慈光通信135号 (2005年2月)



自然と生命をとりもどすために III   前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和五〇年(一九七五年)六月二九日高松市民会館で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】

健康と食物・食物と農法・農法と心

  

生命力は自分で守る

 
  ここでまず、皆様に、いくら病院が出来てもお医者様が増えても皆様の健康は守られないという悲しい話しをちょっと申し上げてみます。このことは
  
皆様に自分で生命力を守っていただかなければならないということを知っていただくためです。四兆円という医療費を使うという事実からみても、現在

の医学は応急処置としては素晴らしいものがあるのです。しかしながら、この医学をもって応急処置と、いつまでも恒久的に健康を守る方法とはおのず

から違うのです。

 例をとってみるとこうです。

 例えば、火事という事件が起こったときに、応急処置としては消防隊が活動して水をかけるということです。しかしながら、火事をなくするためには、

いくら消防隊を増強したってだめなんであって、火の用心が火事をなくする一番肝心の根本の対策でございます。火の用心をせずに消防隊ばかり増強し

て、水ばかりかけておりますと、その時はきっと家がつぶれてしまうにちがいない。

 同様に現在の医学はこの応急的に病人の命を救うという点ではなかなか素晴らしいものをもっていますけれども、さりとて、こればかりで人間を守る

ということは、はっきりいいましてできない。それのみならず、かえって病気を作るということになるのです。

 その理由はこうです。私達のまわりには、ばい菌が沢山いると皆様葉思われるでしょうが、実は私達のまわりにばい菌がいるのではなくて、ばい菌の

中に私達が住んでいるのです。これが本当の姿なのです。そして、暑さ寒さ、あるいは、湿度、乾度、いろいろなこととともに、いつでも私達はそれで

病気になってしまうという環境の中で住んでいるわけです。しかも、その中におりながら、私達が病気をせずに元気でおれるというのは、私達の中に

生命力あるいは自然治癒力と申しましょうか、素晴らしいお医者様がおられて、そして皆様がおあがりになる食事を材料に立派な薬を作ってくれる。

それにはなんの副作用もない。ホルモンにせよ、抗生物質にせよ、全部作ってくれて副作用のないものを我々に供給してくれるから我々は病気になら

ないわけです。

 ところが、何らかの理由で、例えば、後から申し上げます生活のまちがいとか、色々な精神的な面とか色々な理由でもって、この生命力が低下し

ますと、まわりにおりますところのばい菌が病原性をおびて我々が病気になるのです。

 皆様は結核菌で結核になると思われるでしょう。そういう皆様がほとんどその結核菌を体内に持っているわけです。また、化膿菌で扁桃腺が化膿する

と思われるでしょう。その化膿菌を皆さんは持っておられるわけです。それで病気にならないのは、生命力が旺盛であれば自然状態において、色々な

ばい菌がいても病気にならないからなんです。この生命力が低下しますと、そこにいろいろな病気が起こってくる。起こってきた病気という結果だけを

みて、化学薬品でこれを抑えようとしている。それが成功しても、その化学薬品というのは、私達の身体にとっては異物であります。毒物です。だから

一応病気はおさまったけれども。生命力は元のまま。いや、むしろ低下してしまう。そしてまた同じことが起こってくる。この循環をしている間に人間

の身体が薬のヘドロになってしまうのです。そして違った形の病気が起こってくる。

 これが現在、心ある医師によって叫ばれている医原病という、お医者様の薬が原因となって起こる病気なのです。はっきりした実例を申し上げますと、

扁桃腺というのは、化膿菌が繁殖して、扁桃腺が膿んだ状態です。これをお医者さんへ連れてゆくと、すぐに抗生物質を下さいます。そうするとばい

菌を殺しますから一時は治ったようになります。患者さんはそれで治ったような気持ちでおります。しかしながら、今言った通り、皆様はのどにばい菌

をもっておりながら、のどは化膿してこない。その化膿する人の生命力が落ちているから化膿がはじまったのです。その生命力は元のままで、抗生物質

でばい菌だけを殺しましたから、一応治ったかに見えます。けれども抗生物質の作用で大事な体内細菌の状態も変わってきますし、また抗生物質自身の

蓄作用もあるわけです。少なくとも生命力は強くなってはいないので、また起こってくる。このくり返しが現在の医療の姿です。

 そこで、私の申したいことは、現在の医療は素晴らしいものを持ってはいるけれども、大事なことは、一応それで抑えておいて、その間に低下した、

衰えた生命力がなぜ衰えたかという原因を確かめて、もういっぺん強くしてあげなければならない。いわゆる現在の医学の欠点は病気を治して病人を

治すことが出来ない。

 まず、病気を治しておいてその間に生命力を高めて病人を治さなければ本当の医療でないのみならず、これによって日本人の身体が、薬のヘドロに

なってしまって大変なことが起こってくる。こういうことでございます。これで皆様、お医者様に頼っていてはだめだ、お医者様というのは消防隊

みたいなものだ。皆様の火事を防ぐには御自身の火の用心だということをご理解いただけたと思うのです。(以下、次号に続く)






「梁瀬義亮記念資料室」設立についての御礼と中間報告


  慈光会創設者・前理事長梁瀬義亮の13回忌を前に、前理事長の記念資料室へのご協力を皆様にお願い致しました所、早速暖かいご支援及び多くの

御寄附を賜り心より御礼申し上げます。

  皆様方のご協力により、関係資料も揃い、整理分類に取り掛かっております。皆様からお預かりしました前理事長の手紙や講演記録等の資料を有意義に
  
活用させて頂けますよう、専門の方からのアドバイスも受けながら準備を進めております。現販売所の二階、慈光会館に併設する青写真も出来てまいりま

した。混迷を深める現代の状況の下、前理事長の示す進むべき道を歩み、一日も早く皆様に資料室を公開できるよう、スタッフ一同さらに努力を重ねて

まいりたいと思います。

 今後とも、どうぞ皆様がたのご協力ご支援を宜しくお願い申し上げます。




映画「スーパーサイズ・ミー」を観終えて 辻本 佳子

                                                                 
 「スーパーサイズ・ミー」を観るまでも、「ファーストフードで使用されている材料は、余り良い物ではないように思われる。」、「余りに価格の低下が

激しくて、なぜこんなことが出来るのか、気になる。」、「栄養のバランスがとても悪そうだ。」、「だから、食べすぎはいけない。」などとは、思ってい

ました。かなり多くの方が、そう思われていると思います。ですから、ファーストフードを食べ続けるとどうなるのか、監督自身が人体実験を行ったという

ことは気になるところでした。実験の内容をご紹介します。モーガン・スパーロック監督は、30日間、マクドナルドだけを食べ続けました。ルールを設けて。

(1)  マクドナルドの店内に存在するものしか食べてはいけない。

(2) スーパーサイズを薦められたら、断らない。(スーパーサイズとはMサイズのほぼ3〜4倍の特大サイズ)

(3) すべてのメニューを必ず一度は食べる。

(4) 朝・昼・夜の三食全て残さず食べなくてはならない。

                       というものです。

 実験前は、健康管理への協力を引き受けた3人のドクターから「健康そのもの」と診断された監督が、食べ続けていくうちに、「胸が苦しい。」、「気分が

悪い。気が滅入る。食べてすぐまた食べたくなる。」、「最悪。頭痛がする。目玉のうしろが痛い。」、3週間経つと、「夜、息苦しくて目が覚めた。とても

暑いし、動悸が激しくなってきた。実験はやりぬくが体が心配。」などと、コメントするようになりました。その3週間目、内科医から「尿酸値が上昇、

高尿酸血症・痛風を起こす。腎臓結石、肝臓の状態も当初の想像よりもはるかにひどくなっている。命が危ない。緊急事態。すぐに実験をやめなさい。」

とまで言われます。心臓科・腎臓科の医者からも、ドクターストップがかかりました。それでも監督は実験を続け、最終日には、

 体重11kg増(84.3kg→95.3kg)

 コレステロール値65ポイント上昇(168→233)(正常値:160〜199。200以上は要治療)

 体脂肪7%増(11%→18%)(正常値:男性は15〜20%) 
           
                      となっていました。

 この間で、
  13kgの砂糖を摂取(1日あたり450g)(一日摂取量目安は30〜50g)

  5kgの脂肪を摂取(一日あたり167g)(一日摂取量目安は40〜50g)

                       したことになるそうです。

 また、気分はさえず、疲労感があり、情緒不安定になっていました。食べるともっと欲しくなり、食べない時は頭痛がしたそうです。明らかな中毒症状

だそうです。3人の医師全員が、肝臓の状態の余りの悪さに驚いていました。アルコール中毒者と同じ状態だそうです。

 これだけの実験をするきっかけになったのは、肥満症に悩む2人の10代の女の子が、「私たちが肥満になったのは、ハンバーガーが原因。」と

マクドナルド社を相手取り訴訟を起こしたということをニュースで知り、事実彼女たちの言い分が正しいのか、自分で証明したいと思い立ったことだ

そうです。(結局、裁判所は、“大量に食べたのは本人の責任”として原告の請求を棄却しました。ですが、その後もこの裁判の結果は、大きな波紋を

アメリカで引き起こしているようです。)

 しかし、この結果もさることながら、この映画が映し出している他の多くのことに、正直、私は驚きました。

・ アメリカでは、毎日4人に一人がファーストフードレストランに足を運びます。

・ アメリカ人は、食事の40%を外食に頼っています。

・ 約1億人のアメリカ人が過体重か、肥満症です。これは、アメリカ人成人の60%に当ります。

・ 全米の糖尿病の医療費はこの5年間に倍増しています。(97年440億$→02年920億$)

特に、学校給食の現状(公立学校)に驚かされます。

・ ジャンクフード(*カロリーが高いが、栄養価の低い食品のこと。ファーストフード・スナック菓子など)が業者から毎日納入され、メニューは

   生徒たち自身に選ばせています。映像を見る限り、フライドポテト、ジュース、ロールケーキなどのジャンクフードだけを食べている子供がたく
   
   さんいました。企業は、「子供達に正しい栄養を選択できるよう教育するため、あえてメニューは限定していません。」とコメントしています。

・ ある中学校では、冷凍食品・缶詰などの調理済のものが、36品のメニューのうち、30品をしめ、学校で調理するものは6品のみでした。その

   料理長は、「最高の調理用具はカッター。蓋を開けて温めて出すだけ。みんな、働きたくないから。」とコメントしていました。

・ このような、学校に入っている食料品業者は、その利益の大きさから、たとえ周囲から企業への反対の声があがっても、撤退しようとはしない

   そうです。

また、マクドナルドの子供への影響として、マックの広告戦略(大量の宣伝・セットにおもちゃをつける・遊びのスペースを設ける等)により、

子供は言葉よりも先に“マック”を覚え、刷り込み効果が現れます。この広報戦略に12歳の子供の脳は勝ち目がないといいます。

 そして、肥満と糖尿病で悩む人々が最終的に受ける、胃を小さくする手術があるそうです。この手術の執刀医たちは、「糖尿病をなおす、

唯一の手術を確立した。」と言います。この手術を受けたある人は、手術の前まで1日8リットルのソーダを飲んでいたそうです。

 この監督の調査によると、多くの栄養士は、1ヶ月に1回以上ファーストフードを食べることを薦めないとし、“ファーストフードを食べることは、

肥満問題の重要な原因である”と答えたそうです。アメリカの医務総監は、「ファーストフードは肥満という疫病の最も大きな要因のひとつ。」と

コメントしています。1997年、世界保健機構(WHO)は肥満を世界的な疫病と断定しました。

 このような、アメリカの肥満の問題の大きさ、根深さには、とても驚きました。このようにみていくと、アメリカでは、子供の頃から無意識のうち

に、肥満へと進むような環境に心身ともにさらされているといっていいと思います。なにか、あわれです。車社会、運動不足が、それに拍車をかけて

います。アメリカの健全な食文化が崩れているといえると思います。健全な食生活は、食への意識はどこへいったのでしょう。この問題は、もう、

個人の意識、責任の枠を超えているのではないでしょうか。ファーストフード、その他の食料を扱う企業の、良心はどこへいってしまったの、国、

政府は何をしているの、と思わずにはいられません。このような国の繁栄が今後続くのか、とても疑問に思われます。上記のような医療費の増加が

アメリカを圧迫しないわけがありません。それに、心身ともに病んでいる人々に国を守っていけるのでしょうか。食は、人間が生きていく基本だと

思うのですが、それが(企業と国の大きな力で)崩され、人が病んでいき、それなのに国家も経済もあったものではないと思わずにいられません。


 この間に、マクドナルドは、アメリカのファーストフード業界のシェアの43%をしめ、6大陸、100カ国以上に進出し、合計店舗数は3万店以上

になっていました。

 この事実を、監督は、コミカルに映し出していました。(すべて“事実”でした。)人々は、ファーストフードを、楽しく、お手軽に、食し、満足

していました。その中で起こっている事実でした。

 日本の場合は、どうでしょうか。アメリカほどの状況ではないように思いますか。人々の意識はどうでしょう。政府の政策はどうでしょう。企業の

やり方、良心はどうでしょう。安心していて、大丈夫でしょうか。「そんなに神経質にならなくても、大丈夫。」でしょうか。子供たちの体を守れて

いるでしょうか。子供たちは、健全な食を学んでいるでしょうか。大人は教えることができているでしょうか。今、日本人の4人に1人は肥満のレベル

です。男性は、10年で約1.5倍増加し、30〜60才代の約3人に1人が肥満体だそうです。糖尿病の予備軍は6人に1人。糖尿病患者は740万人、予備軍

880万人、2010年には、2000万人を突破するといわれているそうです。そして子供の肥満は、過去20年で倍増しているそうです。

 最後にこの映画では、添加物や農薬などのことについては、一切触れていませんでした。そこまで踏み込んだ場合、どのような事実が出てくるのか、

気になるところですが。









農場便り 2月


 星空が輝き、放射冷却が起こった早朝、張り詰めた冷気を鋭利な刃物で切り裂くように朝日が輝く。その光は時間と共に柔らかな光へと変化し、

冷え切った地表を優しく暖める。地表と大気との温度差が生じた時、「もや」が発生する。梅の枝先に射す朝日が霜を溶かし、水滴に変える。

きらきらと宝石のように光り輝き、短時間ではあるが自然がつくる造形美に目が奪われ感動が沸き起こる。

 1月に入ると、あわて者の梅は花芽を綻ばせ始め、中には花を咲かせているものもある。社会全体がけばけばしい色や形の中、梅の花は侘び、

寂びを共に持ち合わせ心のふるさとを感じさせてくれる。美しい花も良いが、梅の実の素晴らしさを紹介させていただく。

 梅はバラ科、桜属。日本に渡来したのは平安以前とされ、中国より伝わり、江戸期までは皇族など位の高い人の薬とされていた。慈光会では

30年前に植えた苗が大きく広く枝を張っている。吉野地方では林州、鶯宿が昔から栽培されていたが、現在では早生種の白加賀、晩生種の南高

が好まれ、林州は蚊帳の外に追いやられてしまった。当園でも大きく育った林州の木を切り、人気種に切り替えている。梅の世界にも世代交代や

リストラがあるようだ。

 梅の栽培は、12月下旬より剪定に入り、均一に光が当たるよう、込み合った枝や伸びすぎた枝などを切り取る。昔から「桜切るあほうに梅

切らぬあほう」と言われているが、桜は切ると切り口より腐りが入り枯死することがあり、反対に梅は混みすぎると、枝枯れを起こしたり、

実が付きにくくなる。剪定の次には元肥を入れる。梅は大飯喰らいである。完熟堆肥をたっぷり運び入れ石灰を撒きPHを整える。酸性を嫌う

梅には、工場から出る排煙や自動車などから出る排ガス、また近年中国から偏西風に乗りはるばる日本まで飛んで来るスモッグも酸性雨となり

影響を及ぼす。さらに原因不明で枯れてゆく梅林が増え、産地では問題になっているのが現状である。

 2月下旬から3月初旬頃に開花が始まり、山深い里を花衣で覆う。春風に花びらが舞い、後には小さくふくらんだ花房がのぞく。日増しに丸く

大きく育ち、6月上旬より収穫が始まる。最近では中国産の梅が大量に輸入され、曖昧な表示がなされている。一粒ずつ手でもぎ取られ各家庭に

嫁いだ梅の実は、梅シロップや梅干に加工される。最近、甘塩の梅干が多く出回っているが、塩梅という言葉通り梅の実の成分は塩の成分と融合

し、よりすばらしいものへと進化し、また土用干しによっても別の成分を引き出すということを、以前専門家に伺ったことがある。昔から「一日

一粒の梅干が健康を作る」と言い伝えられているが、若い人たちの食生活の中には昔ほど梅干はインプットされていないのではないだろうか。

味覚が形成される幼児期に、日本の食文化である梅干しの味を親から子へと伝えるのも大切な事なのではないだろうか。胃腸を整え滋養も備えた

この食品は、現在横行するノロウィルスやO−157、その他多くのウィルスから体を守ってくれる強い見方になるだろう。

 鬱そうと込み合った梅林はきれいに剪定され、残された枝には順序よくつぼみが膨らみ、春を待つ。花野五壌画伯の画集「大和あっちこっち」

に素晴らしい梅林のスケッチがあり、書き添えられた文の最後は「梅は花も実もある話」と洒落て文が締めくくられている。

 本年初夏には各家庭で青梅をカメやビンに漬け込み、熟成していく過程を楽しまれると共に、夏の暑い午後、冷たく冷やした自家製の梅シロップ

で涼を求められてはいかがだろうか。近い将来、梅干し爺ちゃんや婆ちゃんになる日まで健康で歳を重ねていきたいものである。

 今日も冷え込み、時折風雪が頬をたたく。冬の美を楽しめる日々もあと僅かである。

                                  春は間近の農場より