癌多発の恐怖の時代に如何に処すべきか!(7)
  


財団法人慈光会 前理事長・医師  梁瀬 義亮



(一九八四年七月一日 慈光会第十回定期大会での講演記録です)


 今一つ毒物について申し上げますと、皆様にくれぐれご注意願いたいことは、煙草や酒類です。これは最近は特に害が大きうござい ます。色々な他の公害物質との相乗作用も起こりますし、また煙草自身ニコチンやタールによる害のみならず農薬も一緒に入ってくる わけです。現在煙草栽培にランネートと云う恐ろしい農薬を四回位使っております。この間も福井県から煙草作りの夫婦がみえておら れましたが、殆ど廃人でございます。「あなた方どんな農薬を使っておられますか」と聞きますと「ランネートを年四回位使います」 と申しておりました。廃人のような姿になって私の診察室に来られました。然もそれまで原因不明ということで様々の病院に通ってお られたのです。お酒も、私は製法を存じませんが臨床で診ておりますと、ともかくお酒を沢山飲むことによっておこる害が以前に比べ て問題にならない程甚だしいようです。どうぞ酒、煙草は出来るだけ少なくしてください。煙草は一日二十本では多いです。患者さん に十本になさいと云うのです。そして必ずパイプを付けなさい。そして出来る限りやめるようにもってゆきなさいと勧めています。お 酒(日本酒)も二合飲む人は一合になさい。一合をこえたらだめですよとお勧めしております。その他の色々な酒類もなるべく飲まぬ ようにと云う事を申しておる次第でございます。最近お酒を飲む人に焼酎を愛用する傾向が強くなって参りましたし、また地酒が愛用 されるようになりました。これはやはりお酒を好む人が自ら身体でもってその害を気づいた一つの現れだろうと思っております。

 それから農薬でございます。農薬は昆虫を絶滅せしめるようなものですから、これは一番恐ろしいものです。昆虫と云うのは地上に 於いて最も生命力、適応性、生活力の強いものです。人間などは及びもつかぬ位強いのです。そのようなものを殺してしまう毒物です から極めて毒性が強くて恐ろしいものです。現在約五千種類近い農薬が許可せられ、その中よく使われているのは、殺虫剤百種類、殺 菌剤で七十種類、除草剤五十種類ございます。除草剤の害はこの頃大変やかましくいわれておりますが、ご存じの如くアメリカ軍がベ トナムで使い、物凄い奇形を起こし、癌や肝臓疾患を起こしたあの恐るべき除草剤は二四Dと二四五Tの合剤です。その中にダイオキ シンを含んでいて非常に危険なものです。それを日本では、山林の除草に使っておったわけです。そしてそれを廃棄せよと云う事になっ たら、それをドラム缶に入ったまま山腹に埋け込んでこの頃大問題になっておりますが、これはもう文明人としては考えられない程愚 かなことです。二四五Tをドラム缶のまま土中に埋めておけばドラム缶が腐蝕して、中の薬品が流れ出して大変な事がおこること位は だれでもが考えなければならないことなのに、それを平気でやっていたということは、何とレベルの低い話だろうと呆れ返ってしまう のです。然し乍らこういった除草剤がどんどん使用されているのです。そして水が汚染されている誠に困った状態です。

最近「怖い農薬は一切使いません、怖くない農薬しか使っておりませんから大丈夫です」という農家の方がよくおられますが怖くない 農薬なんてないのです。低毒性農薬という言葉を農家の方々に恰も無毒であるかの如くに印象付けてしまったが為にこういうことがお こるのでございまして、低毒性ということはホリドール(パラチオン)とか或いはフッソールとかいったようにコロリと一発には死な ないと云うだけの事です。コロリと一発にゆかないと云うだけの話が低毒性と云う事です。これは急性中毒の話です。LD50と申しま して百匹のネズミをそのネズミの体重一sあたり何ミリグラム与えたら半数(五十匹)死亡するかと云う量(数値)をLD50と云いま す。だからLD50の数値が少ないほど毒性がきついというわけです。この数字によって特殊毒物、劇物、普通物(普通物及び劇物の一部を低毒性と 名付けています)と決めているわけですが、すべて急性中毒の話です。低毒性といっても決して無毒であるというわけではないのです。 のみならず低毒性と云われるものでも、急性中毒を起こさないというものではないのであって、毎年低毒性農薬の代表的なスミチオン とかマラソンで急性中毒を起こした例は沢山あるのです。皆様ご存じのように松食虫の退治だと云ってスミチオンを撒布します。年間 何百億円というお金をかけてスミチオンを撒布します。ところが松食虫が一寸もとまらずに、松はどんどん枯れてしまいました。あの 撒布するスミチオンの濃度はいくらと思われますか。普通一般的にスミチオン撒布の時には一千倍液に薄めて使用します。ところが松 食虫用は僅か十八〜二十倍の極めて濃いスミチオンを撒布するわけです。これは猛毒です。それが山の中の小鳥を殺し、益虫を殺し、 山の生態系をめちゃめちゃにしてしまったわけです。それでも尚止めずにこれを続行しようとしていることは、誠に遺憾なことである と思うのでございます。

農薬の中の殺虫剤の低毒性について申し上げましたが、除草剤の害も農家の方はくれぐれもご認識いただきた いと思います。これは奇形発癌以外、急性毒性もよく起こします。私等協力農家及び直営農場におきましては、過去二十年以上前から 一滴の農薬も一片の化学肥料も勿論除草剤も使用せずに立派にやってきております。皆様いつも販売所で買っていただいておりますあ の物でございます。栽培方法の研究もほぼ完成したつもりでおります。 以上のことで私は病気と云うものを我々の誤った生活に対す る大自然の警告であると云うふうに受け取っていただきたい。そして今の進んだ医学でもって病気を治すのは結構ですが、それと同事 に生活の矯正に気を付けていただきたいと思うのです。癌のメカニズムに関しては今申した事をよくご理解いただきまして、ともかく 出来るだけ農薬、食品添加物、余計な医薬品と云ったようなものを身体に入れないと云う努力をしていただきたい。慈光会も出来るだ け豊富に皆様に供給させていただけるように努力するつもりでおります。

 



第四回 学習会「危険な輸入農産物」レポート(3)

 
 

(前号からの続き)

5.100%輸入の飼料用トウモロコシ。    (卵や牛乳、肉にもその汚染が残留して・・・)
 卵や肉を購入するとき、どのような飼料で育てられたか、ということもチェックする必要が出てきました。現在では遺伝子組み換え トウモロコシも沢山輸入されています。飼料用農産物は殆ど輸入に頼っていますから、「ポストハーベストフリー、遺伝子組み換えフ リー」の飼料を与えて育てられているものを選ぶ必要のあることを学びました。

◇恐ろしい環境ホルモン作用のあるポストハーベスト農薬
 輸入農産物の多くに使用されるポストハーベスト農薬の中には、環境ホルモン作用が明らかになっているものが多数あります。果物 に使われることの多い、OPP、ベノミル等。又、小麦や米、大豆等の穀類に用いられる有機燐剤マラチオン等。どれも、環境ホルモ ン農薬です。環境ホルモンは1兆分の1グラムというごくごく微量でわたしたちの体に作用してきます。先天異常、精子減少、不妊症、 IQの低下など、子孫への影響は極めて大きく、人類の未来が案じられる情況にあります。

◇では、国産なら大丈夫??
 国産の農産物にもご存じのとおり、多くの農薬が使用されています。 97年に環境庁が発表した環境ホルモン作用のある化学合成 物質約70種のうち、およそ3分の2を占める44種は農薬でした。現在よく使われる農薬は300種類ほどあります。これらの44 種の農薬以外には全く環境ホルモン作用がない、と言えるかどうか、又、二種類以上一緒に摂取したときの相加作用や相乗作用は一体 どうなるのか、ということについては、十分な研究がなされていないのが現状です。 学習会では、「みかん」と「稲」の防除暦(農 協で販売されている暦で、農産物ごとに、いつどのような農薬をどれくらい撒いたらいいかが分かりやすく記載されている。)が例と して紹介され、国産でも決して安心できない現状を学びました。

◇今、私たちにできることは?
 あまりにも物凄いポストハーベストの現実の映像を見て、今、私たちに何ができるのか、共に考えたことを以下にまとめてみました。
◎私たちの口に入る食べ物は、どのようにして作られ、どのような処理をされてきたのか、その実態をよく知る。
◎健康のためにも、 子孫のためにも、環境保護のためにも、できるだけ国産の無農薬有機栽培の農産物を選ぶ。◎肉、卵、牛乳を購入するときも、飼料 にポストハーベストが使われていないも のを選ぶ。(現在では、一定のルートを通ってポストハーベストフリー及び遺 伝子組み換 えフリーの飼料が輸入されている。)
◎農薬汚染は、私たちの知っている以上に浸透している。学習会で分かった内容 を周りの人々 に伝えて、一人でも多くの方に農薬の恐ろしさを知ってもらう。

◇国内で有機農業を守る意味
 現在、日本の食料自給率はカロリー換算で40%しかありません。欧米諸国では殆どが、自給率100%です。 農業をおろそかに して、栄えた国のないことは、歴史が物語るところです。 そこで、私たちが、国産の無農薬有機栽培の農産物を購入することには、 大きな意味が生まれてきます。 一つ目には、日本の農業を守り、自給率を引き上げることにつながります。二つ目には、自給率が上 がれば、ポストハーベスト処理された農産物の輸入が減り、国民の健康増進が期待できます。(学習会では、輸入小麦に混ぜられる殺 虫剤が、化学物質過敏症を引き起こし、ポストハーベストされた輸入大豆が日本人の発癌リスクの第一位であることを学びました。) 三つ目には、農薬を使用しない農業を守ること自体が、生産の過程で環境を守り子孫の命を守ることに直結します。 神戸大の保田先 生が「環境や命は有機農業でしか守れません。」とお話しして下さったそうですが(於「全国有機農業の集い」鹿児島大会2002 年)、この簡潔なセンテンスの中に、多くの大切な意味が凝縮されているのではないでしょうか。 【完】