前理事長・医師 梁瀬 義亮
【この原稿は慈光通信第四号(一九八七年十月号)に載せられたものを、今回、再掲載させていただきました。】
例年のこと乍ら秋になると、汚染果物や稲田の農薬撒布のために農薬の亜急性或いは慢性中毒を起こした患者さんが多くなります。症状が不定なために、ノイローゼ、過労、脚気等と間違はれ勝ちです。当面、急な生命の危険は無いにしても、大変不愉快な日々を送ったり、学校の成績が落ちたり、或いは様々の事件を起こしたりします。又、これを繰り返していると、十年、二十年先に恐ろしい肝臓病や腎臓病或いはリューマチ、はては癌や白血病の原因にもなりますのでよくよくご注意下さい。
果物(外国から来る物も含めて特にバナナ等)は大変多くの農薬を使いますので必ず厚く皮を剥かねばなりません。たとえ皮を剥いても尚浸透した農薬が残りますから、たくさん食べない事が大切です。農薬に弱い人や妊婦、生理中の女性は全く食べないことをおすすめします。栄養的には、野菜をしっかり食べていれば果物は食べなくてもかまいません。(附・夏野菜では、茄子、キャベツ、白菜、レタス等が特に多く農薬を使います。)
又、茄子等の野菜、様々の果樹、或いは稲へ散布する殺虫剤が飛んで来て中毒する例も多いので注意を要します。散布された農薬は半日位は付近の空中に停滞することがしばしばですので御注意下さい。又。蚊取り線香はじめ様々の家庭用殺虫剤も農薬が使ってありますから注意して下さい。
農薬の亜急性或いは慢性中毒の症状
原因もないのに気分がいらいらしてたまらない。
次々と色々の、時には、とっぴもない発想がうかんであれもしなければ、これ もしなければとの思いが止め様もない。然も全然実行が出来ない。
仕事をする、或いは人生を生き抜く気力がなくなって、悲観的、厭世的な気分 になってくる。
うなじや肩が凝って仕方がない。
夏期には汗がやたらと多く、又、脂汗がべっとり出る。
めまいしたり、乗り物に弱くなったりする。
胃のあたりがぼてっといつも張っているような気持ちがする。よく胃炎、胃下垂、胃潰瘍を起こす。
大便が軟らかくて一日三〜四回もある。然も便が出きらないような気がする。時には激しい便秘が起こることもある。
手足が冷え、顔にシミが多くなり、全身の皮膚にシミ様に、あるいは全体的に色が黒くなる。
アレルギー体質が出来てくる。蕁麻疹、湿疹、アレルギー性鼻炎や結膜炎等々‥‥は副腎皮質の機能低下によると思はれます。
肝機能が悪くなる。
貧血が出ることもある。
以上の症状の中のいくつかが、様々の度合いで組み合わさって極めて徐々に進行するのです。病理検査でも大した所見もなく、医師は判断に苦しみます。
こんな症状がいくつかあったら一度、農薬の害ということを考えるようおすすめします。
家庭で出来る省エネの工夫
前号でお伝えしたように、日進月歩で省エネの工夫がなされている電化製品ですが、現在家庭では待機電力(タイマー機能を備えたビデオデッキ、エアコン、ファックス、オーディオセットの為、又、テレビがすぐつく為などに二四時間消費される電気)が総電気使用量の一五%にも達していることを御存じでしたか?
仮に一万円の電気料金を払っている人は一五〇〇円の待機電気料金を毎月払っていることになります。見過ごせない消費量ですね。これを全国でまとめると、大型原発の三基分の電力に該当するそうです。たとえ省エネ設計が進んでも、電気器具が増え、待機電力が増えれば、省エネされたはずの電気も待機電力に相殺されて、結局は元の木阿弥になってしまいます。予約をしているビデオデッキやファックスなど、待機電力を切ってしまうと機能しない場合もありますが、テレビをすぐ見るための待機電力などはカットが可能なエネルギーです。
そこで、この工夫を取り入れたある平均的家庭のケースを見てみましょう。(「おーい、こっちの電気はやさしいよ。」より抜粋)
以下の三つの項目を実行し、他はそれまで通りの生活をしたところ、一年間で二万二千円のお金とエネルギーが節約できたという三人家族の例です。
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使った後にプラグを抜く。(洗濯機、ラジカセ)
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外出時にプラグを抜く。(テレビ、ファミコン、パソコン、ステレオ、蛍光スタンド、ストーブ、換気扇)
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寝るときにプラグを抜く。(テレビ、換気扇)
コンセントにプラグを差したままだと、たいていの家電製品は電気を消費しているのだそうです。ラジカセや電気スタンドも、例えスイッチが切ってあったとしても消費電力が必要なのですから、本当にびっくりしますね。たいていの方は、このことを御存じないでしょう。
現在、「手元スイッチ」というものが製品化されて、これを機器とコンセントの間に装着すると無駄に流れる電気を手軽にカットできます。いちいちプラグを抜く手間がなくなりますから、利用するのも一つの方法でしょう。こまめに電灯を消すのもお忘れなく。冷房用のエアコンのプラグもシーズンオフには抜いておきましょう。
家電メーカーの省エネ商品開発の工夫と共に、家庭で出来るこんな簡単な努力も積み重ねてゆきたいものです。
持続可能なエネルギーを広めるために
四回にわたって、様々な環境に優しい発電や工夫をレポートさせて頂いてきましたが、このような工夫が広まるためにはどのようなシステムが必要でしょうか。
デンマークにある欧州最大規模の自然エネルギー開発研究所「フォルケセンター」をのぞいてみましょう。
ここでは、風力発電始め、太陽光、太陽熱利用、バイオガスシステムなどの、あらゆる形態の自然エネルギーの研究開発を行っていて、世界各国から研究者や留学生が訪ねて来ています。
このフォルケセンターの事業内容を、見てみましょう。
事業内容は大きく五つに分けることが出来ます。
.風力発電機ノウハウの提供。
.買電に関しては電力会社と、制度に関しては政府との交渉等行う。
.消費者への普及活動。
◇情報誌の発行。
◇テストステーションを建設し機器の性能を広く知らせる。
.培った経験内容を翻訳し、各国へ出版する。
.スタッフ養成の為のプログラムを作成し、実行する。
(前出誌より抜粋)
以上のような事業内容で、中小規模のエネルギー生産を担う個人やグループへの支援がきめ細かく行われています。このような実際的活動をバックアップしてくれる研究所があれば、全く経験のない酪農家や企業も事業への参画を安心して始めることが出来ますし、すべての人にとって優しいエネルギーは大変身近になります。環境に優しいエネルギーを生み出そうとする人達に、ゼロからの出発をさせず、十分なノウハウを提供する理由は、これが国の政策として進められているからなのです。
残念なことに日本にはこのような積極的な国の政策はありません。しかし地方の地道な活動の中から、このフォルケセンターをモデルにした「自然エネルギー開発研究センター」が一九九七年北海道北桧山町太櫓地区に誕生しました。風力発電の研究、開発(北海道はデンマークと立地条件が非常に似ている)を始めとして、バイオガスプラントエリア、洋上ステーションエリアなどがあり、「自然エネルギー高等技術専門学校」も併設されています。この学校で学んだ人々が、日本中に優しいエネルギーのメッセージを発信してくれる日の近いことに期待を寄せたいですね。
持続可能な優しいエネルギーを選択し利用することは、省エネの工夫と共に「次代を担う私達の子供や孫たちに緑の地球を残してゆく」という壮大で切実な願いに基づいている、という事をもう一度確認して、レポートを終わらせていただきたいと思います。
御所市吐田 花野 五壤
冬の日を一っぱい受けて家も木々も一斉に生々と輝いている。ここは風の森峠の旧道、大昔からの葛城の道である。金剛山の麓に千年も幾百年もそのまま息づいている里である。家はあまり古くもなさそうであるが、それぞれの調和を持った、懐かしいたたずまいである。高く後にそびえている葛城の連山は、光を吸った山膚が、つや消しの様に渋い色あいをみせているのが美しい。今年は暖かい為か、まだ黄葉が散り残って時々そっと遠慮深く屋根の上に散り敷いている。これだけが、動勢で他に動くものは何も無い。家の中では、人の気配はありながら誰一人目につかない。
これが本当に生きている姿であろうか。騒がしくいらいらしている都会の生活、暴れまわる近頃のテレビで見る若い歌手の動作も一つの表現であろうが、それは一つの表現であって生きている姿そのものではなさそうである。
耳をそば立てれば木々の私語、屋根瓦のつぶやき、葉々の声。この静かで物音一つ立てない家々の中でも、生活の営みが日々刻々と行われているのである。
身体の中で、胃が食物を溶かし腸は黙々と動いて要、不要をより分け、肺は血液の浄化に音もなく専念している様に。
かつて西欧ウィーンの町を訪れた事があるが、いいようのないその静けさに感動し、この静けさこそ、音楽を育てた一番大切なものの様に思った事がある。
音楽でも、美術の作品でも、本物の偉大な作品は、この静けさの中にしっかりと作者の心臓の鼓動が聞きとれる。
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