慈光通信138号 (2005年8月)
自然と生命をとりもどすために V
前理事長・医師 梁瀬義亮
【この原稿は、昭和五〇年(一九七五年)六月二九日高松市民会館で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】
ある方が私に、お前さんが海草を食べればいいといったから、とろろ昆布を袋一杯食べたけれども非常に胃を悪くして難儀したといわれたことがございます。よくかん
だらそんなに食べられないはずなんですが、よく咀嚼をするといういことを忘れないで下さい。日本人の一番大切なタンパク源は大豆であるということを知っていただき
たい。大豆の欠点は消化が悪いので、やはりよくかんでいただくということ。それから、煮豆をする時に白砂糖をたくさん使いすぎますと、せっかく我々の生命ともいう
べき大豆の栄養価値が下がりますので、できれば黒砂糖で煮るという風にしていただきたいのです。
それから何故、海草や野菜や大豆が日本人にとって大事で、肉をたくさんとることがあわないかということをちょっと申してみます。栄養というものは、皆様は今、世
界共通の栄養学を習っておられるわけですが、各民族は全部気候、風土、民族性、歴史、習慣の違い、いろいろあるわけなんです。これを、十羽ひとからげに、ヨーロッ
パでもアメリカでも日本でもどこでも同じ栄養法をもってくるということはおかしいと思うわけなんです。
例えば日本は大体が火成岩性の酸性土壌であって非常にカルシウムとかいろんな鉱物質の欠乏しやすい土地なんです。私達の先祖はそれをよく知っており、世界で一番
よく海草を食べる民族だったのです。海草は私達日本の土地に欠乏しておる鉱物質を十分に補ってくれるミネラル源だったのです。あるいは小魚を食べるということは、
その骨を食べカルシウムを補給することになる。大豆をタンパク源にするということは、ミネラル欠乏のためにともすると起こりやすい酸性の体質に対して大豆はカルシ
ウムも多い。ビタミンも含んでおる、アルカリ性の食品であって非常にいいものなんです。そういう意味で私達日本人の先祖は海草を世界一多く食べる民族であったのに、
明治以降全く食べなくなってしまった。大豆も随分少なくなってしまったのです。
それから油につきましては動物性の油は出来るだけおひかえになった方がよろしいのです。これはいろいろな副作用がでます。植物性の油がいいわけなんですが、この
油もあまりとり過ぎるといけません。年中天ぷらばかり食べているような家も、調査した時にありましたが、やはり病気は多くなっております。もうひとつは今までのよ
うに油を天ぷらに使っていて、減ってきたら足すというやり方はよくない。小さなナベを使い少し古くなったらもう捨ててしまう。なるべく新しいのを常に使うという習
慣をつけないと酸化した油は害があるということが分かっておりますので、これも御参考までにお知らせしておきます。植物油でも古い油は害があるということを覚えて
おいて下さい。
それから果物でございますが、果物はおやつにはよろしいのですが、野菜の代用にはなりません。うちの子供は野菜を食べないので、かわりに果物を食べさせておりま
すという家庭を多く見ました。決してこれは野菜の代用にはならないということが事実としてわかっております。近藤先生の御発表でも野菜地帯には、非常に健康な年寄
りが多いんだけれども、果樹地帯では特別に長生きだということがないということを書いておられましたが、果物は結構です。しかし、野菜の代用にはならないというこ
とを知ってください。
(再掲載【註】野菜、果物を召し上がるときは無農薬有機栽培のものをお選び下さい。輸入の野菜、果物にはポストハーベスト農薬が使われているものが多いので十分お気
を付けて下さい。)
それからタバコですが、これはどうぞ十本を限度にしていただきたい。出来るだけ吸わない方がよろしい。タバコというのは猛毒でありまして、ことに好むと好まざるに
かかわらず、毒物が私達の体内に侵入してくるこの恐ろしい時代にあって、何も意識的に毒物、恐ろしいアルカロイド・ニコチンを身体の中に入れる必要など全くないので
す。こう申しますとあるところで抗議を受けました。あなたはそんなことをいうけれども、私はタバコをこのくらいのんでいるけれどもこんなに長生きしているというある
老人の反論なんですが、勿論そういうことはあるんです。タバコをたくさんのんでも、お酒をたくさん飲んでも長生きできる人もおります。けれどもタバコや酒をたくさん
飲むと同じ年老いても非常にきたない年寄りになる。(笑)これは下手に農薬をやり過ぎて葉が汚くなったりすることを農家の方はご存知でしょう。それといっしょでありま
す。それから顔がきたないくらいはいいんですが、頭が妙に狂ってくるんです。(笑)やたらに頑固になったり、変な惚け方をしたり、やはり毒物を身体に入れないようにし
て、そして心も身体もきれいな尊敬されるお年寄りになりたかったら、どうぞタバコは減らして長生きしていただきたい。それからお酒も一合くらいを限度にしていただき
たい。これを越しますと多かれ少なかれ肝臓や胃を悪くする人が多いんですね。しかも悲しいことにあまりすき腹に飲まない方がいいということを申し上げたいので、上戸
の方にはなはだ具合の悪いお話でございます。ちょっと笑い話を申し上げますが、私がこのことを町でさかんにすすめておりましたら、あるお酒の好きな方が、「一合くらい
は胃まで届かない」とおっしゃるんですよ(笑)、じゃせめて二合に辛抱しなさいというと、その2合は「胃のシワの中に入ってしまう、三合目からが酒なんだ。」(笑)ということ
をおっしゃる。まあその時は笑って別れたんですけれども、後でその方が大変な病気になりまして、もう一滴のお酒も飲めないようになってしまってね。往診に行った時、
「あの時あなたが一合で我慢しておけば今でもお酒を飲めましたのにね。」といいましたら、「本当にそうでした。」とおっしゃっていました。
(以下、次号に続く)
(以下、次号に続く)
慈光会定期大会報告
去る7月3日、梁瀬義亮前理事長を偲んで「講演と音楽の集い」を開催させて頂きました。当日は雨模様の天気にも拘わらず、五條市市民ホールには大勢の方々がお集まり下
さいました。
舞台上、右手には、清々しい白い花で飾られた梁瀬前理事長の写真が置かれ、その白衣姿の写真はスポットライトに終始照らされていました。前段では講演、後段では京都市
交響楽団メンバーによる弦楽四重奏と前理事長の次女牧村照子氏によるピアノの演奏がありました。
「講演の部」では講師に西岡一先生をお迎えしました。先生は同志社大学名誉教授で医学博士、又、活性酸素が生きた細胞内でどのように作用するかを調べる画期的メソッド
を世界で初めて編み出された方でもあります。
そのような堅い肩書のイメージとは異なり、西岡先生のお話しは大変やわらかく、分かりやすく、ユーモアいっぱいで、素人の私たちにも大変理解しやすい内容でした。以下
にその概要をお伝え致します。
「小錦」と同じ重さの添加物が私達の体の中に・・・
もし私達が添加物に一切無頓着で毎日生活していると
一日に80種類11g
の添加物が体に入ってきます。
一年間では累積して約4kg
大きく生まれた赤ちゃん位の量が体に入ります。
50年間では200kg
の添加物が体の中に入って来ます。小錦の体重程の添加物(自然界には存在しない物、人間の食物では無い物)が体に入る訳です。体に影響の無いはずがありません。
(付記:添加物だけでこの量です。さらに現代の私達は、農薬、合成洗剤、医薬品、排気ガス等、より多くの人工化学物質に曝されています。)
「コロリ毒」と「ジワリ毒」
毒物の作用を専門的に説明すると大変難しくなるのだそうですが、西岡先生は、一般の人にも分かりやすいように、毒物を「コロリ毒」と「ジワリ毒」に分類して説明して下さい
ました。
「コロリ毒」というのは、青酸カリ、サリン、砒素の様に一発でコロリと死ぬ毒の事です。この急性毒性のメカニズムはよく分かっています。又、この毒物は殺す事を目的に使わ
れるので「コロリ毒」で死者が出た場合は「事件発生」ということになります。警察も出動しますし、犯人も特定出来ます。
一方、「ジワリ毒」というのは、一発では死なずにジワリ、ジワリと毒性を発揮する毒の事です。発癌物質、ダイオキシン、環境ホルモン等の農薬や添加物、人工化学物質がジワ
リ毒です。「ジワリ毒」は10年20年30年かけてジワリジワリと毒性を発揮しますので「ジワリ毒」で誰かが死んだとしても、「事件発生」とはなりません。警察も出動しませ
んし、未だかつて犯人逮捕もありませんでした。
「ジワリ毒」(農薬、添加物、人工化学物質)は何故体に悪い?
従来行われて来た試験管内での研究ではなく、生きた細胞内でジワリ毒がどのように作用するかを西岡先生は画期的な方法を編み出して40年間も研究を続けていらっしゃいます。
その結果分かった事は「ジワリ毒が体に大量の活性酸素を発生させる」という事実です。ジワリ毒を食べ続け、大量に活性酸素が発生するのを繰り返していると、細胞が傷んでき
てついにはガン細胞になるのです。
上述の癌を始めとして、心臓病、糖尿病、白内障、肺気腫その他の成人病(生活習慣病)等、殆どの病気の原因は実は活性酸素であることが分かっています、との西岡先生のお話し
でした。
「ジワリ毒」から体を守るには
(1) まず、体に活性酸素を発生させるジワリ毒を入れない。(添加物、農薬、人工化学薬品を食べたり吸い込んだりしない。夏場は殺虫剤にも注意)
(2) 発生する活性酸素を打ち消すような食生活をする。抗酸化性の食べ物を積極的に摂取する。(新鮮な野菜果物の多くには活性酸素を消す力があることが確かめられている。
(3) 食物をよく噛むこと。(一口30回以上)西岡先生の研究で唾液が活性酸素を消去する作用はかなり強いことが分かっている。)
又、西岡先生は活性酸素の発生や消去の研究を行って来て、次のような仮説にたどり着かれたそうです。
「人工的なものは活性酸素を発生させることが多く、天然のものは活性酸素を消去することが多い」(「噛めば体が強くなる」西岡一著 参照)
「ジワリ毒」に関心を
最後に先生は二つの大切な注意点をあげてお話しを締めくくられました。
「一つ目は『ジワリ毒に関心を持つこと』。関心があれば表示をよく見て避ける事が出来ます。安心な食品を手に入れるため行動を起こすことも出来るでしょう。
『あなた、そんなこと言っていたら食べる物なくなるわよ。』なんて言っている人が一番いけません。そういう人はもう小錦ほどの化学物質を摂取してしまう人です。関心を持って
ちょっと注意すれば、小錦の片足分くらいしか体に入りません。小錦まるまると片足分とでは全然活性酸素の発生量が違うのです。だからその影響力も全然違って来るのです。ちょっ
とした心掛けで大変な違いになるのです。
もう一つは『感謝できる食べ物を頂く』ということです。今ある食べ物には感謝出来ないものが多いのです。儲けるために添加物をいっぱい使って作られた加工食品、農薬がたっぷ
り使われている農産物、産地偽装など、感謝出来ないことばかりです。でも手で草を抜き、虫をとり、農薬を使わないで作って下さる食物、これは大変なご苦労です。消費者の健康を
願ってご苦労下さっていると思えば、感謝せざるを得ませんね。そういう食物を感謝していただく。これが大変大切な事なのです。私の今日のお話が皆様の健康の為に少しでもお役に
立てば幸いです。」
西岡先生は講演時間がオーバーなる位迄、大変熱心にお話しして下さいました。今回お話ししきれなかった事柄については、又の機会にお話しして頂きたいと考えています。先生の
著書も沢山出版されています。興味をお持ちの方には、ご一読をお勧めします。
第二部の音楽の部のご報告は、次号に譲りますのでご了承下さい。
会員からのお便り
会員のお便り
山野
本日は盛り沢山で充実した時間でした。
音楽を愛しんで日々を送っていらっしゃいました梁瀬先生への思いを込めての演奏はすべてのものが清らかになってしまいそうです。本当に良い日を持てました事に感謝!!です。
有難く御礼申し上げます。
慈光会様の益々の御発展を願っております。
西尾みち
この度は待望の定期大会を開催いただきありがとうございました。
早くからご計画ご準備いただきご苦労下さいましたことと、心より感謝申し上げます。
お陰さまで最高の半日を過ごさせていただきました。西岡先生の御講演は改めて食生活への注意を呼び起こして下さいました。
すばらしい音楽の演奏はつたない筆や言葉では表現できない感動の連続でございました。先生の御遺影が白いお花の中でより満足げにほほ笑んでくださっているかに思えました。
そして梁瀬先生の遺して下さった詩を美しいお声で朗読していただき、この現実の世界とは思えない高い美しい雰囲気の会場・・・・・本当にすべてが最高でございました。
どうぞ演奏下さいました先生方にもよろしくお礼申して下さいませ。
慈光会のいよいよの御発展をおいのり申し上げます。ありがとうございました。
合掌
農場便り 8月
「暑いですね。」が挨拶代わりになる夏、太平洋高気圧が日本列島をすっぽり包み込む。
旧販売所前の宮の森の朝はクマゼミの大合唱で始まる。その鳴き声たるや尋常ではない。本年はクマゼミが異常発生しているそうで、その鳴き声は地響きをも起こしそうな勢いで
ある。元来クマゼミは九州地方が生息地であり、温暖化の影響でこの地にまで生息域を広げているそうだ。人間社会の誤りが蝉の生態系をも左右している。
猛暑の7月下旬、直営農場では金時人参がきれいに発芽している。雨がなかったため毎夕潅水の日が続いた。からからに渇いた地に水を撒く。すごい勢いで大地が水を吸い込む。白
く乾いた土地は黒く色を変える。肥沃した土地に水分が加わると自然にミミズが湧いてくる。それを狙って、まるで砂漠のオアシスに人が集まる如くモグラがやって来てトンネルを
掘る。それも作物の真下を!その被害は大きく、何とかならないものかと色々手を施したが、あまり効果が上がらない。元々モグラの天敵は「ヘビ」だそうで、そのヘビが農薬の影響
で数が激減したため、モグラや野ネズミが増えているらしい。野ネズミがモグラの掘った穴を通り、大根、人参、ゴボウ等の根菜類を食害して回る。困ったものである。
秋、冬作の準備はこれから始まる。前作を片付け、完熟堆肥をたっぷり散布し、石灰でPHを整え、約1ヶ月間土と馴染ませた後、播種、定植をする。夏、最初に畑に落とす種子は大根、
続いて白菜、以前にトレイに育苗しておいたキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ等も逐次圃場に定植していく。冬掘りゴボウは、春真っ只中の5月初旬に播種し、生育期間
は半年以上と気の長い話である。8月中、下旬に播種する白菜は完全無農薬有機栽培の中でも難易度は上級に挙げられる。万人に好まれるが如く害虫にもすこぶる好まれ、少しでも手を
抜こうものならすぐ虫の餌食となり、全滅してしまった年もあった。そんな白菜について紹介しよう。
原産地は中国北部で、野生の植物からではなく、蕪と漬け菜類が自然に交雑して、栽培種としての白菜の原型が出来たと推定されている。水分が95〜96%あり、ビタミンCが比較的
豊富でカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛なども含まれている。キャベツと成分が似ているが、キャベツに比べて糖質が少なくカロリーが100g当たり12カロリーしかないので、
肥満や高血圧の予防になる。食物繊維が含まれており、便秘の改善や大腸がんの予防に効果が期待できる。塩漬けにしてもビタミンCは失われず、整腸効果が期待できる。またイソチ
オシアネートは発がん性物質を抑制したり動脈硬化を予防する効果があるといわれている。
栄養価だけではなく美味、日持ちも良く安価、冬季を代表する野菜で鍋を囲めば自然とその場に会話が生まれる。現代社会に欠落している狭間を埋めるにはもってこいの食材である。
ただもう少し栽培上での力強さが加われば満点の作物なのだが・・・。本年もずっしり重い白菜をと栽培地の準備を進めている。
朝、クマゼミの鳴き声で農場へと送り出され、夕刻、西日が泉山脈に沈む頃、ひぐらしの涼しげな鳴き声に一日の作業を終える。ヨーロッパの農村風景を描き続けた印象派の画家、
ミレーの作品に「晩鐘」がある。農夫婦が夕陽を背に、畑で感謝の祈りを捧げている作品である。この作品が、先日の慈光会定期大会での弦楽四重奏で奏でたベートーベンの「弦楽
四重奏 第16番・第3楽章」と私の心の中で重なる。
「自然から奪い取る農ではなく、自然から与えられる農を。」と前理事長の言葉が聞こえる。美しい山々の静寂の中、そこには憂いに満ちた寂しげなひぐらしの声が聞こえる。
汗が頬を伝う暑き農場より
「梁瀬義亮記念資料室」についての経過報告
平素は慈光会の運動に御支援、御協力を賜りまして誠に有り難うございます。
また、この度の設立の計画の変更に伴い、皆様にご心配をお掛けし、誠に申し訳ございませんでした。
現在、設立の場所は現販売所の前へと計画しております。関係資料の分類も始め、資料室の完成に向け準備を進めております。これからも順次、資料室設立の経過報告をさせていただ
きたく存じます。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
平成17年8月1日
財団法人慈光会 理事長 梁瀬 義範