梁瀬先生の健康状態が大変悪くなり、病院が閉院された後、梁瀬先生は「もう体力的には医者は出来ないけれど、少しでも皆さんのお役に立てれば」とおっしゃって、ご病気の体を押して、次のようなお話しをして下さいました。
(1992年8月30日 於 慈光会館)
健康ではない私が健康の話をするのはおかしいとお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんがこうなったらいけないから、と云う意味でお聞きいただけましたら幸いです。 昭和23年、私が尼崎の病院に勤めさせて頂いている時のことですが、非常に恵まれた金持ちの一人娘さんが、扁桃腺が持病でよく診察室にみえました。その時分はサルファダイアジン、サルファチアゾールのようなサルファ剤で症状を抑えました。いつもひどい扁桃腺で来ますから、大体4〜5日高熱が続き、それで治るような状態でした。当時ペニシリンはなかなか手に入りませんでしたが、その家庭では、何かつてもあったようで、ペニシリンをもって来ます。そして、それを注射しますといっぺんに治るのです。「なんと、えらい薬ができたものだ。」と感心しました。又、このように治ったらそれでいいと思っていました。ところがそのお嬢さんが、こんどはペニシリンが効かなくなってしまい、敗血症になって亡くなってしまったのです。私にはどうしても割り切れないものがありました。そして、その時に次のようなことに気づきました。
普通はばい菌が人間の世界にいると思いがちですが、そうではなくてばい菌の世界に人間がいるんだということを細菌学で教えられます。いたる所にばい菌がいます。その中にいて病気にならないのです。皆さんだって結核菌も持っておれば、肺炎菌も、化膿菌も、なんやかやいっぱ持っておられます。培養したら出て来ます。パラチフス菌すらも出て来ることがあります。皆持っていながら病気にならない、これが普通生きているということなのです。あるいは、気候の変化によって、喘息の人などは、大変な発作を起こします。ところが普通の人はどうもありません。結局、「病気になるいろいろな原因の中に居ても病気にならないで生きる、というのが人間が生きているということなのだ。」という当たり前のことに、その時気がついたのです。ということは、生命力ということです。抵抗力といってもかまいません。人間は、ばい菌とかいろいろ病気になる原因の中にいて、病気にならない力を持って生きている訳なのです。
今の医学を考えてみますと、そのことを忘れて、病気を病気という時点で捕らえています。例えば、結核で死んだ人がいますと、その原因を探すのに、その結核患者を解剖して、病変が肺にあることを確認し、その肺を切って切片を作り、そして組織培養をして結核菌をみつけます。こういうふうにして、結核の原因は結核菌である、と結論づけるわけです。皆さんも結核の原因は結核菌だと思っておられるでしょう。これは、 肺結核を病んでいる人と肺結核で死んだ人との肺の中から100%結核菌が見つかるということ、 大量の結核菌を動物に吸入させますと、肺結核になるということ、この2つのことから肺結核の原因は結核菌だ、とこういうことになった訳です。ところが、見落としがあるということに気づきました。結核菌を持ちながら結核にならない人が99・5%以上いる、ということです。この事実を、忘れている訳です。考えてみましたら、死の分析から出てきた医学は、生命力という事実を忘れており、生命力がゼロになった状態における医学です。ということは、これは救急処置以外のものではないということになります。
これを例えていいますと、火事というものを火事という時点で見ると、これを消すのは消防車です。ですから消防車を増強するというアイディアが浮かんで来る訳です。しかし、火事というものには必ず火元があります。「原因として火元がある」ということと、「結果として火事が起きる」ということの両方を視野に入れて考えますと、今度は、火事をなくするのは消防車だけではなくて、火の用心が大事であることに気づきます。即ち「火事の原因である火元を無くす」ということの重要性です。いくら消防車を増強したって火事はなくなりません。火事をなくするのは消防車ではなく、火の用心の方であって、消防車というのは応急処置なのです。今の医学はそういう応急処置の医学です。今の医学で言っている病気の「原因」(例えば結核菌)と言われるものは、考えて見たら、実は「結果」(結核菌に対する抵抗力がないということ)であるということ、こういうことに気づいたのです。(以下次号に続く)
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昨年の秋より、遺伝子組み換え作物が輸入開始となり、いよいよ食卓に上ることとなり話題となっています。これまでは、遺伝子を組み換えた細菌などに造らせた食品・食品添加物だけが輸入認可の対象だったのですが、直接口に入る農産物の輸入が認められたのは初めてです。 いったい、遺伝子組み換え作物とはどんなものなのでしょうか?
遺伝子組み換え技術というのは、細胞の核にあり、遺伝情報をになうDNA(デオキシリボ核酸)から、目的の遺伝子を取り出し、別の生物のDNAに組み込んで、その生物を人間の目的にあった性質に遺伝的に変え、増殖させる技術のことです。 農作物では、特定の性質を持たせたり、改良するのに利用されますが、現在開発されている遺伝子組み換え作物には、次のようなものがあります。アンチセンス法 → 特定の遺伝子の働きを止める遺伝子を入れて開発する作物。例えば、作物が柔らかくなるのは、柔らかくする酵素が作物の中で作られるためで、この酵素を生み出す遺伝子を取り去ってしまうと、柔らかくならず日もちのする作物ができます。トマトの「フレーバーセイバー」(世界で初めて認可された遺伝子組み換え作物)や、底アレルゲン稲などがこれに当たります。
今回、厚生省の食品衛生調査会が、食品としての安全性を確認したとして輸入が認められた作物は、次の4作物7種類です。
作物名 | 性 質 | 輸入申請社 |
ナタネ | 除草剤(ラウンドアップ) 耐性 | 日本モンサント社 |
ナタネ | 除草剤(バスタ)耐性 | アグレボ社 |
ナタネ | 除草剤(バスタ) 耐性雄性不稔 | アグレボ社 |
大豆 | 除草剤(ラウンドアップ) 耐性 | 日本モンサント社 |
ジャガイモ | 除草剤(ラウンドアップ) 耐性 | 日本モンサント社 |
トウモロコシ | 害虫抵抗性 | 日本モンサント社 |
トウモロコシ | 害虫抵抗性 | 日本チバガイギー社 |
ではなぜこうした遺伝子組み換え作物が造られるのでしょうか? 企業や研究者の掲げる利点は、先ず栽培の大幅な省力化です。殺虫剤などの農薬を撒く必要がなくなり、除草も耐性のある除草剤を撒けば、雑草だけ枯れて作物は枯れないのですから、大変な手間が省けるというのです。次に、肥沃な表面土壌の流失の防止です。特にアメリカの場合ですが、表土流失対策が義務づけられていて、その対策に20%以上が不耕起栽培をしています。不耕起栽培にすると、耕さないので表土流失は避けられますが、あらゆる雑草が生えて来ます。これを枯らすには、全ての雑草を枯らす除草剤が不可欠となりますが作物だけは枯らしたくない、このために遺伝子組み換えによる除草剤耐性作物が必要である、という訳です。又、大幅なコストダウンがはかれる、とも言っています。殺虫剤や除草剤などの農薬代、さらにこれらを散布するためのガソリン代や人件費などの経費が大幅に削減できて、生産物の収量も安定し、農家にも、ひいては消費者にも大きなメリットになるという考えです。さらに、除草剤や殺虫剤の使用量を減らすことができるため、環境保全のためにもよい、といった理屈です。
しかしここでよく考えてみますと、企業として、必ず利益(儲け)を得ているはずです。先のモンサント社では、1995年度の研究開発費だけで、6億5800万ドルという膨大な額となっています。この費用を回収しさらに利益を上げているはずですが、どのようにしているのでしょうか?
その方法の一つには、種子に特許使用料を上乗せした「技術使用料」を取ることです。除草剤耐性作物の場合には、その種子は除草剤とセットで販売されますので、「技術使用料」プラス「除草剤代」つまりセットで利益を上げることとなります。これで、メーカーの大きな収益は、確保されることとなります。利益を得るもう一つの方法は、収穫物の販売までも一手に手がける方法です。ある種子による生産物全てが特定企業にゆだねられるとすれば、その販売利益は押して図るべしです。このようなことは、可能なのでしょうか?企業は、遺伝子組み換え作物を栽培するときに、生産者との間に(農協などを通して)細かな契約書を交わします。ここには、未使用種子の変換や、収穫物を全量納めることなどが明記されているそうです。しかも現在商品化されている、あるいは商品化予定の遺伝子組み換え作物は、ジャガイモ、トーモロコシ、大豆、綿、ナタネ、小麦、トマトなど全て大面積栽培のものばかりです。大量の種を蒔き、大量の除草剤を撒く、これらは全て空からすることも可能です。生産費の大幅ダウンとともに、収益も大量に上がるという訳で、ここにも企業の経営秘密があり、どのようにしても儲かるようになっているようです。これに対し、アメリカの農家の中にも、連用による効果の消失を心配するとともに、特定企業に、種子を完全に支配されることへの危惧を示す人々や団体もあるそうです。世界の食糧が、ほんのわずかの企業に支配されるといった事態も考えられます。
さて、日本の大豆の自給率は2%、ナタネは1%以下。味噌、醤油、マヨネーズ、食用油などとなって遺伝子組み換え作物が、食卓に上ることとなりますが、食品として安全なのでしょうか?農薬や、除草剤を使用することが前提となっているこれらの作物は、安全なはずがありませんが、国の遺伝子組み換え作物の認可制度を見てみます。アメリカでの認可は、栽培に関しては農務省動植物検疫サービス(APHIS)が、食品に関しては食品医薬品局(FDA)が、そして環境保護局(EPA)が環境への影響に関して、それぞれに細かいガイドラインを作り規制し、安全性評価を行っています。ただし、商業化する場合の消費者への対策は、国より企業が行っているようです。モンサント社のPA(社会的受容)担当者は、一番影響力のある人や、消費者団体に理解を求めるそうで、「国によって違うが、日本では医者が最も影響力があるという調査結果が出ている。」と言っています。これはどのように受け取るべきでしょうか? 薬害問題を思い出させられます。日本では、食品に関しては、厚生省の「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に基づき、開発者(メーカー)の作成した細かいデータを、食品衛生調査会が検討し、安全を確認するという手法を取っています。(今回、企業が提出したデータは一カ月間だけ公開されただけです。)
企業側の基本姿勢は、「交配による品種改良の延長線上にある技術で、遺伝子の一部を換えても『大豆は大豆』。安全性は国の指針で科学的に確認され、問題はない。」としています。使う側の企業でも、(社)日本食油協会が、国が認めたものは利用する方針であるとし、日本豆腐協会も、国の方針に従う考えである事を表明しています。 これに対する各方面からの反応はどうでしょう?
先ず本場アメリカでは、エコノミック・トレンド財団と、ピュアフードキャンペーン等の消費者団体が中心になって、「遺伝子組み換え作物ボイコット世界キャンペーン」を展開中で、48カ国の300を越える組織が参加し、マクドナルドのフレンチフライポテトや、クエーカー・オーツのコーンミール等をボイコットの対象に挙げているようです。
日本でも、日本消費者連盟の食品問題の担当者は、新規のタンパク質が微量でも含まれる作物を長期間摂取した場合に未知の部分があるとして、人体への影響を心配しています。また、科学ジャーナリスト天笠啓祐氏は「除草剤耐性作物の場合、除草剤を分解する酵素が、その作物の全ての細胞で作られ、遺伝子組み換えがうまくいったかを見る抗生物質耐性遺伝子も、抗生物質を分解する酵素を全ての細胞で作りだしています。殺虫性農作物も、全ての細胞で殺虫性の成分(毒素)が作られています。これらの作物を食品とする時は、人間は想像以上に大量にこれらの酵素や毒素を摂取することになます。これは、これまで人類が経験したことのないことで、健康障害やアレルゲンとしての危険性が非常にたかい。」と指摘しています。さらに、「除草剤耐性作物は除草剤の使用量を減らすと宣伝されているが、除草剤に強い遺伝子が雑草に広がっていき、除草剤の使用量が増大し、抗生物質耐性と同様の広がりをもつ危険性がある。」と、環境への悪影響を危惧しています。(食品と暮らしの安全より)
日本有機農業の機関紙「土と健康」にも、「未知のアレルギーや新しい毒性を生み出したり、環境中に放たれて既存生物と交配し、『遺伝子汚染』となって生態系を脅かすおそれも考えられる。」としています。こう言ったさまざまな意見があり、強い不安が残る遺伝子組み換え作物が使われた食品を、私たちは判別、選択できるのでしょうか?
この遺伝子組み換え作物は輸入される際、遺伝子組み換え作物として日本に入っては来ません。単なるジャガイモ、普通の大豆と同じように輸入されます。現在その表示義務がないのです。つまり私たちは、判別し選択することは現行ではできないのです。日本の厚生省では「安全を確認したものに対して、表示を義務づける考えはない。」として表示を拒否しています。しかし、ある調査によると、食品として不安があるとして、8割以上の消費者が表示することをを望んでいます。日本消費者連盟でも消費者の選択の権利確保するためにも、表示を義務づけるべきだと要望しています。昨年の暮れ、朝日新聞の社説でもこの表示問題を取り上げ、その中で、「食品添加物は安全性が確認されたうえで、すべて表示が義務づけられいている。消費者に商品を選択する道を明けておくのは当然である。」、又「安全であり、従来の方法で栽培した農作物と成分も違わないというなら、表示して問題ないはずだ。表示をしぶること自体、何か後ろめたさがあるのではないかと疑わせることにもなりかねない。」と書かれています。海外では、遺伝子組み換え食品を使わないと表明したメーカーや、小売店のリストを公表し、こうした事業者を増やす運動が広がっているそうです。この表示問題は、どのように見ても、「表示するのが当然」と結論せざるを得ないでしょう。それでは、遺伝子組み換え作物は必要なのでしょうか?
世界の食糧問題や、先に挙げた企業側の理由によれば必要なものかも知れません。では、遺伝子組み換え技術でなければ解決できないのでしょうか? 通常の交雑育種によって、除草剤耐性のトーモロコシの育種に成功しているメーカーもあるそうです。しかし、これも農薬や化学肥料を大量に使用することを前提とした話です。表土流失に関しても、なぜそのような事態になったかの議論がありません。これは、大量の化学肥料、大量の農薬による地力の低下が原因と思われます。省力化、コストダウンにしても農薬散布の省力化やコストの話です。環境保全に至っては、使わない方がよいに決まっています。
遺伝子組み換え技術は対処療法的な一つの解決方法に過ぎません。しかもこの技術には、どうしても「経済性優先」が宿命づけられています。農業、食糧問題に関しては経済性よりも何よりも、安全性が最優先とされねばならないはずです。また、私達が生存を許されている唯一の環境、地球に配慮した方法でなければならないはずです。特に安全性に関しては、注意し過ぎるということはありません。環境保全に関しても、日本の農業政策はその予算ひとつを見ても、現行の農業が環境破壊の担い手であるという意識が薄いと言わざるを得ません。国も企業もこのような視点から、もう一度別の方法を検討する必要があるはずです。いま、世界の各地に於いて化学肥料や農薬を全く使用せず、生態系の循環にのっとった農法有機農法が実践され、安全面でも環境保全面でも成果を上げています。国は、この事実を再認識し、農業技術の全面的な転換をして、国家規模でこの農法を是非とも推進して欲しいものです。
科学技術の進展は人類の歩みと共に進みますが、自己研鑽のない技術、常に検証し続けることのない技術は、暴走と言わざるを得ません。夢の物質と云われたフロンの例もあります。私たちは、便利さゆえに検証を忘れがちですが人類の平安な存続のために、科学も政治も経済も含め、もう一度謙虚にこの社会を、この文明を検証し直さなければならないのではないでしょうか。