ご協力ありがとうございました。
吐く息が白い。朝霜は今月に入り何度降りただろうか。季節は確実に冬へと移った。暖冬とは言え農場の朝夕はとても冷える。夜空に満天の星が見える日は放射冷却が起こり、翌朝田畑や土手などに霜柱が立つ。四つんばいになり、地表に顔を近づけじっと観察する。そこには美しい氷の芸術が光る。有機質の多い土は黒っぽい柱、赤土は褐色の柱、水分の多い所は白く透明に近い氷柱が鋭利な肌を朝日に輝かせる。
昔から、冬の寒さは土質を良くすると言い継がれ、厳冬の農作業には寒起こしといわれる作業がある。寒起こしをする事により、雑草の芽や種を枯らし土中の害虫や雑菌の繁殖を防ぐ。また深く掘り起こすことによりたくさんの空気が土中に入り、好気性バクテリアや良性のカビの繁殖を促すなど利点は多数ある。しかし冬眠中の昆虫や小動物にとっては至って迷惑な話だ。慈光農場も1月に収穫を終え、空いている畑はすべて寒起こしを行う。稀にこういう珍事も起こる。土の中からごろんと大きなかえるが出てくることがある。体の動きはぜんまいの切れかけたおもちゃのようだが、目だけは寝ぼけまなこで、こちらをじっと睨んでいる。思わず「ごめん」、すぐに手に取り草むらへ。穴を掘り、臨時のベッドを作り、そっと寝かせる。「よく寝てたのに起こさんといてや」と土中よりかえるの声が聞こえたような・・・・・。
これから厳しい寒さに耐え益々おいしくなる冬野菜、寒気という調味料が作物を甘くそして柔らかくし、野菜好きの人にとっては最高の旬を迎える。
京野菜の中に水菜がある。地味ではあるが、その細い体は厳冬にも耐え抜く強さがあり、昔から関西では水菜といえばハリハリ鍋であった。そのシャキシャキとした歯ごたえは冬の食卓には欠かせないものであった。が、残念なことにその生産量は年を追うごとに減少している。
ここで水菜について説明させていただく。
あぜの間の清流で育てられた事から、この名がついた。京都原産のもので、関東では京水菜(京菜)とも呼ばれる。濃緑色のギザギザの葉と白いすらりとした茎をもつ野菜で、シャキッとした歯ざわりが持ち味。調理法は、浅漬け、ハリハリ鍋や独特のしゃきしゃき感をいかすため、熱湯でさっと湯がいた後、ごま油で炒め塩、ゴマ少々で味付、又はサラダに使ったりする。サラダ用水菜もあり、生でヨーグルトとマヨネーズで和えたり、ポン酢とマヨネーズを合わせたもので和えたり、ドレッシングでいただいても美味。タコやツナ缶を入れたり、かつおをふりかけると青臭さが消えておいしい。しゃきしゃき感を残すように、煮すぎない、炒めすぎないのがポイント。
以上のように色々な料理法がある。繊細に見えるが病害虫にも強い野菜であり、か弱いが芯はしっかり者の京美人と重なって見える。
昔、霜柱で根を上げられた5cm位の麦を踏みつける作業があった。頬かぶりをしたお百姓さんが朝日を浴びながら、畑の麦を踏んで歩く。今では昔話の一コマとなってしまったが、踏みつけられた麦は力強く頭を持ち上げる。根は硬く土の中に広がり、地上部の何倍もの長さに伸びていく。現代人も冬の麦のように何事にも力強く真っ直ぐに生きて行きたいものである。
以前に冬の美しい森の木々のことを書かせていただいたが、他にも素晴らしい冬の自然がある。夜空にちりばめられた冬の星座もその一つである。天体は古代ギリシャの人々をも彷彿させロマンを抱かされる。中でもオリオン座、ふたご座、おうし座や最近話題になった火星が夕空に一際美しく輝く。そのような数多くの星座を見ることに感動を覚え、また日々の小さな事に取り乱されている自分自身をも反省させてくれる。何億光年と気の遠くなるような彼方より発せられた光が今私の目に届く。感動以外の何物でもない。今も夜空を見ると思い出されるのは、夜中往診を終え帰宅した前理事長が、じっと夜空を見つめていた姿である。どのような願いを込めて星空を仰いでいたのであろうか。この美しい夜空を農場の作物たちも見ていることだろう。
会員の皆様、この一年慈光会の作物を愛しご利用いただきましてありがとうございました。
夜空が美しい農場より