慈光通信143号 (2006年6月)


自然と生命をとりもどすために IX

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和五〇年(一九七五年)六月二九日高松市民会館で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】


健康と食物・食物と農法・農法と心

農薬の害

 

 どうしたらいいかと申しますと、これから申します所の有機農法に変えなければならない。ぜひ有機農法に帰らねばならない。そうしますとよく質問なり反応が出るのです。これだけ多くの一億人もの人を養うには有機農法ではだめではないかということです。一億人を養わねばならないから土を殺し、益虫を殺し、人を殺すような農法を使ってはだめなんだということを申し上げたいのです。現在の農法は一時的に量は多くなるかもしれません。けれども出来てくるものは欠乏食であり、そして毒物を含んでいるものとすればこ
れは本当によくない農法で、このままいけば今のように私達がたくさんの毒を体の中に背負い込まなければならない結果になるわけです。どうしても有機農法にしなければならないのですが、ここで農薬のことについててちょっとご説明申し上げたいと思います。農薬とはどんなに恐ろしいものかということを・・・・・。

 農薬にはですねいろんな種類があります。だいたいリン系統のものか塩素系統のもの、フッ素系統のもの、水銀系統のもの、イオウ系統のものなどがあるわけです。だいたいみな同じような作用を持っています。たとえばこれを植物にかけますと植物の体内に浸みこんでいきます。浸透性と申します。そして一定期間、残留と申しましてその植物の中に残るわけです。そしてある期間たってこれが消えていくわけです。これを残こう性と申します。農薬が残留している植物というのはキャツでもなければきゅうりでもないのであって、人工毒キャベツであり人工毒きゅうりと名付けなければならないものなのです。決してキャベツではなく毒物なんですね。現在はどのようにしているか。例えば7月になりますと日照りが続いてくると、ナスビにたくさんダニがつく。あるいはてんとう虫ダマシがついてくる。そうすると今頃ですとスミチオンとかダイアジノンなどをかける。それらは大体10日から3週間ぐらい残ります。これらを前の日の午後にかけて、あくる日の朝出荷していきます。ナスビを10日以上も置いておくとだめになってしまうので、全部それは出荷されるわけです。だからみんながスミチオン入り、ダイアジノン入りのナスビを食べなければならない結果となってしまうわけです。ここで農薬には浸透性と残こう性があって、残こう性の農作物は人工毒農作物であるということです。ついでですが、家庭用の殺虫剤もみな多かれ少なかれ低毒性の農薬ですから、けっして人畜無害というものではないのです。気をつけて下さい。やはり、窓を開けて使うのはまあ良いとして、夜寝るときには蚊帳をつることをおすすめします。蚊と人間とは何億年もかかって生き残ってきた一種の同胞ですよ。その蚊が生きられないような環境に人間がおるということは良くないのであって、死なないにしても健康には良くないのである。是非、窓などを開けておく場合には蚊帳をつってほしいのです。農薬には、その他いろいろとございますが全部これらは、まったく人畜無害ということはないのであって、多かれ少なかれ毒性があることを知って下さい。これはよく気を付けて頂かねばなりません。これから夏になりますと、それらの被害で私の所へこられる方が多いのです。

 一例を申しますと、ある家から往診に来てくれというんですね、どんな病気かといったら「うちの老人が長らく中風で寝ていたが、最近になって苦しがってしかたがない」と言うんです。脂汗を流し苦しむんだといいます。お医者さんに診てもらったが、どうしてもわからない。何もないとおっしゃるんです。でも苦しむんです。それで私が行ったんです。行って私は驚きました。そのおじいさんの頭の上にですね、なにかぶら下げてあって、その下へハエや蚊が行くとバタバタ落ちるものがあります。殺虫器を取り付けてあったんです。それを取り外してみるとおじいさんは元気になりました。やはり、蚊やハエがバタバタ落ちるようなものは多かれ少なかれ人間にもよくないので、もしお使いなさるのならあまり人の行かない所、人の行かない所ならハエや蚊がいても別にかまわないと思うのですが。(笑) 

                                                    
    (以下、次号に続く)

                           



慈光会の学習会レポート

「知らないと危ない合成洗剤の毒性」

 
3月5日(日)参加60名   
慈光会販売所2階会場(講師:長谷川 治《洗剤・環境科学研究会評議委員》)

前回のレポートでは合成洗剤が人体と環境に及ぼす害毒について報告致しました。加えてファブリーズ等の消臭剤が猛毒のダイオキシン一歩手前の物質トリクロサンで
あることも報告いたしました。熱と光の影響を受けるとダイオキシンに容易に変化するそうですから、是非多くの方にこの事実をお伝え下さい。今月も引き続き合成
洗剤について、お伝えしましょう。

 「弱酸性」のトリック

 今、テレビのコマーシャルでも洗顔料は「弱酸性で」と、盛んにPRしています。その理由は肌の表面が弱酸性だからと言うのですが、アルカリ性が肌に悪いと言
わんばかりの勢いです。しかし温泉は大抵がアルカリ性。アルカリ性が肌に悪いなら誰も温泉に入る人はいないはずです。本物の石鹸もアルカリ性。十分すすげば、
肌は自然に弱酸性になるのです。

 講師の長谷川氏は、

「弱酸性の洗顔料の成分は台所用合成洗剤と同じ。どうしても弱酸性にこだわる人は台所用合成洗剤にお酢を入れれば同じものが出来上がりますよ。そうすれば、ず
っと安上がりです。」とジョークを飛ばしておられました。

 コマーシャルを見続けるうちに、弱酸性でないと肌に悪いような気がしてきてしまうのが怖いところ。消費者も正確な情報を入手し、根拠のない宣伝に惑わされな
いようにしなければならない時代になりました。

 「乳化剤」になる合成洗剤

 もう一つ、皆様に是非知っておいて頂きたい事、それは、乳化剤として使用されている合成洗剤の事です。

 一つには(1)食品の乳化剤、もう一つは、(2)化粧品の乳化剤、として長年使われて来ています。

(1)の食品の乳化剤として使われるものは、食品添加物として認可されていて、「蔗糖脂肪酸エステル」という名がついています。この乳化剤に関しては「ビタミ
ンAと結び付くと毒の力が強まり奇形が多発する」という動物実験結果が出ています。一種類では「安全」と称される添加物も、二種類三種類を同時に摂取すると、
全く予想も出来ない毒性が現れて来ます。これを相加作用、相乗作用といいます。食品の表示を見て「蔗糖脂肪酸エステル」とある場合は、これは合成洗剤だ、
と確認して是非購入を避ける事をお勧めします。

(2)の化粧品の乳化剤(注:これには、合成洗剤から作られる乳化剤と、石けんから作られる安全な乳化剤とがあります。)として使われる合成洗剤は、名前が多
岐に亘っていて大変分りにくいのが現状です。

 現在化粧品の成分は4000種類以上あり、化粧品の裏側に書いてある小さな文字の成分名を見て、大抵の消費者は「あきらめムード」になるのが現状のようです。

 従来の化粧品は「指定成分」(アレルギー作用を起こしやすい成分)のみの表示でしたので、消費者はそれを基準に指定成分が少ないものを選ぶことが可能でした。
しかし、2001年から表示法が変わり全成分表示となった為、どれが従来の指定成分なのかすら消費者には、分りずらくなってしまいました。これからは自ら
勉強して、自己責任で判断しなければならなくなった訳です。しかし4000種以上ある化粧品の成分を全部勉強できる消費者はなかなかいません。

 そこで講師の長谷川氏はその中でも特に使用を避けたい成分名を分りやすくする為に以下のような表を作成してきて下さいました。自分の使っている化粧品とこの
表を参照して、該当する成分が2〜3種位なら良心的商品と考えられますが、該当する成分が全成分の半分を占めるようなら、使用中止にした方が良い、とアドバ
イスして下さいました。この表を参照することによって、同時に、合成洗剤から作られた乳化剤も避ける事が出来ますので、どうぞ有効利用なさってください。

成分表示名の字句

表示成分例

ベン

ベンゼン、パラベン

フェノ

フェノール、フェノキシエタノール

エチレン(エチ)

ポリオキシエチレン、エチドロン酸

ポリ

ポリソルベート、ポリオクタニウム

クロ(塩化)

トリクロサン、クロルヘキシジン

アルファベット

BHTEDTAPEG

数字

ラウレスー10トリクロカルバン、メチコン

赤色○号、黄色○号

 

 慈光会でも、今回の学習会を機に扱っている化粧品の見直しを行い、いくつかの商品を取り扱い中止と致しました。

会員の皆様には、化粧品の乳化剤が合成洗剤由来のものであるかどうか、十分ご注意下さい。      * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *  

 様々に名前を変えて使われている合成洗剤があることを教えて頂いた学習会でした。

 町ぐるみで合成洗剤を止めて石鹸に切り替え、蛍が復活した温泉の里、同じように石鹸に替えて復活した牡蛎の名産地のお話し等は、来月お伝え致します。   




農場便り 6月

   

山々は新緑から深緑へと、日々色を変えていく。柔らかな葉は初夏の光の下、力強く山を覆っていく。5月中旬、直営農場の雑木林のあちらこちらで大きく張り
巡らされた藤のつるがうす紫色の花を下げる。その姿は、京の舞妓さんの花飾りのようで深い緑に美しく映える。

五月下旬、例年ならばすでに鳴いているはずの春ゼミの声をまだ耳にすることがない。低温の日が続くせいだろうか、少々気にかかる。この季節になると田植え
の準備であちらこちらの水田からトラクターのうなり声が聞こえる。夫が機械を使い、妻が細かい手作業で夫を支える。夫婦が力を合わせて行う農作業は美しい農村
風景の一つでもある。棚田の水面には青空が、角度を変えると周りの風景が映る。時折吹く南からの湿った風に水面は波立ち、せっかくの美しい風景は消えてしま
う。あぜ道に四つんばいになり、水の中に目をやる。その中には無数の水中生物が所狭しとうごめいている。中でもミジンコの泳ぎ方は見ていても飽きない。何十億
といるこの生物一匹々にも魂が宿っているのだろうか等と考えながら見る。ミジンコを蹴散らしてカブトガニが泳ぎ回る。その姿はまるで古生生物、それを巨大化
すると恐竜というところであろうか。すいすいと細長い体で泳ぐヒル、他にも名も知らない生物が多数眼に入り、時間を忘れ見入ってしまう世界である。この水中生
物も、田植え後散布する除草剤によって2、3日で姿を消し、水田の世界は死の世界へと変わってしまう。

5月下旬に収穫される作物にニンニクがある。一昔前には強いにおいの野菜の代表でもあった。食文化が変わり、今では万人の食に欠かせない食材の一つになっ
た。ニンニクの作付けは、10月堆肥をたっぷり入れ、畝幅120?4条植え、株間は15〜20?でバルブを植え付ける。寒い冬を小さな芽で越し、春一気に成長する。そ
の成長の早さには眼を見張るものがある。今回紹介するニンニクはアスパラ目ネギ科多年草で、紀元前3750年エジプトの墓から土で作った模型が発見され、紀
元前1300年ツタンカーメン王の墓からは乾燥したニンニクが発見されている。メソポタミアのバビロンの空中庭園でも栽培されていた。この作物はアジア型、ロ
シア型、ヨーロッパJ型、K型ユーゴスラビア型とこの5つのグループからなる。原産は中央アジアで中国に伝わった後日本に入ってきた。生のニンニクは臭いが無
く、有機イオウが酵素によって分解され化学反応を起こした時に臭いが出る。成分中多く含まれるアリシンは疲労回復、食欲増進、消化促進、夏バテで弱った胃腸
を守り、クーラーで冷えた身体の血行を良くする。また殺菌効果もあり、風邪などの感染症の予防や腸内の悪玉菌を抑え、胃潰瘍や胃癌の元であるピロリ菌を抑える。
コレステロールを下げ、発癌物質の毒性を消しインスリンの分泌を助け血糖値を下げるなどすばらしい食材である。が、一度に大量摂取すると胃壁を傷つけ貧血
を起こすこともある。生なら一片、加熱すれば2〜3片ぐらいとする。臭い消しには牛乳を噛むように飲む、コーヒー豆を5〜6粒噛む、味噌汁やジャスミンティを
食後に摂る等するとよい。

五條の町より南の山を望む。山肌を淡い緑色が優しく包む。山に近づくとその緑色は五條・吉野のお国自慢である柿畑の新緑であることがわかると共に何か異常
な色が混ざり合っていることに気付く。広大な面積の柿園に生い茂る春草が枯れ死んだ色であった。映像で見たベトナム戦争でアメリカ軍が行ったオレンジ作戦と同
じ情景が柿の木の下で展開されている。すべての草は枯れ、死の世界だけが広がっている。美しい新緑とは対照的な情景であり、寂しさだけが心に残る。我が慈光
農園は自慢ではないが、ありとあらゆる草が勢いよく生い茂り、大地が緑に包まれ、色とりどりの小さな花が可愛い模様となる。まさに大自然そのものであり、平和
そのものである。

雨期を迎える。時に豪雨となり災害を巻き起こす。しかしこの雨期が豊かな自然を育み、四季を通じて人々の心を育てる。芸術の世界で雨を筆で表現出来るのは
日本画だけで、他では雨を描くことが出来ないそうである。この豊かな自然が日本人の感性を育て、素晴らしい芸術性を作り上げたのであろうか。高温多湿のこの季
節しか見る事の出来ない生物に眼をやり、美しい自然を再発見していただきたい。人類の豊かさは物質の量だけでは決して量ることは出来ない。「この世の中強さが
無ければ生きていくことは出来ない。しかしやさしさが無ければ生きている意味がない。」哲学者ソクラテスの言葉である。

雨ガエルが鳴く。南の空から鉛色の雨雲が流れる。上がっていた雨がポツポツと降り出した。梅雨の農場は生命に満ち溢れている。



「梁瀬義亮記念資料室」についての経過報告


 平素は慈光会の運動に御支援、御協力を賜りまして有り難うございます。
 記念資料室は6月8日上棟致しました。
 今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。