら健康に生きているというのは、まさに抵抗力、自然治癒力のお陰です。それが生命力なのです。
僻村の調査でわかったことですが、人間は正しい生活をしていると、六〇〜九〇年の一生を病気なしに健康に生きられます。実際にそういった村では、病気をせずに一生を送った老人が多いのです。正しい生活をしていれば、病気は起こらないんです。生活というのは生命力を活性化する人間の営みであり、病気は生活と密接な関係にあります。だから間違った生活をすると病気になり、あるいは死んでしまいます。
ヒポクラテス以来言われている医学の理念は、生命力の衰えによって起こってくる病気という現象を知って、生命力(自然治癒力)の回復の助けをするというものです。ところが現代医学は、解剖などを主体とした屍体の分析から起こったもので、生命力を抜きにしたものであり、病気を病気という次元のみで見ています。だから、お医者さんは、その病人一人一人の生活がどうなのかといったことを見ていません。
病気を火事に例えてみるなら、生活は火元です。現代の医学では、消防車にあたる薬を与えたり手術をしたりということばかりをしていますが、これは病気という火事だけをみて、消防車を増やすことしか頭にないのです。そして街が消防車の水で破壊されるように、病人の体は薬でダメになってしまっています。
病気というものは本当は、火元にあたる生活の次元でみないといけません。火事をなくすためには、火の用心を徹底しないとダメです。同様に生活を正しくしなければ、病気はなくならないのです。
では、正しい生活とは何でしょうか。私は昭和二三年から二七年にかけて、一万人の患者の生活調査、へき村の住民・紡績女工・土方さんの生活調査をしました。で、昭和二七年に出した結論は、東北大の近藤正二先生の日本の長寿村・短命村の調査の結論に極めて近いもので、大変力を得ました。
当時の風潮は動物性の食物を食べろということでしたが、その動物性食物をたくさん食べることのできた金持ちの農家に病人が多かった。そして、貧しい農家には病人が少なかったのです。
一般には、ドイツの栄養学者のフォイトやルーブナーの言いだした、カロリーと動物性蛋白質を中心にした食事というものが盲信されています。つまり、白い御飯、白いパンといったカロリーのもとになるものと肉、魚といった動物性蛋白を中心にして、それに野菜を添えるといった食事です。これは日本人の従来の食習慣を根本から変えました。しかし、このような食生活は、土地も生活習慣も違うところで生まれたものです。
欧米の土地は、水成岩性のアルカリ土壌で、ミネラルが豊富です。水にもミネラルが多いから、ほとんど水は飲めません。また彼らは牧畜民族です。一方、日本の土地は火成岩性の酸性土壌で、ミネラルが少なく、水も軟水で井戸水がおいしい。そしてもともと農耕民族で、穀物をたくさん食べるようにできています。腸ひとつ見ましても、日本人の腸は欧米人に比べて、草食動物の腸のように長いのです。
日本の土地に住むものは、まず第一にミネラル欠乏を防がなければなりません。日本の先祖は海藻をたくさんとってミネラルを補給していました。穀物の体内利用を良くするためには、酵素、ミネラル、そしてビタミンが必要です。そのために忘れてならないのは、海藻と野菜なのです。
その他に、私の調査と三八年間の臨床結果から見て、日本人には、動物性蛋白は肉より魚の方が合うようです。肉食をたくさんする家には大病が多くみられます。どうも、先祖が肉を食べなかったのは、宗教的なことだけではなく、土地からくる影響があったようです。
それから穀物としては、黒いお米、例えば玄米、半搗き米や麦めしといったものを食べることですね。又、「まめな」という表現にあるように、豆を食べると達者になるということは昔から言われています。
こういった日本の土地その他の環境条件を踏まえた食生活が、正しい生活ということになるわけです。
ここでちょっと白砂糖の害について申し上げたいのですが、これは私自身がこの白砂糖の害によってひどいめにあった経験があります。
皆さんご存知だと思いますが、白砂糖はただでさえも現代人に欠乏しているミネラルやビタミンを奪いますので極めて危険です。私は大正九年生まれの六六歳ですが、小学校の四年生の時に十二指腸潰瘍かかった経験があります。というのも、私は大きなお寺の息子で、法事のお供物として甘い物がたくさんあったので、砂糖をたくさん食べられる環境にあったわけです。
当時は精糖会社が、砂糖はカロリーが高くて栄養の素だとPRしていました。だから誰も砂糖に害があるなんて思っていませんでした。私の家では、おかずの味付けにも砂糖がふんだんに使われていました。
私はそのお陰で、小学校の四年生の時には、十二指腸潰瘍を、他に扁桃腺は腫れるわ、熱はでるわ、目ばちこは一四回もできるわで、実に病気だらけでした。それに、冬は霜やけで手がずるずるになっていつも包帯を巻いている、という始末でした。小学校の五年生の時はリンパ腺結核だと診断されました。本当に病気でどれだけ苦しめられたかわかりません。しかし幸運にも、中学三年生の時にある漢方医に出会い、砂糖をやめろと言われてから良くなったのです。
だから医学を習っても、病気の根元にあるものを考えるようになりました。
(以下、次号に続く)
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