慈光通信144号 (2006年8月)


自然と生命をとりもどすために XI

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和五〇年(一九七五年)六月二九日高松市民会館で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】


健康と食物・食物と農法・農法と心
恐ろしい農薬中毒
さて、そういう農薬が私達の体に慢性的に入ってきたときにどうなるかということを聞いていただきます。その前に低毒性農薬だから大丈夫だということを盛んに言うのです。これは誤りだということを知って下さい。低毒性という意味はホリドールかパラチオンかエンドリンとかいう恐ろしいものに比べて低毒性だというだけであって、仮にこれを除虫菊などにまきますと猛毒ですよ。大変な毒物です。ホリドールなんかに比べれば低毒性というだけで、決して無毒ではございませんから。こういうことは非常に無責任なことが多いので、決して信用できません。
よい例がですね。昭和28年から、ホリドールですね。ドイツで使った毒ガスを農民に撒かせた。長袖とマスクをすれば心配ないとうそを言って農民に十年以上も使わせた。このために農家でどれほどひどい目にあったかわかりません。後から実例も示しますが、絶滅してしまった家もあります。随分気の毒な人が出た。こんな無責任なことをする現在の世界でございますからやはり、うかうかと信用してはならないと思います。昭和五十四年になってこれは毒があるので使ってはいけないとおっしゃる。BHCやDDTのように初めはどうもないと思っていたものが後でどうもあるということが分かったのなら話はわかります。初めからホリドールのように恐ろしいものであって猛毒で、ドイツの作った毒ガスだと分かっておるものを十七年間も禁止しなかったということは、そして誰も責任も取らず謝罪もしないということは実にいけないことだと思うのです。こんな非人道的なことはないんですね。またエンドリンですがこれも猛毒でございますよ。人畜無害と書いて売り出されていたのを私は記憶しております。だからうかうかと低毒性と無害をごっちゃにしてはいけません。慢性中毒に関しては猛毒性のものでも低毒性のものでも似たような症状を呈してきますから、くれぐれも気を付けて下さい。後から、その対策も申し上げます。
まず症状としましては、すべての農薬においては脳の毒です。脳の細胞を侵し、その機能をだめにするものなんです。それでこの慢性症状がどうなるかと申しますと、まず女の方に多いのですが、第一に後頭部からうなじにかけて凝って仕方がない。それから気がいらいらしてまいりまして不思議に発想が多くなるわけです。あれもしなければならない、これもしなければならないといろいろと発想が起きてくるわけです。それでいて一つも実行ができなくなるわけです。そのうちに夜、寝つきが悪くなったり、ふと夜目が覚めるとつぎつぎと発想が起こって、考えないでおこうとしても頭が許してくれない。いくらでも発想が起こってきて眠れなくなってまいります。昼は眠くてしようがないわけです。居眠りばかり出るようになってまいります。それから、また妙に人嫌いになってきます。厭世的になってしまいます。どこか遠い所へ行っていたいという気持ちになってきて、人の中に出るのがいやになってきます。このような集会にくるのがいやになる。ここにこうして来ている方々は多かれ少なかれ大丈夫だということかもしれません。(笑)随分いやになるわけです。そのうちになんだか死にたくなってくる。自殺することがきわめて自然に感じられるようになってきます。奇妙なものなんです。一つ死んでやろうかな。という気になるんです。何故こんなこと私が良く知っているかと言いますと、私が実験中にひどいホリドール中毒になりまして、つぶさにこういうことを経験しておるもんですから。不思議な精神状態になります。そして死んでやろうかなという奇妙な考えが浮かぶのです。そしてついに自殺してしまう人も多いのです。こういうような脳の症状を起こします。それから自律神経の失調を起こします。迷走神経などをよく侵しまして、そして口の周りに変なニキビのような吹き出物がよく出てまいります。これは皮膚科へ行っても、ちっとも治らない。ちょっと紫色がかった変な吹き出物が出ます。それから顔やほおにしみが多くなります。全体として皮膚が黒ずんでまいります。それからよく口内炎を起こしまして舌が痛くなります。時々ため息をつくことがあります。別に悪いものを食べた覚えがないのに胃のあたりが重くなる。そして原因のわからない便秘や下痢が起こる。全体として体が黒くなり体が冷えてくる。お風呂の中に入っても寒いという人がでてくる。それから大腸の機能が侵されまして、緊張するとすぐお便所をしたくなる人が現れる。俗に言う大腸症といわれる症状で緊張するとすぐ大便したくなるという人も出てこられます。今いった症状がいろんな形で組み合わさって出てくるわけです。こういうふうな患者さんが非常に多いわけです。この一つに農薬中毒があるわけです。もう一つに慢性の栄養の欠乏症があるわけです。アンバランスな栄養の欠乏があるわけです。
                                                      
 (以下、次号に続く)

                           



慈光会の学習会レポート

「知らないと危ない合成洗剤の毒性」

 
3月5日(日)参加60名   
慈光会販売所2階会場(講師:長谷川 治《洗剤・環境科学研究会評議委員》)

合成洗剤を地域ぐるみで石けんに切り替え、よみがえった里があります。今月号では講師のお話の中から、そんな私達の本当の故郷(ふるさと)とでも呼ぶべき地域での例をお伝えしたいと思います。
北海道、釧路空港から東に70キロ、太平洋に面した所に厚岸(あっけし)という町があります。ここは昔から入り江が深い良港で魚介類も豊かでした。「アッケシ」とはアイヌ語で「牡蠣のたくさん取れる場所」という意味もあるそうです。ところがその豊かな海に異変が起こり、1983年(昭和57年)養殖していた牡蠣が大量死を起こしました。漁師さんたちはそれ以前から、異変に気づいていたといいます。古老たちはその原因を「上流部の森林伐採や農薬、酪農による糞尿、生活排水の増加による水質悪化」と分析しました。又、昔から言い伝えられている「山の木を伐れば川が暴れる」との言葉に、町の若い人々は行動を起こし始めました。「森林が豊かな海を育む」とのコンセプトの上に、「厚岸町緑水会」という林業グループを組織し、まず上流の森を復活するために植林を始めました(92年)。
一方、主婦などの間では、家庭排水に関心が向けられ、家庭排水の中でも最も問題の大きい合成洗剤を見直す動きが出てきました。「厚岸せっけんの会」はそのような経緯の中で結成されました。合成洗剤はなかなか分解されずに残留するので、川や海の生態系に壊滅的な打撃を与えるのです。逆に石けんは川に流れ込むとすぐ分解され、カルシウムせっけんとなって、魚達のえさになります。厚岸の町議会でも「水質保全、環境保護の為にせっけんに切り替えよう」との議題が取り上げられ、96年より町内にある保育所、給食センター、病院、老人ホーム、庁舎など公的施設で石けんが使用されるようになりました。調理や洗濯の時だけでなく洗面、歯磨き、シャンプーと、生活全般に使われる洗剤類を合成洗剤から石けんに切り替えて行ったのです。
97年からは全国に先駆けて、石けん購入費用を助成する制度ができました。厚岸町ではコンビ二にも石けんが置いてあるのだそうです。又、紛らわしい名前の合成洗剤(「除菌石けん」等とネーミングしてある。)を間違えて購入しないように、本物の石けんにシールを貼るなどの目印をつける工夫がされました。
これらの長年の運動が実を結び、ついに、厚岸では牡蠣、ホタテが復活しました。現在では厚岸の牡蠣は肉厚で大きいと評判を呼び「ブランド」となり、一般より良い値で取り引きされるようになったそうです。「自然環境を守ること」は、又、「自分達の生活も守られること」につながる事を、厚岸の町は教えてくれているような気がいたします。
新潟の五頭(ごず)温泉郷では石けんに切り替えて、ほたるが復活しました。
きっかけは、下流で無農薬でコシヒカリの栽培を目指していた農家から、「上流の温泉から化学物質(合成洗剤)が流れてくると無農薬栽培が出来ない、どうにかならないものか?」との話が持ちかけられたことでした。というのも、五頭温泉郷のある笹神村では、16年も前から「有機の里 ささかみ」を宣言して農薬や化学肥料を使わない農業を目指してきたからです。笹神村のこの運動は大きな評価を受け、1996年には、第一回環境保全型農業推進コンクールで見事農林水産大臣賞を受賞し、笹神村は環境にやさしい農業をしていることが全国的に知られるようになっっていました。
旅館協同組合の会合で下流の事情が話し合われ、2000年より18軒ある全ての温泉旅館で石けんシャンプーを使うことになりました。それ以降、田んぼや川べりにホタルが飛び交うようになり、一時は少なくなっていたイワナやヤマメ、カジカも川に還ってきました。
澄んだ湧き水で炊いた笹神村の有機米や村内で収穫された大豆から作った味噌、醤油、又、有機米と湧水で作られた日本酒もだんだん知られるようになり、ホタルの里という評判とあいまって、五頭温泉を訪れる観光客は50%も増えたそうです。又、地元で生産された醤油などは東京のデパートなどでも販売されるようになり、販路の拡大にもつながりました。村をあげての取り組みが豊かな成果をもたらしたのです。

長谷川氏はこのような地域の例を挙げて、私達の身の回りから「化学物質を減らしてゆかねばならない」ことを力説されました。
私達が合成洗剤を使うという事は、自分一人だけの問題では決してない事、使ってしまうとその結果は、川を汚し海を汚し、牡蠣やホタルの棲めない環境にしてしまう事を、教えていただきました。
そして、それに気づいて合成洗剤を止めると、自然は見事に復活し、私たち人間は自然から再び豊かな恵みを与えられるということも教えていただきました。
合成洗剤の問題は考えてみれば単純な事です。消費者が合成洗剤を使わなければ、それで解決する問題なのです。
周りの人々はインパクトの強いテレビのコマーシャルの影響を受けて、「合成洗剤が怖い」などと思ってもいないのが大勢(たいせい)でしょう。一人でも多くの方に、この現実を伝えていかなければならないと思います。
慈光会でも今後折々に「合成洗剤の怖さ」を繰り返し学習できる機会を作って行きたいと考えています。学習会での講師のお話、使ったビデオ、資料など貸し出ししています。どうぞ御利用下さい。【完】



緑の植物で涼を


温暖化の影響でしょうか、毎日、毎日、厳しい暑さが続きますね。会員の皆様の地方はいかがでしょうか?
暑さ対策に、簾(すだれ)や葦簾(よしず)を日除けに使うのは昔から行われてきましたが、緑のカーテン(蔓性植物を這わせたもの)はさらに有効なのだそうです。植物の葉やつるに含まれる水分が水のベールとなって、一層温度を下げてくれるのです。サーモグラフィカメラで映像を撮ってみると一目瞭然、緑のカーテンの方がずっと涼しい事が分かりました。(NHK「ご近所の底力」映像)
その「緑」で注目されているのがゴーヤー(苦瓜、れいし)です。真夏の日に強く、生育が速く、葉もとてもよく茂ります。
徳島県上板町役場で、三階建庁舎のわきに職員がゴーヤーを植えたところ、四メートル以上に育ち、庁舎内の室温が27、28度までしか上がらず、評判になりました。同役場は、冬の暖房費百万円を省エネしたことが「ワシントン・ポスト」でも紹介され問い合わせが殺到したそうで、そのチャレンジ精神が夏場の緑のカーテンのアイディアにも結び付きました。八月に実がなったら職員が持ち帰りご近所に分ける予定だそうです。何だかほのぼのする「おまけ」付きで、こんな省エネなら楽しんで出来そうですね。
マンション等庭の無い住居でもベランダ等でプランターを利用すれば蔓性植物での日除けは可能です。東京ではマンションを挙げて緑のカーテンを作って涼をとっている所もあります。マンション住人同士の良いコミュニケーションも図れるのだそうです。都内板橋区では小中学校でもゴーヤーの植栽をしています。学校は冷房施設が十分完備していないため、緑のカーテンの効果はとてもありがたいそうです。クラスで緑のカーテンの世話をし、収穫もするので、情操教育にも良いそうです。京都府八幡市では、今年から幼稚園、保育園でも植栽を始めました。
アメリカ、自転車都市で有名なデービス市を、以前、紙上でレポートさせて頂いたことがありましたが、省エネのアイテムの筆頭はやはり植物でした。庭に大きな落葉樹を植える、道路の両脇に枝を広げる木を植える、駐車場に木を植えて日陰にする、路はなるべく舗装しないで、土の持つ断熱力、吸熱力を残し、植物を植える・・・・。
デービス市には遠く及ばないかも知れませんが、緑のカーテンの実行は、そういった発想に一歩近づくアイディアですね。都市の舗装をめくって蔓性植物を植え、ビルの壁面に葉っぱを這わせて、涼をとる・・・つたで覆われたビルを想像すると、それはいかにも涼しげです。
東京のデパートでは、屋上の遊園地を改装して、屋上庭園にし、涼をサービスしているケースもあります。屋上に芝生を植え、木立を作り花も植える・・・小さい子供たちが屋上庭園を駆け回っている姿は、ほほえましいものです。屋上では地上の様にアスファルトの照り返しがありませんし、高度があるため、風もよく通り涼しいのです。ビルに対する断熱効果も高いそうです。
建設環境研究所(本社、東京都豊島区)ではミズゴケを使って屋上に湿原を作り出し断熱効果を上げています。都会で栽培出来るとは誰も思わなかったミズゴケ栽培を専門家の協力で試したところ、屋上に放置するだけでスクスク育ったそうです。自然の雨だけで育ち、滅多に水やりの手間も要らないとか。(朝日新聞06/8/6付)ミズゴケは死んでも腐らず、苔層の厚みを増してゆく植物。昔は断熱材としても用いられていたそうです。その断熱効果は抜群で、苔最下面と苔の無いコンクリート表面の温度差は十数度もあったそうです。
デービス市を参考にして発想を変え、様々な植物の力を借りれば、私達の暮らしは、エアコンだけに頼らないで随分涼しくなるのではないでしょうか。それに植物は二酸化炭素を吸収し、酸素を作ってくれますから、地球温暖化を防ぐ働きもしてくれます。都市全体がこのようなコンセプトで創られるようになれば、大きな涼が得られることが期待されますね。
「地球規模で考え、行動は足元から」の標語に従って、まずは自宅に、来年は小さいながらも緑のカーテンを作ってみませんか?




農場便り 8月

   
農場のゲートを入ると、道の両側に茂る木々が道に覆いかぶさり、緑のトンネルを作る。木々は自然に落ちた種が育った雑木で、殆どの木は名前がわからない。その中にリョウブという木がある。木の肌はサルスベリのようにつるつるで、これと言って何の特長もない雑木の中の雑木、言い換えれば純粋の雑木である。見栄えも悪く、山の掃除をするならば、最初に切り捨てられるであろう木である。しかしながらすべての生物が何か使命を持ってこの地上に生を受けており、人類もその一種である。このリョウブの木には7月から9月頃まで、あまり美しい花とは言えないが、白色に近い細かい花が咲く。花木には木や葉の形を楽しむもの、花の色や形を楽しむもの、そして香りを楽しむものがある。その中でもリョウブは香りを楽しませてくれる木である。数え切れないくらいに咲いた、あまり可愛くない花からは甘酸っぱい香りが漂い、周りの風景を包み込む。まさにまだ見ぬ極楽浄土の香りと表現すればよいのであろうか、暑い真夏に一時の安らぎを与えてくれる。シャネル、エルメスなどという高級ブランドの香水よりはるかに気品高い香りで私を癒してくれる。生物は人類が考える以上に突出した個性を持ち、見た目は地味であるが個性の強いものが多い。農作物では洋菜に比べ和菜は地味である。中でも根菜は地味な野菜の一つであろう。今回は根菜の中の「ごぼう」に華やかなスポットを当てて紹介させていただきたい。
ごぼうの原産地はヨーロッパから中国にかけてで、中国より薬用として日本に伝来した。あざみに似た花を咲かせるにもかかわらずキク科であり、関西系と関東系に分かれる。現在栽培されているのはほとんどが関東系で、滝野川や大浦と言った系統である。ごぼうの根を食べるのは日本と台湾だけで、世間では「色白は七難隠す」と言われるが、肌が真っ黒なごぼうにも素晴らしい効能や栄養があり、胸を張って店頭に並べられる作物である。効能と栄養は次の通りである。
カルシウム、カリウム、アミノ酸、ポリフェロールを多く含み、リグニンは腸内で発ガン物質を吸着し抗ガン作用をもたらす。ペルオキシダーゼも同じく活性酸素を消去し発ガンを抑え、さらに女性の敵である老化を防ぐ働きがある。同じくモッコラクトンはガン細胞への変異を抑制する。イヌリン(水溶性食物繊維)は便秘を改善し、糖尿病や高脂血症、動脈硬化から私達を守ってくれる。以上、これらの素晴らしい効能を頭に思い浮かべ、キンピラ、筑前煮、サラダ、天ぷら、たたきごぼう等おいしく調理していただきたい。注意していただきたいのは、ごぼうは繊維質が強いため、よく咀嚼するということである。
大自然からの恩恵は地上部だけではなく土中深くまでに至り、我々に多大なる大地の恵みを与えてくれる。ただ一つ欠点を挙げるとすれば、害虫も付かず、土質も選ばず、雨にも負けず、風にも負けず、夏、冬の厳しさにも負けず、病気にはいたって強い。しかしこの作物、土中深くに根を下ろし、揺さぶれども引っ張っれどもびくともせず、こうなればとスコップと開墾用の重いクワでごぼうに沿って溝を掘る。その深さは私の腰までになる。夏作のごぼうは非人道的、過酷な労働でゼイゼイ息をしながら収穫後の私はほとんど瀕死の状態である。あのきつい作業を思い、何とかならないか、と一生懸命智恵を振り絞り良案がひらめく。以前より、道やその他の工事で使用したユンボ(パワーショベル)、操作はお手の物である。早々リース店に行き、手ごろな大きさのユンボをリースし、トラックに積みいざ農場へ。少々緊張気味に、条間にアームを合わせ掘り進む。思い通りきれいに溝が掘れ、1mを越す深さにまで掘ることができた。この時以来ごぼうの作付け時、後々の作業を思い憂鬱になることもなくなった。皆様にはやわらかく香りの良いごぼうを食卓で楽しんでいただきたい。
猛暑はまだまだ続く。お日様がすごい力で大地を、私の身体をも焦がす。負けじと畑の作物は大地に根を広く張り巡らす。潅水をして回る日々はまだまだ続く。汗は額を伝い顎先から大地へ落ちる。麦藁帽子を持ち上げ大空を仰ぐ。真っ青に澄んだ空に真っ白な入道雲がまるで生き物のようにムクムク湧き上がる。秋アカネはまだ草陰で羽を休め、ニイニイゼミは夏の暑さを心行くまで楽しむ。 金時人参、西洋人参の潅水が終わると続いてきゅうり、セロリ、最後に葉菜にも潅水する。日は傾き、ニイニイゼミやアブラゼミからヒグラシへと羽の音が変わる。山の尾根や頂、谷の底深くから涼しげな泣き声がこだまする。若い頃には感じなかったこの鳴き声に年を重ねるごとに美しさと共に侘しさや悲しさを感じる。夕風が頬を撫ぜる。ほっと一息をつく瞬間である。純白の入道雲に夕日が染まる。「碧空慈光」前理事長が愛した言葉が頭をよぎる。さぁもう一息、早く水をと野菜からの催促の声が聞こえる。
 金エノコロ草の穂が夕日に光る農場より