前理事長・医師 梁瀬 義亮
【昭和六一年一〇月二五日「食・農・いのちを考える講座」京都ルミナーホールにて】
「土にしてから土に返す」が要点
ここで、その無農薬農法の原理を少し申し上げたいと思います。
この世を見てみますと、植物があらゆる有機質を合成してくれ、それを食べて動物が生きています。その動物の死体や排泄物、植物の死体である落葉や枯れた木を、微生物が分解してくれます。この微生物には、空気の通うところを好む好気性微生物と、空気の通りにくいところを好む嫌気性微生物の二種類があります。山の落葉が積もると、空気がよく通うところですから、それを好気性微生物が分解して、プーンとよい香りのする好気性完熟堆肥になります。これが植物の本当の食べ物です。
また、好気性完熟堆肥は土にしみ込んで、土の中でバクテリア等の微生物を育て、その排泄物や死骸の成分を植物が吸い上げて大きくなり、それをまた動物が食べるのです。つまり、植物(生産者)→動物(消費者)→微生物(分解者)→土中生態系→植物(生産者)……となるわけです。
こういった生態学的輪廻の中に、我々は生きさせてもらっています。この生態学的輪廻を切ってしまうと、土は砂漠になります。例えばエジプトや中近東の砂漠は、家畜を飼い過ぎて、植物が大きくなった時点で輪廻を切ったからだと言われています。
生態系の輪廻を切ってはダメなのです。化学肥料や農薬は、この輪廻を切ってしまうのです。正しい農法は、土から出たもの(有機物)は、土(好気性完熟堆肥)にしてから土に返せ、ということです。今までの有機農法の失敗は、この「土にしてから」というワンステップが抜けてしまっていたのが原因です。完熟してないものは、すぐ土の中に入れるのではなく、まず土の上に置いて、土になるまで放っておくことが必要なのです。
害虫も雑草も、実は味方だ
それから害虫ですが、正しく栽培された農作物には害虫はつきません。硫安をかけたりして間違った栽培をすると、害虫がワァーとわきます。健康な作物には、害虫がついたとしても、害虫が食べるのは五%くらい、最悪の場合で一〇%ぐらいですので、殺す必要なんてないのです。むしろ害虫は益虫の餌ですし、害虫の異常多発は栽培の誤りを指摘してくれる大切な目やすなのです。
例えば一昨年のことですが、私の家の近所の、農薬を使っているみかん畑に、大量にダニが発生しました。しかし私たちの畑では全然でませんでした。これは間違った栽培をすると害虫がわくということの一例です。
また、私たちの畑では、除草剤も使ったことはありません。雑草は土を肥やし、土の流亡を防ぎ、土を清めてくれる大切な農業の援助者です。雑草は、これを上手に使えば非常に有難いものです。
このようにしてできた完全無農薬有機栽培の作物を食べると、元気になります。これは私自身が証人です。私は先ほど申し上げましたように、子どもの頃は様々な病気に苦しめられました。戦争中もマラリアや飢餓で死亡寸前までいった経験があり、戦争から帰ってきてからはレントゲンでやられ、それから農薬でやられたりして体中故障だらけですが、それでも現在六六歳になるまで元気に生きさせてもらっています。完全無農薬有機栽培でできた農作物を食べると病気をしなくなるのです。
自然を壊すのが文明ではない
近代文明がこれほど発達して立派なものがたくさんできているのに、人類に平和・健康・幸福がなく、かえって公害による慢性病で死ぬか、核兵器で滅びるかということになってきています。
では、どこに間違いがあるのでしょうか。私は、医学や農学を含めて現在の科学は、いわゆる学問としては間違ってはいないと思います。が、それを応用するにあたって、一番大事な生命の公理を忘れていると思うのです。
第一番目に、人間は大自然に生かされている生命体であることを忘れています。医者は生命ということを忘れて、ロボットの故障を修理するような理念で治療をし、農業においても、空気、水、大地、太陽といった大自然に作物はすべて生かされているという事実を忘れてしまっています 。
第二番目に、私たちは同じ大自然に生かされた、数限りない生命の一つであるということを忘れています。人類も、他の生命同様、他の生命との共存の中でしか生きられないのです。東洋の先達の言葉に「自他不二」という言葉がありますが、これは、自分と他は同じではないけれども、二つの別のものでもない、密接な相関関係の中にあるという意味です。まさにこの言葉の通り、共存共栄ということを忘れてはなりません。
大自然を征服するのが文明のように錯覚されていますが、以上のことを基本において、近代文明を考えなおさないといけないと思います。 【完】
慈光会協力農家が無農薬有機農法で育てましたリンゴの予約を承ります。
予約締切10月20日(金)
販売十一月末頃
価格 1箱 (10kg入り) 昨年並
*どうぞお早めにお申し込みください。
前回までは「環境に優しい発電」について、二回にわたってレポート致しました。
ちょっと振り返ってみますと、電気を生み出してくれるのは「家畜の糞尿」「ゴミ埋立地の生ゴミ」「用水路」(小水力発電)「風」(風力発電)など、日本ではまだ耳慣れない資源もありましたね。
今月号ではちょっと視点を変えて、「作ったエネルギーをどのように利用したら無駄なく使えるか?」ということを中心にして、レポート致しましょう。
無駄無し「コジェネレーション」(電熱併給システム)について
実は、私達の家へ電気がたどり着くまでに、発生したエネルギーの六五%が失われていました・・・会員の皆様はこのことを御存じでしたか?
左の図をご覧下さい。(「おーい、こっちの電気はやさしいよ」より。北海道市民が作る新しいエネルギーの時代・生活クラブ生協刊)
発電所で発生するエネルギーの実に六〇%は廃熱として捨てられ、発電所から私達の元に送られてくる間にさらに五%のエネルギーが送電ロスとして失われていることがわかります。私達は、全体のわずか三五%のエネルギーを使っているのに過ぎなかった訳です。
このような従来の発電所はエネルギー効率から考えると「効率の悪い浪費型システム」と言えます。これに対して「効率のよい省エネ型システム」と言えるのが「コジェネレーションシステム(以下コジェネ)」です。(「コ」とは「共に」の意味、「ジェネレーション」とは発電の意味。)コジェネとは、従来の発電システムで捨てられていた六〇%の廃熱エネルギーを有効利用しようというシステムで、電気を使う場所で発電機を動かし、その場で廃熱を利用して暖房、冷房、給湯を行い、その結果、八〇%までエネルギー利用率を上げようというものです。コジェネを用いる場合は、使う電力よりも利用する廃熱に合わせて規模を設定します。不足の電力は購入しますので、給湯、暖房を沢山必要とする施設に特に向いているといえましょう。発電機を動かす燃料としては、石油、ガス、石炭、メタノール、バイオガス、など様々なものが使用できるのも大きなメリットです。
現在、国内で、コジェネは産業用(石油元売り各社、製鉄会社等)を始めとして、病院、ホテル、オフィスビル、温水プール、健康ランド、集合住宅、学校等、様々な施設で利用されています。寒冷地では融雪にも利用されています。又、最近ではもっと小規模のコジェネの開発も進み、クリーニング店、銭湯、ファミリーレストラン、雑居ビル等でも用いられるようになりました。日本ではこのように民間からコジェネの利用が広がっていますが、このため、今後の課題も残されています。コジェネは利用地に作られますから、発電機の騒音や振動の対策も必要とされるのです。
一方、省エネ先進国ドイツでは、民間からでなく市や国の単位でコジェネが進められていますので、規模も大きく、騒音対策等もクリアされています。例えば、フライブルク市ではゴミ埋立地(生ゴミ)から集められたメタンガスを用いたコジェネシステムがありますし、ロットヴァイル市では下水処理場から発生するガスをコジェネに利用しています。このようにして得られた廃熱は、ちょうど上水道が各家庭にひかれているのと同じように、熱供給(温水として)のパイプラインを通して各家庭に届けられ、地域の暖房と給湯に利用されています。(各国で熱供給パイプラインは二〇年から三〇年計画で作られています。)ドイツでは、今後、生ゴミ発酵施設や家畜の排泄物から生まれるバイオガス、有名なシュヴァルツヴァルト(黒い森)から出る材木等をエネルギー源とするコジェネシステムも計画されています。
電気を消費地で作り、廃熱を無駄なく利用するコジェネは「規模は小さく、方法は多様に」を実現するエネルギー利用方法として、これから益々注目されるシステムと言えましょう。
産業としての省エネ
個々人がする省エネは環境のためにも大変重要ですが、ヨーロッパではこの「省エネ」が一つの産業になっています。
例えば、家屋の断熱方法ですが、現在日本では外壁と内壁の間に断熱材を入れる方法が主流になっていますが、家の一番外側に断熱材を用いる「外断熱」という工法があります。スウェーデンのエネルギー学者によれば、この外断熱で家を建てると、冷暖房のエネルギー消費量を五〇%減らすことができる、と計算されています。外断熱工法ですと断熱材で家がすっぽり覆われる形になりますから、外気温に左右されることが少なく、わずかなエネルギーで、冬暖かく夏は涼しく過ごすことが可能になる訳です。床から室内が冷やされることもなくなり、結露もなくなることが実験の結果分かっています。又、水に弱いコンクリート壁の外側を保護することになるので、三〇年しかもたないコンクリートの寿命を一〇〇年に延ばすことが出来るともいわれています。
一九七三年のオイルショック以降、ヨーロッパではこの外断熱が注目され主流になって来ましたが、最近日本でもようやく建設省がこの工法の有効性を認め、育成政策を採ると述べているそうです。(「食品と暮らしの安全」一三六号)住宅建設産業がこのような住宅を供給してゆくようになれば、個人の省エネとは又違った角度から規模の大きな省エネを図ることができるようになりますね。家を建て直さないまでも、窓に断熱ガラスを用いるだけでかなりの省エネが図れるそうです。日本では余りなじみのない断熱ガラスの普及も、産業界が大きく与する分野となるでしょう。
一方、電気器具の省エネの工夫は欧米だけでなく、日本の産業界でも積極的に取り組まれている課題です。冷蔵庫やエアコンを新しいのに買い替えたら、電気代がグンと下がった、という経験をお持ちの方も多いことでしょう。電気製品は日進月歩で省エネの工夫がされています。
例えばテレビやパソコンの画面を液晶にすると消費電力が七五%も削減されます。温水便座も使用時だけ温めるタイプのものが開発され、電気使用量は1/2になりました。照明器具も省エネ型(蛍光灯の半分の消費量)が普及すると一三五万KW級の原発五基分の電力が削減されると通産省では試算しています。
このように消費者が省エネタイプの電気製品を選択することで削減されるエネルギーは、かなり大きな量になるのです。
アメリカでは消費者に省エネタイプの電気製品を選択しやすいように、一つ一つの製品に消費電力とその電気代を表示するように義務づけています。これを「ラベリング」と呼ぶそうですが、日本でも消費者に分かりやすい形で省エネタイプのものが選べるようなデータが呈示されることが望まれます。
以上、「エネルギーを無駄なく使う工夫」の極一部をレポートしてまいりましたが、一体本当の意味での「省エネ」とは何なのでしょうか?
東北大の長谷川公一教授は「省エネ」と呼ばず、「エネルギー利用の効率化」と定義されました。無駄に捨てられていたエネルギーを工夫し生かして使う工夫です。緑の木々を増やし、涼しい環境をつくって暮らすアメリカ、デービス市の工夫(慈光通信一〇一号掲載)等も広い意味で省エネに含まれると言えるでしょう。
フライブルク市ではコジェネを始めとする様々な省エネ対策を実行した結果(一九七九年〜一九九一年トータル)、対策に投資した資金を差し引いても一八七六万マルクを節約し、CO2の排出量は三〇%、COは二六%、SO2は五七%、NOXは二〇%、粉塵は五三%削減することができました。(「一〇人の環境パイオニア」より。白水社刊)
このような外国の例からも、日本が学ぶ事はまだ沢山あると思われます。次回はぜひ参考にしたいデンマークの「フォルケセンター」のレポートをさせて頂く予定です。
(以下、次号に続く)