慈光通信140号 (2005年12月)


自然と生命をとりもどすために VII

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和五〇年(一九七五年)六月二九日高松市民会館で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】



 健康と食物・食物と農法・農法と心

健康と食物
昭和27年に私は郷里の五條市へ帰りまして、そこで開業させていただいて、私の家に来る、よく病気をするお家、即ち私のお得意様ですね。(笑) そういうお得意様のところへは、わざわざ出向いていってこの指導をやったんです。そうすると確かにだんだんと来なくなります。たまに出会うと 「やあご無沙汰しています。」とおっしゃって、「あんたんとこをやめて、よその医者のところに行ってるわけではなくて、この頃病気をしないん ですよ。」と言い訳までして下さるんです。(笑)「いやいや私と縁がなくなるほど結構だと思います。」と申したこともあったわけなんです。  それから、私の患者さんで誠実な人であり私の指導したことをよく理解して実行してくださる方ばかり二十七軒を選びましてそれを実施してどれ ほど病気が減ってきたかを調べたことがございます。全部五人家族であることにして計算しなおしわけですが、一年間に一日以上寝込んでしまうよ うな病気になった回数なんです。最初、以前八回以上おいでになる方ばかりを選んだわけですから、平均が八・七回、及ち一ヵ月半に一回くらい家 族のうち誰か一人は私のところへ来る家ですが、これがきっちりとこの健康法を実施しますと、一年で大体五、二回となります。それから、まる二 年で三、七回、まる三年で二、九回、まる四年でちょっとあがって三、二回、まる五年で二、七回となったわけです。このように生活を注意すると 、大体病気は三分の一くらいになる。三分の一くらいに病気を減らす薬というのは、とっても名薬でもって、ほとんどないんですよ。ところがこれ は薬なしでいけるわけです。それから、こういう生活をしていますと大病にはならない。  例えば流感がはやりますと、熱で苦しまれる方もあれば、ちょっと頭が痛いくらいですむ方もいるし、何にもならない方もいるわけです。で、 こういう生活をしていると、同じ流感になってものたうちまわるような激しい苦しみの病気にはならないのですね。特に顕著なのは年中しょっちゅう 扁桃腺をはらす子供さんがおりますね。そういう子はハムやらソーセージ、卵くらいしか食べない。野菜は一切食べない。そしてチョコレートやら、 お菓子ばかり食べている。そういう子は決まっておるんです。しかし、そういう子が野菜、海草、大豆、麦を中心とした生活をさせるとうそみたいに 元気になります。食事さえ注意すれば全然病気はないんだとは言えない。人間には生まれつきの生命力の強さも弱さもございますからゼロになるとは けっして言えないけれど、少なくとも食事を中心とした生活態度を正しくすれば、病気がうんと減るのみならず、その病気が軽いものであるというこ とがわかって頂けると思います。  現在のような日本人の食生活を考えてみますと、白米を食べてお肉を充分食べますね。そして甘いものをよく食べて、野菜や海草はごく少しで、そし てあまり運動もしない。と、いうことになってくると、世界最低の体力しかない民族になるのは必定である。明治以来、誤った猿真似的なヨーロッパの 食生活なり栄養学の真似をしたことが、大変なことをもたらした。日本人が今のような生活をしていると食事の中に、ミネラル・ビタミン・酵素といっ たような未だに栄養学ではっきりわからない重要な要素がぬけてしまうために病気が起こると考えられる。  同じことは養鶏をやっておられる方はニワトリに緑のなっぱをたくさんやることを忘れないようにして頂いたらいいのです。普通の買ってきたえさだけ をやっているとよく病気になる。しかしこれに充分な緑のものをやり、山にある腐葉土を十分まぜてやり、あるいはすりぬか(もみがら)を焼いた粉炭を やるとニワトリはちっとも病気にならなくなる。それからあんなゲージに入れておくと、運動不足になるので病気になる。平地に放してやると元気になる 、ということがよくわかる。ニワトリでも廃鶏になって殺すやつをもらってきて、そして、広い広場へ放して自然の食べ物をやるとまた卵を生み出します。 奇妙に生み出します。人間も同じで現在の日本人は、非常な欠乏におそわれている。そうして骨がやわらかくなり、歯が悪くなり、腰痛だとかいろんな 病気になるのみならず、いろいろなばい菌の感染を受けやすい。そして精神的にもいろいろ良くないものがでくるという悲しい結果になっているわけです。 あらためて申しますと、日本人の食生活の基礎は野菜と海草と大豆と麦を忘れてはだめだということを強調したいのです。                                              (以下、次号に続く)



 シックハウス症候群の人々にグッドニュース

 


 壁は昔ながらの漆喰(しっくい)、板には柿渋を塗り、突板(つきいた)は米糊で貼り合わせてある・・・こんな家が千葉大学柏の葉キャンパス内に出来上がり
ました。室内は自然に存在する色合いで統一されているため、とても落ち着いた雰囲気がかもしだされています。化学物質を使わずに自然の材料だけで作られた
この家はあるプロジェクトの一環として建てられたものです。

 そのプロジェクトの名は、「ケミカルフリータウン構想」(化学物質を使わない町)。その町の中に建てられたのが、今ご紹介した家です。こんな家に住んだら
安心、住んでみたい、と思われるコンテンツがいっぱいです。これから新しく作られる2キロ平方区画の町では、道路、街路樹、公園、一戸建住宅(住宅内の家具、
家電等も含む)、マンション、駅、学校など町ぐるみで化学物質を使用しない工夫がなされます。

 このプロジェクトの生みの親、千葉大の森千里教授(医学部)は、シックハウス症候群に対応した化学物質を低減した診療所及び住宅を建設して、シックハウス
症候群の原因解明や効果的な治療法について研究する予定です。

 森教授を中心とした千葉大の教授陣は、かねてから現在乱用されている化学物質が現代の人々と未来の世代に与える影響を懸念してこられました。森教授らは
「次世代環境健康学センター」(特定非営利活動法人)を立ち上げ、今後様々な活動を展開して行く予定です。この法人のコンセプトは「化学物質の曝露を避ける
ためには環境改善が是非とも必要」というもの。

 今まで、シックハウス症候群にかかった方や化学物質過敏症になられた方は、住むところを探すのに大変な苦労をなさってきました。一時的避難場所を捜すとし
ても化学物質の影響を受けない場所というのはなかなか見つかるものではありません。慈光会の会員の中にもそのようなケースの方がおられますので、「ケミカル
フリータウン構想」が早く実現しこのような運動が全国的に広がって行くことを願わずにはいられません。 

※現在、同キャンパス内に柏の葉診療所があり、東洋医学的治療を進めていますが、同診療所内にシックハウス症候群の為の環境医学診療科を開設する計画だそう
です。環境医学診療科でシックハウス症候群の恐れがあるとされたときは、原因究明、転地療養、自宅改善のため、隣接した化学物質を大幅に低減した住宅に一時的
に入居(入院)していただけるとのことです。(詳細につきましては「次世代環境学センター」ホームページをご参照下さい。)

* 連絡先  (1)〒260-8670千葉市中央区 亥鼻1-8-1 千葉大学大学院 医学研究院 環境生命医学気付 Tel:043-226-2534  Fax:043-226-2018 
          (2)千葉大学柏の葉診療所 Tel:04-7137-8471 
          (3)ホームページアドレス:http://jisedainpo.hp.infoseek.co.jp/





ストップ・ザ・ジワリ毒

   
  「子供の脳を守りたい」
(ジワリ毒とは医学博士の西岡一先生が一般の人にも分かりやすいよう分類した「コロリと死なない毒」の呼び名です。
 農薬、添加物、合成洗剤等の人工化学物質を指します。)

 最近のニュースを見ると、異常な犯罪が多過ぎると思われませんか?安心して子供たちを学校へも通わせられない現実。大人ばかりでなく若年層の異常な犯罪も目立ちます。
人類は、別次元にある邪悪な世界に迷い込んでしまったのだろうか、と疑いたくなるような現状です。

 評論家の立花隆氏は
「こんな現象がこれほど突然、爆発的に蔓延するというのは、これまで識者が説明してきているような、学校教育が悪い、親の教育が悪い、というのとは違うレベルの事態が
起きていると思うんです。」
と述懐されています。

 ここにショッキングな統計があります。犯罪心理学専門の福島章教授(上智大学)が実際に自ら精神鑑定に関わったケースの統計なのですが
「二人以上を殺した大量殺人者17人のうち15人(88%)が脳の形態異常か脳波の異常を示した」というものです。

 今まで、犯罪の原因は心理的、社会的側面のみから考えられてきました。しかし、福島教授のデーターが物語るものは、脳の形の異常や脳波の異常そのもの
(生物学的、医学的側面)が犯罪の原因と大きな関わりを持っているという事実です。

 福島教授は
「脳に異常所見が認められた個人が殺人を犯す危険性は、異常所見の無い人のおおよそ100倍であることが分かる。」と記しておられます。(「但し、『脳に異常所見のある人
すべてが危険だ』ということにはならない」と付け加えておられます。)

 異常な犯罪については「動機が分からない」と度々報道されますが、「動機が分からない」のは「動機がない」からであって、「脳の異常所見」によって引き起こされた犯罪
であるから、と考えることも可能なのではないでしょうか。

 PCBや農薬などの化学物質の影響を受けて身体に奇形が生じることは、動物実験を通じて一般の人達にもよく知られている事実です。しかし身体と同様、脳にも奇形が生じる
という事実はほとんど知られていません。

 環境ホルモンは、(環境ホルモンの2/3は農薬)行動の中枢である脳に大きな影響を与えます。特に影響を受けやすいのが胎児で、母親が摂取した環境ホルモンは胎児の脳に
入ってしまいます。たった一回の化学物質の投与でも臨界期(脳神経細胞が増え化学物質への感受性が強い時期)だと脳の構造や行動にまで影響が及ぶ事が分かっています。
そしてその悪影響は、生涯に亙ると云われています。「脳神経細胞は化学物質に非常に弱い」(マイケル・スモーレン博士)のです。

 このように、現在では、化学物質が脳の奇形や機能障害と直接関係のあることが実験結果として明らかな事実となっています。

 また、人間には「血液脳関門」というのがあって、これは、化学物質等がやたらに脳に侵入してこないように関所のような働きをする機関です。ところが、その血液脳関門が
3才位までは未発達なため乳幼児期は脳に化学物質が入り込みやすく影響を受けやすい状態にあります。胎児期、乳幼児期には、農薬や添加物を子供達の体内に入れないよう
一層の注意が必要なのです。

 特に妊産婦の方、乳幼児、これから子供を生む若い世代の人々の体に、農薬、添加物、合成洗剤、その他の人工化学物質が入ってこないよう、是非、この事実を身近な人々に
伝えてゆきたいものです。そして表題の「ストップ・ザ・ジワリ毒」の運動を子供たち孫たちの為に展開してゆきたいものです。

 「安心できる食べ物の購入」「ジワリ毒が使われている物の不買運動」が私達に今すぐ出来る運動の手段です。私達の買い物行動が「作ったメーカー(作った生産者)に一票を
投じる」意味を持つ事を思い出して「良心的メーカー」「良心的生産者」に票を投じましょう。人類の未来に「ジワリ毒」が不要の長物となる日が来ることを願って。

(参考文献「子供の脳が危ない」福島章著・PHP新書  「子供の脳を守ろう《脳と化学物質》」小島正美著・北斗出版)






学習会のお知らせ

テーマ: 知らないと危ない合成洗剤の毒性



			日々の食事に気をつけている家庭でも洗濯や食器洗いに使う「合成洗剤」には、以外と無関心という例が多いようです。
			合成洗剤は、贈答品としてよく頂きますし、良く落ちるという印象がありますね。ところが、合成洗剤は、実は、私たち
			の体にとっても、環境にとっても大きなダメージを与える化学物質なのです。それがいかに害のあるものかを共に学び、
			体にも環境にもダメージを与えない安全な生活を送っていただけるよう、慈光会では学習会を企画いたしました。石鹸の
			上手な使い方、重曹の楽しい使い方も併せて講師の先生に教えていただきます。高価で毒性の強い様々な種類の合成洗剤
			は不要です。安全で経済的な石鹸ライフを共に学びませんか?
			会員以外の皆様もお誘い合わせの上、奮ってご参加下さい。
			
			
			
 
ビデオ上映:「水の再生・いのちの共生を」
				「ほんとに安全?合成洗剤」(短編)
    
					講師:洗剤・環境科学研究会評議委員 長谷川 治氏
	        			日時:2006年3月5日(日) 午後1時30分より(1時15分開場)
					場所:慈光会販売所二階会場
    
					定員:	60名
					*入場無料 但し、整理券が必要です。
					*整理券は慈光会でお渡しいたしますので遠慮なくお申し出下さい。
					遠方の方は電話でも受け付けさせていただきます。
					*電話受付・・(木)(日)以外の午前9時より午後5時まで  
	    			主催 財団法人 慈光会 
			                      
			
              
		
		





農場便り 12月


 鬱そうとした木立ちにハラハラと落ち葉が舞い落ちる。今年の夏、耳が痛いほどのクマゼミの鳴き声が聞こえた鎮守の森に今、初冬の静寂が漂う。大きなムクの木から
落ち葉とともに深紫色の実がたくさん落ち、鳥たちがその実を捜し、せわしなく落葉が積もった地を啄ばむ。時折吹く北風に驚き、一斉に冬空へと飛び立つ。

 農場の周りの木々も美しく色づき、落ち葉が風に乗り深い谷間へと落ちて行く。雑木の中で一番早く紅葉するのがはぜの木(うるしに似た雑木)で、周りがまだ緑濃い中、
いち早く葉を真っ赤に染めるおませさんである。はぜの木を皮切りに山桜などが後を追い、輝きが山一面を駆け巡るようにすべての木々が一斉に色づき始める。暖冬とは言へ
朝夕は冷える。この秋、暴れ回った害虫はバッテリー切れ寸前のロボットのような動きに変わった。大切に育てていた野菜を散々食べ尽くされ、何度蒔き直したことであろう
か。寒さに打ちひしがれている害虫を横目に見、暖かい冬着を着込んだ私は「ザマーミロ」などという言葉がチラリと心をよぎる。なんという心の狭いことであろうか・・・・・。

 11月中旬より冷え込むにつれてアクが取れ、みずみずしくなり日増しに大きくなっていく作物の一つがセロリである。本年最後に紹介するには、何となくピントはずれのようだが
お付き合いいただきたい。「セロリ」和名はオランダミツバと言い、古くは古代エジプト期ミイラの頭部に冠として発掘されている。ヨーロッパでは万能薬とされ、17世紀フランス
にて一般に食用として使われ、日本には朝鮮半島より加藤清正が朝鮮人参と騙され持ち帰った。別名「清正人参」と呼ばれ、日本での本格的な栽培は明治時代にアメリカより伝えら
れた。

 栽培は、5月下旬に播種、種子は大変細かく粉のようで10日位で発芽、水分を好み毎朝潅水をする。10cm位になったところで真夏の暑い最中に畑に定植をする。毎日ホースを引っ張り
潅水を続ける。定植地には完熟堆肥をたっぷり入れ、石灰でPHを整え、幅1.2mのベッドを作り30〜40cm間隔で2条に植える。播種してから約5ヶ月半位で収穫が始まり、12月中旬で
終える。大変時間も手もかかる作物である。栄養価はカルシウム、カリウム、ビタミンA・B1・B2を多く含み、中でもメチオニンは肝臓機能を高めビール好きに不足しがちなカリウ
ムを補い肝臓を守る。その香りは神経を鎮め、頭痛やイライラ、不眠を抑え、多く含まれる食物繊維は腸をきれいにして便秘にも良いとされている。繊維が強いのでよく咀嚼すること。
食べ方は、生でサラダ、スープや煮込み、ジュース、お浸し、葉っぱの佃煮などに。またブーケガルニとしても幅広く使われる。私はもっぱら太い茎に塩とマヨネーズをかけ品良く
大口を開けて喰いつくのが好みである。セロリの味や香りが苦手な方も「良薬口に苦し」と思い、どうぞ召し上がれ。

 冬空に垂れ込めた鉛色の雲の間より初冬の日が射しクヌギやほその木々の葉が黄色や褐色に光り輝く。時にはそれが黄金色のようにも見え、吹く風に乾いた葉音をたてる。今年一年を
振り返ってみると暗い出来事が多すぎた。母なる大自然も時には牙を剥き、大型のハリケーンや地震、津波などにより多くの人々が犠牲となった。社会の犠牲となった人も多く、辛く
悲しい出来事の多い年であった。

 そんな中、何か暖かく心に残っていることは無かったかと思い起こしてみる。6月中旬、農場へとトラックに乗って急いでいる途中、目の前で車を道の中央に止め何やらゴソゴソ
している人がいる。急いでいる時に人迷惑な、と目を凝らして見ているとカメを持ち上げ道横の溝に逃がしている。カメを交通事故から救っていたのであった。殺伐とした世の中に
心優しい人がいるもんだと思うと嬉しく、どうかカメさんいつの日にか彼に恩返しをと。

 夕日が落ち周りの空気がピーンと張り詰める。はく息も白く、足元から深々と冷えてくる。周りは冬景に包まれこれから厳冬へと移っていく。来る年に会員皆様の健康と幸せを願う。

 この一年慈光会にご協力賜りましてありがとうございました。心より御礼申し上げます。来年も安全で美味、栄養価の高い野菜や果物を大自然からいただき、皆様にお届けできるよう
にと願っております。どうぞ良いお年をお迎え下さい。                     野菜の冬囲いを終えた農場より