慈光通信#112-#152



いのちの食と農を求めて
  

前理事長・医師 梁瀬 義亮



【昭和六一年一〇月二五日「食・農・いのちを考える講座」京都ルミナーホールにて】  


消防車を増やすよりまず火の用心

現在、なぜ医学が発達しながら病人が増えているのかという問題は、病気とは何か、そして生きるとはどういうことなのかを考えてみればわかることです。

私の学生時代、細菌学の先生が講義のはじめに必ず「バイキンが諸君の世界にいるのではなく、バイキンの世界に諸君がいるのだ」とおっしゃっていました。つまり、病原菌の中にいて病気をしないのが、生きているということなのです。我々のまわりには病気になる原因がいっぱいアリマス。そしてそこにいながら健康に生きているというのは、まさに抵抗力、自然治癒力のお陰です。それが生命力なのです。

僻村の調査でわかったことですが、人間は正しい生活をしていると、六〇〜九〇年の一生を病気なしに健康に生きられます。実際にそういった村では、病気をせずに一生を送った老人が多いのです。正しい生活をしていれば、病気は起こらないんです。生活というのは生命力を活性化する人間の営みであり、病気は生活と密接な関係にあります。だから間違った生活をすると病気になり、あるいは死んでしまいます。

ヒポクラテス以来言われている医学の理念は、生命力の衰えによって起こってくる病気という現象を知って、生命力(自然治癒力)の回復の助けをするというものです。ところが現代医学は、解剖などを主体とした屍体の分析から起こったもので、生命力を抜きにしたものであり、病気を病気という次元のみで見ています。だから、お医者さんは、その病人一人一人の生活がどうなのかといったことを見ていません。

病気を火事に例えてみるなら、生活は火元です。現代の医学では、消防車にあたる薬を与えたり手術をしたりということばかりをしていますが、これは病気という火事だけをみて、消防車を増やすことしか頭にないのです。そして街が消防車の水で破壊されるように、病人の体は薬でダメになってしまっています。

病気というものは本当は、火元にあたる生活の次元でみないといけません。火事をなくすためには、火の用心を徹底しないとダメです。同様に生活を正しくしなければ、病気はなくならないのです。

風土に合った食事が一番
 

では、正しい生活とは何でしょうか。私は昭和二三年から二七年にかけて、一万人の患者の生活調査、へき村の住民・紡績女工・土方さんの生活調査をしました。で、昭和二七年に出した結論は、東北大の近藤正二先生の日本の長寿村・短命村の調査の結論に極めて近いもので、大変力を得ました。

当時の風潮は動物性の食物を食べろということでしたが、その動物性食物をたくさん食べることのできた金持ちの農家に病人が多かった。そして、貧しい農家には病人が少なかったのです。

一般には、ドイツの栄養学者のフォイトやルーブナーの言いだした、カロリーと動物性蛋白質を中心にした食事というものが盲信されています。つまり、白い御飯、白いパンといったカロリーのもとになるものと肉、魚といった動物性蛋白を中心にして、それに野菜を添えるといった食事です。これは日本人の従来の食習慣を根本から変えました。しかし、このような食生活は、土地も生活習慣も違うところで生まれたものです。

欧米の土地は、水成岩性のアルカリ土壌で、ミネラルが豊富です。水にもミネラルが多いから、ほとんど水は飲めません。また彼らは牧畜民族です。一方、日本の土地は火成岩性の酸性土壌で、ミネラルが少なく、水も軟水で井戸水がおいしい。そしてもともと農耕民族で、穀物をたくさん食べるようにできています。腸ひとつ見ましても、日本人の腸は欧米人に比べて、草食動物の腸のように長いのです。

日本の土地に住むものは、まず第一にミネラル欠乏を防がなければなりません。日本の先祖は海藻をたくさんとってミネラルを補給していました。穀物の体内利用を良くするためには、酵素、ミネラル、そしてビタミンが必要です。そのために忘れてならないのは、海藻と野菜なのです。

その他に、私の調査と三八年間の臨床結果から見て、日本人には、動物性蛋白は肉より魚の方が合うようです。肉食をたくさんする家には大病が多くみられます。どうも、先祖が肉を食べなかったのは、宗教的なことだけではなく、土地からくる影響があったようです。

それから穀物としては、黒いお米、例えば玄米、半搗き米や麦めしといったものを食べることですね。又、「まめな」という表現にあるように、豆を食べると達者になるということは昔から言われています。

こういった日本の土地その他の環境条件を踏まえた食生活が、正しい生活ということになるわけです。

白砂糖の害で体はガタガタ

ここでちょっと白砂糖の害について申し上げたいのですが、これは私自身がこの白砂糖の害によってひどいめにあった経験があります。

皆さんご存知だと思いますが、白砂糖はただでさえも現代人に欠乏しているミネラルやビタミンを奪いますので極めて危険です。私は大正九年生まれの六六歳ですが、小学校の四年生の時に十二指腸潰瘍かかった経験があります。というのも、私は大きなお寺の息子で、法事のお供物として甘い物がたくさんあったので、砂糖をたくさん食べられる環境にあったわけです。

  当時は精糖会社が、砂糖はカロリーが高くて栄養の素だとPRしていました。だから誰も砂糖に害があるなんて思っていませんでした。私の家では、おかずの味付けにも砂糖がふんだんに使われていました。

私はそのお陰で、小学校の四年生の時には、十二指腸潰瘍を、他に扁桃腺は腫れるわ、熱はでるわ、目ばちこは一四回もできるわで、実に病気だらけでした。それに、冬は霜やけで手がずるずるになっていつも包帯を巻いている、という始末でした。小学校の五年生の時はリンパ腺結核だと診断されました。本当に病気でどれだけ苦しめられたかわかりません。しかし幸運にも、中学三年生の時にある漢方医に出会い、砂糖をやめろと言われてから良くなったのです。

だから医学を習っても、病気の根元にあるものを考えるようになりました。

                           (以下、次号に続く)
  



やさしいエネルギー、ご存じですか?
  


 

  「やさしいエネルギー」とは、一体どんなものを指すのでしょうか?  

例えば、水車を思い出してください。水車を回し続ける水は大地と空とを循環していますから利用しても無くなることがなく、有害ガスを出すこともありません。このように、わたしたちの環境に無尽蔵に有りクリーンなエネルギーを「再生可能エネルギー」と呼びます。(水力、太陽熱、地熱、風力、波力、潮汐その他多数)これらが「やさしいエネルギー」と呼ばれるものですが、地球の循環の中に組み込まれ、地球に負担をかけないエネルギーと言い変えることもできますね。
ところで会員の皆様は「発電所」という言葉を聞くと、どんなイメージをお持ちになりますか?大きなダムを作って行う「水力発電所」や最新の設備を必要とする「火力発電所」「原子力発電所」など、大規模な施設を連想されるのではないでしょうか?どうも私達の頭の中には「大規模なものでなければ電気は作れない」というイメージが定着しているようです。
その様な今までのイメージを打ち破る、小さな発電所から生まれる「やさしい電気」や、「やさしいエネルギー」の数々を、国内外を巡って皆様と共に探訪してみたいと思います。

  牛舎、豚舎からエネルギーが生まれます!  

脱原発を決めたエネルギー先進国スウェーデンでは、ちょっと耳慣れない「バイオマスエネルギー」というエネルギーが、今や、国内で二番目に大きなエネルギー源になっています。エネルギー源としては、一位が石油、三位が水力というのですから、随分大きな割合を占めていることがわかりますね。
バイオマスエネルギーとはどんなものでしょうか?これは、生物体をエネルギー源としたもので、例えば、家畜の排泄物を始めとして、屎尿、浄化槽汚泥、生ゴミ、枯れた植物、おが屑、木材等々を利用してエネルギーを作り出す方法です。
その中の一つ、家畜の排泄物を利用した「バイオガス発電」の仕組みは、とても簡単です。牛糞等をタンクの中に入れ、よくかき回して発酵させ、メタンガスを発生させます。このメタンガスを使ってエンジンを廻して電気を作るのです。エンジンから出る余熱を利用して給湯することも出来ますし、メタンガスをそのまま使って、煮炊きをすることも出来ます。電気、湯及び暖房(廃熱利用)、ガス、が三拍子揃って供給出来る「すぐれもの」という訳ですね。
経済的にはどうなのでしょうか? つぎの例は、年間出荷頭数が一二〇〇〇頭の酪農家の場合ですが、この農家では自己資金一四〇〇万円でバイオガスプラントを建設しました。年間の発電量は、金額に換算すると、六〇〇万円相当(売電で四二〇万円、自家用の暖房利用で一八〇万円)あり、二年半で初期投資資金が回収出来る計算です。家畜の排泄物はそのまま放っておくと環境汚染の原因になるので、今までは処理費用をかけなければなりませんでした。しかしこのプラントを導入したことで、家畜の排泄物が「捨てれば有害、使えばエネルギー」になり、マイナスであったものが、プラスに転じました。プラントからは年間を通じて安定した売電収入が得られますし、メタンガスを排出した後の残滓は有機肥料として役立つということですから、農家にはよいことづくめのシステムです。牧畜の盛んな北欧では以上の例のような大小様々なバイオガスプラントから生み出されるエネルギーがエネルギー供給源の第二位を占めるまでになっています。
日本では、このようなヨーロッパの施設を見学した町長の発案から、京都市八木町でバイオエコロジーセンターが作られました。牛、豚三〇〇〇頭余りの糞尿処理が大きな問題となっていた同町では、現在バイオマスエネルギーで一日三二〇〇KWの発電がなされています。又、発電の際に出る温水は農家のハウス栽培に利用されているほか、処理後の糞尿は堆肥化して販売する計画で、農家にも好評です。又、日本全国から見学者がおとずれているということです。
バイオマスエネルギーは生物体が存在している限り、無限に再生が可能なエネルギーです。学者の試算によれば日本の全人口の生ゴミ、生活排水、屎尿から九〇〇万人分のエネルギーがまかなえ、牛、豚、鶏の糞尿からは五九〇万人分のエネルギーがまかなえるということです。牛舎、豚舎、鶏舎、人家はエネルギーの宝庫であったのです。又、現在ある屎尿処理施設の機能を有効に利用し、新設や改造を加えると、そこはバイオサイクルシステムの施設に変えることが出来るということです。運転経費を低減することが出来るのみならず、コンポスト化、固形燃料化などのリサイクルシステムを導入する事により、今までの屎尿処理施設を「有機性汚泥資源化施設」に変身させることが可能なのだそうです。マイナスが大きなプラスになるのは、ヨーロッパのバイオガスプラントと同じですが、既存の施設がそのまま有効利用できるというのはさらに大きなメリットですね。国としても、自治体単位でも早急に取り組める課題ではないでしょうか。
アジアでは、もっと小規模な例で、十数頭の家畜小屋からメタンガスを集めて毎日の炊事に利用するシステムが、NHKテレビで紹介されていました。小さな村落全体が、そのガスを利用して暮らしています。設備といえば、大きな穴に家畜の排泄物を溜め、そこに蓋をして、たまったガスを炊事場に引いてくる、という簡単なものでした。
イギリスの経済学者シューマッハー博士は"Small Is Beautiful."(小規模であることは優れている。小さいことは良いことだ。)と述べて、これからの経済の方向を示唆しましたが、世界のエネルギー政策も同様で、「クリーンなものを、規模は小さく、方法は多様で」が一つのキーワードになりつつあります。
処理不能の放射性廃棄物を吐き出し続ける原発を一〇基も増やそうとする日本の政策は、工夫の知恵に欠け世界の流れに逆行するものであることを再認識いたしましょう。
次号ではまだまだある「やさしいエネルギー」「やさしい電気」をご紹介する予定です。   
(参考:「自然エネルギー王国 北海道へ」・「おーい、こっちの電気は優しいよ。」・NHKビジネス二一 ホームページ・「Small Is Beutiful.」・「一〇人の環境パイオニア」他)
慈光通信#112-#152