遠くシベリアの大地より、冷たい風が運ばれてきた。日中は暖かく小春日和、しかし朝夕はぐっと冷え込む。農場の周りの木々や草もこれから迎える冬に備え、気構えをしているよう目に映る。青々と茂っていた「はこべ」も何度か下りた霜に焼けしんなりし、活力をなくした葉が痛々しく師走の陽の光を受ける。冬の訪れと共に沢山の渡り鳥が日本各地に舞い下りる。遥か北極圏近くより何千キロを旅し、日本海を渡り、美しい国日本へたどり着く。湖や池、河川で羽を休める鳥たちの映像を目にした。白鳥、鶴、鴨などの美しく優雅な姿が心を温かくする。同じ大陸からの使者でも恐ろしい飛び道具はご勘弁願いたいものである。 |
我が農園の最悪なる山の主、イノシシが今年も秋口より三日に一度のペースで、農場の夜間の見回りを繰り返す。地域の安全のためならば有難いが、彼は作物を手当たり次第喰っていく。最初に被害に遭ったのはかぼちゃであった。大きな葉をたくさん付けたツルを所狭しと張り巡らし、葉かげには大きな実がたわわに実り、冬至用にと一生懸命に育てていたかぼちゃも今やイノシシの胃へと姿を消した。年々増え、地域によっては作付けをあきらめなければならない所も出てきたそうである。これも自然環境を考えることなく、広葉樹林を針葉樹林に変えた人間至上主義のしわ寄せであろうか。被害はこれだけではない。10月下旬より出荷予定の白菜、晩秋用のキャベツ、カリフラワーがイノシシの鼻で土ごと掘り起こされ、これには参ってしまった。しかし他の畑では白菜や田辺大根、その他数種の野菜は順調に育ち、この通信を読まれる頃には各家庭に届けられ、お召し上り頂いている事と思う。 |
冬の作物の中で一際輝くものがある。真っ赤に光り輝く「りんご」、当会もりんごを取り扱うようになって30数年になる。今回はそのりんごを紹介させていただく。当会のりんごは岩手県盛岡市の山口博文さんが手塩にかけ栽培して下さっている。今から約25年前、五條の地を訪れられた山口さんご一家は、子供の手を取り優しい素朴な面持ちの方々で、農場でお話させていただいた事がつい先日の事のように思い起こされる。慈光会を知った理由を伺うと、書店で偶然手にした一冊の本が、前理事長著「生命の医と生命の農を求めて」であったそうである。ご縁というのはこういうものなのであろうか。それから岩手に戻られた山口さんは、すぐさま有機農業に取り組まれた。 |
ここで少しりんごについて説明させていただく。りんごの原産は中央アジア、カザフスタン、コーカサス山脈と中国天山山脈、ウイグル自治区辺りからヨーロッパに伝わり、その後アメリカへと伝わる。8000年前の新石器時代にも栽培のようなことはされており、紀元前300年にナイルデルタ地帯で栽培された畑が出土している。ギリシャ・ローマと栽培品種も増え、特にアングロサクソンが熱心に栽培をした。日本では、平安中期918年に中国より渡来、小さな和りんごを栽培した。西洋種は明治4年アメリカより輸入し、現在までに1000種以上が導入され、その内日本の気候に合った品種は20種程であった。欧米では一日一個のりんごは医者を遠ざけると言われ、カリウム・カルシウム・鉄・食物繊維・ビタミンC・有機酸を多く含む。これらの効能を紹介させていただく。まずカリウムは高血圧を下げ、ペクチンは血液中のコレステロールを体外に出す。セルローズはペクチンと共に整腸作用があり、苦しい便秘を解消する。ペクチンのもう一仕事は人類最大の敵、発癌物質をいち早く体外に追い出す。また糖尿病を抑え子供の発育に必要なカリウムを多く含み、肩こりや腰痛から体を守るリンゴ酸やクエン酸を多く含む。最後に女性には欠かすことの出来ない抗酸化作用、老化抑制、美肌を約束してくれる。今までは味と香りだけでいただいていたりんごのこの素晴らしい効用を最大限に活用したいものである。しかしこのりんご、高温多湿、モンスーン気候、酸性土壌の我が国に於いて最も栽培しにくい作物である。それでも無理に栽培しようとすると後は農薬任せとなる。その使用量たるや半端ではなく、「栽培の様子を見るととても食べる気にはなれない」と以前耳にしたことがある。そんな中、前理事長の提唱する無農薬有機農法の原理を守り、日本では殆んど無い完全無農薬有機栽培で育てたりんごを届けてくれる山口さんに感謝!!今日も美味なるりんごを丸ごと口いっぱいにほお張る。 |
道端にさざんかが美しい花を咲かせ、「たき火だ たき火だ 落ち葉たき」と自然に口ずさむ。美しい日本の情景の中に温かい心が宿り日本人本来の情を思い起こさせてくれる。先日目にした記事に、理論物理学者のアインシュタインが1922年に来日した時の言葉があった。「謙虚と質素、純粋で静かな心、それらを純粋に保ち、忘れずにいて欲しい。」この素晴らしいコメントを読むと同時に、生意気にもアインシュタインが発見した数多くの法則は果たして人類を平和と幸せに導くことが出来たのだろうかと疑問が残る。前理事長から数多く聞いた話の中にイギリスの作家バーナード・ショーのコメントがある。「ニュートンは我々の頭脳を百年に亘り支配した。アインシュタインはこれから先何年に亘って我々を支配できるだろうか。」と。 |
時折吹く北風が色褪めた木々の小さな葉音をたて冬空遠くへとさらって行く。暮れから年明けも盛岡から沢山のりんごが届く。丁寧に荷作りされた箱を開けた時、中から真っ赤に熟れ輝くりんごが顔をのぞかせる。きれいに整列したりんごの顔からは笑顔がこぼれる。遠く東北の香りが辺り一面を包み込むと同時に、山口さんの暖かい心が私の心も包み込む。 |
来る年も会員皆様の健康と安らぎを願う農場より |
「ニュートンも りんごなければ ただの人…」 |