健康と食物・食物と農法・農法と心 |
農法と心 |
最後に申し上げたいことは、有機農業というのは、今申し上げたように、化学肥料を使うかわりに有機質を使う農業だということです。しかしどうも、そうではないんですね。何故かと言うと私の協力農家で、私といっしょに最初から研究して10年ほど一緒にやっていた人が、有機農業のことは知り尽くしておる彼がだんだん私の会から離れていって、そしてぼつぼつ農薬を使い出し、化学肥料を使い出して元へ戻ってしまっております。恥かしい話ですけれども、これは何故かというと、他の協力農家はみんな正しい農法で作物を作って、それを他の人に食べてもらい喜んでもらうことがうれしくてたまらない、と思っているんですね。それが脱落していった方は少し欲が深いんですね。会へ作物を出すより直接売った方がもうかると思ったのですね。それで会に少し出して、残りを直接売っておったわけです。そのうちに、そんな気持ちでいると化学肥料を少しかけると良くできるなあと思って、化学肥料をかけだしたわけです。そのうちに害虫がわいてくるもんだから、低毒性ならよかろうと思い低毒性の農薬をかけだしたのです。そうするとすぐにわかるもんで、会にも来なくなって、行くところがないからまた、元の市場へ持っていって売るという有様です。ここなんですね。有機農法というのはテクニックではないということですね。単なるテクニックじゃないのです。現在の公害を起こしているこの原理とちがう原理の農業なのです。 |
どんなことかと申しますと、私達がこの恐ろしい公害の中に住んでいるのは、近代文明が近代思想が到達しなければならない所へ到達したということが考えられます。来るべくして来たのだということです。だからこの公害を科学技術によって解決しようとしたら、それを解決する技術によってまた、公害が出てくるわけです。そうではなくて私達は、自然から出てきたものを自然へ返すということを、もっと簡単な方法でやればいいわけです。ともかく、私達の公害を起こした所のいちばん大きな原因は何かということを考えてみると、第一に私達の文明には人間至上主義というものがあります。人間が最高なんだという考え方です。しかし私達は九九・九%までは自然に養われているわけです。私達ができない力を自然が持っているのは事実です。私達が養われているという事実を無視して、人間対自然というふうに考えて自然を征服して、自然から取ってきて、人間が栄えるんだというものの考え方に公害の源があると考えるのです。我々の先祖は自然というのはありがたいお母さんのようなもので、我々を養ってくれえるありがたいものだと信じて疑わなかったのです。だから、お米を四石頂いたとか、二石しか頂けなかったと言ったのです。今の時代は四石取った、二石しか取れなかったといいます。この「頂いた」という言葉が出てくる世界観と、「取った」という言葉が出てくる世界観には根本的な差があるわけです。ともかく自然観が違うわけです。有機農法では自然が私達に与えてくれるのだから自然に従って作らせてもらおうという考え方で農業が行われているわけです。現代農業というのは、自然は我々の敵だと考え、これを征服して、そこから取るんだというものの考え方から出たものです。そこに一つの大きな違いがあります。 |
第二の違いは、生存競争が生きる原理だ、ということをみんなが信じてしまった。そうして、人様をけとばして、また苦しめても自分は生きていくんだ、という一つの意欲が生活意欲になってまいりますと、公害が起こります。いまだに公害が少なくならないのは、自分と他人との断絶という考え方があるからだろうと思います。しかし、実際よく調べてみますと、この世の中の生存の原理は共存共栄です。今、どうして有機農業が広まらないかというと、手間のためでもなく、なんでもないのです。これは工夫すればなんでもないのです。一番の大きな障害は、一般の農家の方に「今安定して行っているこの方法をこわしてまで、人様のために尽くす」という原理が行き届いてないからです。消費者の間でも「自分だけが無農薬の有機農業のものを食べたらひと様は食べなくてもかまわない」という気分があるから、この有機農業が広がらないのです。私はしみじみ思うのですが、公害というものはテクニックが誤って起こったのではなくて、原理的な誤り、つまり世界観の誤りがあるんだということです。こういうことを実際、農業をやってみてしみじみ感じます。 |
それでどうかひとつ、農家の方は「これをやることによって自分が救われる。そして、たくさんの人々が救われる。」つまり「多くの人々が救われるから自分も救われる」ということを信じて行ってほしいのです。消費者の方たちも同じように「生かされているんだ。だから生かさねばならない。そうするとまた生かされる。」この原理を思い起こしてもらいたい。私の会ではこのことを繰り返し、繰り返し消費者の方々に申し上げております。そして消費者の方々が会へ買いに来られて、帰るとき「ありがとうございました。」といって帰られます。要するに生産者も消費者も生かされているんだ、だから生かすように努力しておればまた、生かされるんだという原理。それからもう一つは自然というものは我々の仇でもなければ、略奪すべき対象ではないのであって、ありがたい、私達を養ってくれるお母さんであるという現実ですね。この現実をもう一ぺん正しく認識するところに有機農業が行われるし、またその他の公害も解決せられるのだと思います。アメリカの有名な公害学者が、「公害は科学によっては解決しない。宗教によってのみ解決する。」といっておられますが、私は今、申し上げたことを言っておられるのだと思います。【完】 |
ほうれん草豚 |
豚にほうれん草の遺伝子を組み込んで、豚肉を食べればほうれん草の栄養も摂れるようにした遺伝子組み換え「ヘルシー豚」 |
ひらめトマト |
トマトにひらめの遺伝子を組み込んで、ひらめのように寒さに強く、冬でも成長し収穫できるようにしたトマト |
SFファンタジーの作り話ではありません。現実に世界のトップをひた走るバイオテクノロジーの研究者たちが真剣に研究し、実現させた生物たちです。 |
自然界では植物と植物も種(しゅ)の壁を超えて交配することはありません。そこには、自然の不可思議な種(しゅ)を守る秩序が働いているからです。まして動物と植物が交配することなど考えようもなかったのです。けれどいまや「遺伝子組み換え技術」が種と種の壁を破る“最先端の技術”となって自然界ではありえなかった動植物を次々に作り出しています。 |
こんな現実に私たち消費者はどのように対処していったらよいのでしょうか?子供たちの時代の食べ物は果たしてだいじょうぶなのでしょうか?(解決への道は映画の最後に提示されています。) |
4月22日の学習会当日は、大変よいお天気で、定員いっぱいの60名の参加がありました。梁瀬義亮記念資料室を訪ねて下さって学習会を知り、参加してくださった方のお顔もちらほらお見かけしました。 |
学習会では2本の映画を上映しました。 |
一本目は「不安な遺伝子操作食品」 |
二本目が「食の未来―決めるのはあなたです―」 |
死者も出た遺伝子組み換え食品 |
一本目の映画は遺伝子操作食品の安全性を中心にまとめてあります。 |
特に、1989年に遺伝子組み換え「健康食品」によりアメリカ合衆国で起こった「昭和電工Lトリプトファン事件」は、死者38人、筋肉痛や呼吸困難を訴える被害者1万人を出した大事件で、あまり日本国内では知られていない事実がレポートされていました。「Lトリプトファン」という商品は、直ちに回収処分となりました。その後、日米合同で原因究明を行った結果、遺伝子組み換えにより予期せぬ不純物が発生し、その不純物を含んだ「Lトリプトファン」を食べたことが原因で、死者や被害者が出た、という事が分かりました。遺伝子組み換え技術は、このように「予期せぬこと」(今の技術では組み込む遺伝子が本体の遺伝子のどこに組み込まれるかコントロールできないため)と常に隣り合わせの危険な技術なのです。今もアメリカ合衆国では後遺症に苦しむ被害者が大勢います。食の安全からは極めてリスクの高い技術ということができます。 |
ねずみに異変が |
現在、動物実験で、「遺伝子組み換えジャガイモを与えたねずみに免疫機能低下と成長の遅れが出た」(英国、プシュタイ教授)というデータと、「組み換え大豆を与えた雌ねずみから生まれた子供ねずみの死亡率が異常に高い(51.6パーセント)」(ロシア、エマルコヴァ博士)というデータが得られています。二人の研究者は「人々に食べさせる前に、こうした実験をまず十分に行うべきだ」と訴えています。(「食の未来」テキストより) |
抗生物質が効かなくなる? | |
「抗生物質耐性マーカーが遺伝子組み換えの中でどのような問題を起こすのか誰もわかりません。世界中の生物医学界がこぞってこの問題に目を光らせています。」(チャールズ・ベンブルック博士) | |
遺伝子組み換え食品を毎日の生活の中で食べていて、ある日病気になったとき、抗生物質が効かなくなっていたとしたら・・・。こんなことが、人類全体に起きてくるとしたら、人類の存亡に関わる大問題です。最先端と自負するバイオテクノロジーの研究者たちは、「医療現場にもたらされる抗生物質が効かなくなるという脅威」まで視野に入れて研究をしているのでしょうか?モンサント社は、「生まれた子ねずみが半分以上死んでしまうような遺伝子組み換え大豆を人類が食べても大丈夫」と断言することが出来るのでしょうか?近年増加している子供たちのアトピーやアレルギーに遺伝子組み換え食品の影響はないのでしょうか? | |
「遺伝子組み換え技術」というのは、「細胞膜で厳重に守られている細胞を侵略する技術」です。通常は定着しないはずのものを細胞に無理やり侵入させ定着させるのです。微生物生態学者のイグナシオ・チャベラ博士は次のように述べています。 | |
「予測不能のDNA相互作用がいずれ起こります。人類が経験したことの無い大規模な生物実験が進んでいるのだと思います」と。 | |
自己防衛するには、有機農産物を食べ、有機農業生産者を支援し、ヨーロッパのように遺伝子組み換え食品の不買運動を進めることです。ヨーロッパEU諸国は遺伝子組み換えトーモロコシの輸入拒否を行い、アメリカ合衆国はEUという巨大な市場を失いました。その市場拡大の矛先を日本に向けさせてはなりません。私たち日本でも、ヨーロッパのように遺伝子組み換えのような危険な技術にはっきり「ノー」を言い続けましょう。(署名にご協力お願いいたします。) | |
(以下、次号に続く) |
「遺伝子組み換え食品表示の法改正を求めます」の署名に、ご協力ありがとうございました。 |
「食の未来―決めるのはあなたですー」の学習会で、遺伝子組み換え食品の不買運動が遺伝子組み換え技術を阻止する最も有効な手段であることを学びました。ヨーロッパ諸国は「遺伝子組み換え食品」にはっきり「ノー」を言ったため、アメリカはヨーロッパという巨大な市場を失いました。売れなければ作れないのです。 |
ヨーロッパ諸国のようにはっきり遺伝子組み換えに「ノー」を言うためにはヨーロッパのように表示を厳密に行う必要があります。日本では油(菜種、大豆、トウモロコシなどが原料)や醤油(大豆が原料)などは遺伝子組み換えの表示が免除されていますし、流通過程で遺伝子組み換え作物が5%まで混ざることを許容しています。これにひきかえ欧州連合では例外なくすべての食品に遺伝子組み換えの表示をすることが義務付けられていますし、流通段階での混入は0.9%しか許容されないという厳しさです。 |
「今の日本の表示をヨーロッパ並みの厳密さにしてください」という署名を皆様にお願いしたところ、約300名の方々からご協力を頂きました。早速、グリーンピース・ジャパンに送付いたしました。本当にありがとうございました。今後ともご協力よろしくお願い致します。(署名は10月末まで受け付けています。署名用紙ご希望の方は、慈光会までお申し出下さい。) |
農場便り 6月
ラジオから気象情報が流れ、南大東島から始まり日本各地の天気が読み上げられる。南西諸島が梅雨を迎えると本土の木々もすっかり緑が深くなり、山々を包む空気にも湿気が帯びてくる。
農場の雑木山に宿る大木の木肌に付く苔も大気中の湿気を体いっぱいに取り込み、美しい緑色に変化した。日陰では厚い苔がびっしり地表を覆う。センタイ類(苔類)は原始的な植物であり、地球上に2万種、日本には2千種が生育している。日頃あまり目にとまらないが、よく見るとその美しさに目を奪われる。古都の名庭園や社寺の庭園を飾る苔も良いが、人の目に触れない山中の道端や擁壁に生える苔は何物にも代え難く、心の深くに入り込む。栄養分のないところで水分のみで育っていくパイオニア植物で、何千何万の時の流れにも変化することなく力強く生きて行く。しかし、この数十年で日本の苔の百種が絶滅の危機にさらされている。これも人類の悪行であろうか。これから梅雨にかけ、胞子を風に乗せ着生し、地表や石等色々なものの上で温かく大自然を絹のようなやさしさで覆う。
初夏の直営農場では5月上旬より柿の摘蕾が始まる。摘蕾とは、柿の花を蕾の時に一枝に一つだけ残して摘み取る作業で、多い枝では6〜8個程の蕾の中から下向きで形の良い大きなものを一つだけ残す作業である。そうする事により養分がその一つによく行き渡り、確実に着果し、味も良くなる。しかしながらこれも人間の勝手であり、より多くの子孫を残そうとする柿の木には迷惑な話である。…が、少しでも美味しく大きいものを食卓にお届けしたい、と思うと仕方ない作業でもある。毎日小さい蕾を摘み取る作業は根気との戦いであり、夕刻時には目はチカチカ頭はクラクラ、大まかで力仕事を得意とする私には年に一度の苦行である。大きな図体ではあるが大の毛虫嫌い、作業中知らぬ間に毛虫に触れたならば、全身ジンマシンのようにボコボコ真っ赤に腫れ上がり、その痒みに一週間は生き地獄を味わうことになる。毎年このシーズンの二大苦行である。
やっとのことで摘蕾を終えた枝は寂しく映るが、花が咲き、蜂やアブが花粉を運び、着果、堆肥を吸収しスクスク大きく育って行く。一昔前ならば放っておいても出来た作物であったが、現在では一般の栽培では新芽の前から収穫まで8〜10回の農薬散布を行う。カメ虫、毛虫などの大量発生、誤った近代農法や工業による生態系の狂いもすべて人類の悪行であり、柿栽培にも悪影響を及ぼす。その中当園の柿は30年来無農薬栽培を行っている。
柿には甘柿と渋柿の2種類があり、この地域では甘柿は富有柿、渋柿は刀根早生と平核無柿が多く栽培されている。柿は縄文・弥生時代の遺跡からも出土され、中国では3千年前より食され、南朝後醍醐天皇も食したと伝えられる。「柿が赤くなれば医者が青くなる」と言われ、豊かな栄養素が含まれている。ビタミンC・K・B類は血管の強化や止血作用があり、ビタミンCはレモン、苺などにも引けを取らず、生活習慣病予防にもなる。カロチンは発ガン予防、食物繊維は便通を良くし、大腸ガンや肥満の予防、渋(タンニン)はビタミンCと力を合わせ血液中のアルコールを体外に排出し二日酔いに効くとされる。豊富なカリウムは利尿作用をもたらす。本年の秋には甘い柿を食していただきたい。
水田では早苗が水面より細い葉を持ち上げる。この地方では田植えの作業を終えると夏祭り、神様に五穀豊穣を祈る。お祝いの席には、各家庭の自慢の柿の葉すしが食卓を飾り、親戚や知人にも配られた。柿の葉のタンニンが腐敗菌から寿司を守り、若葉の香りが食材へと移り深い味わいとなる。そんな風習も今では遠い昔の思い出となりつつある。母の作った柿の葉すしが懐かしく思い出される。
初夏の湿った風が谷筋より吹き上がってくる。柿の葉の色も萌黄色から深い緑へと変化していく。これから梅雨も本番を迎え、雨量も多くなる。大きな災害に見舞われませんように。また、秋には美味しい柿の実がたわわに実りますように、とお供物は無いが、一人柿園で大自然の神様に手を合わせる。つつ鳥の低い鳴声が夕暮れの山々に響き渡る。
毛虫の痒みに悩む農場より