正しい生活というのは、例えば生活を食べ物ということで考えてみますと、医学では、何カロリー要るから、何カロリー食べなくてはいけないといいます。けれど、ここに一つのオートバイのエンジンがあるとして、これを人間とします。ガソリンが要ります。このガソリンが寿命であり抵抗力である訳です。人によってはものすごく沢山のガソリン持っている人もいれば、あまり沢山持っていない人もいます。普通は大体、六〇から八〇歳位まで、生きられるガソリンを持っております。生活(食べ物)というのはオイルだと思うのです。オイルを入れませんと、ガソリンがなくならなくてもエンジンが駄目になります。オイルが切れるということは、食べ方が足らない、所謂欠乏で、アフリカの子供達にも欠乏した子が大勢います。 もう一つは食べ方のバランスが悪い。例えば皆さんもよく御存知のようにビタミンが欠乏するとか、タンパク質が欠乏するとかいうことです。こういうことが起こりますと、オイルが切れて来るわけですから、エンジンがうまく回りません。このように、エンジンがうまく回らなくなって来たのが病気で、ついに止まってしまったら死んでしまう訳です。これがオイルの欠乏ということです。
この欠乏が悪いということは明治以来、皆さんよくご存じで「栄養、栄養」といいます。ところが、成程オイルは入れるのですが、中に大きな石が入っていたらどうなるでしょう。エンジンはすぐに止まってしまいます。これが急性の中毒なのです。例えばホリドールを撒いていて死んでしまったといったことです。オイルの中に細かい砂が混じっていたら、急には止まらないけれども早くエンジンはだめになります。これが農薬や食品添加物といった、人間が作った合成化学薬品が食べ物に混ざったり、或いは水から入って来たり、空気から入って来たりするために起こってくる故障です。このことは最近になって盛んに言われ出しましたが、私達は三十四、五年前から云っていたことで、慈光会の運動もここから起こったのです。
このように「欠乏」と「毒物」、この二つを注意して下さい。ここで、「欠乏」は案外皆さん気が付くのですが、「毒物」に関して申しますと、この頃ではあらゆる食べ物の中に添加物が含まれています。およそ三五〇種類位許可されています。農薬でも、以前に五〇〇〇種類あると云いましたが今はもっと多く、何千種類もあるでしょう。けれども、実際に使うのは一〇〇種類位だと思います。このような形で毒物が入って来る訳ですが、一つ一つの毒物については許容量があっても、沢山入って来た時の複合汚染になってきますと、検査も出来ないし、又その作用も分からないのです。
このように、現在色々な困った問題が起こっていて、このようなことに気を付けなければいけないのですが、医学では全然気が付いていないのです。のみならず、やたらに薬を使って、かえって毒物を入れていると云うこともある訳です。私も薬のお世話になることが多く、決して薬を使うなとは言いませんが、乱用してはいけないという事だけは、よく覚えておかなくてはいけません。結局、欠乏と毒物を避ければいいのです。この様な意味で慈光会の仕事を始めさせて頂きました。最初の頃は、残留農薬がいけないとか添加物が悪いとか工場廃水で水が汚れるからだめだと言いましたら気違い扱いされました。けれどもそのうちに認めてもらえるようになりました。ここまでは結構なのですが、皆が認めて、「純正な物が欲しい、自然栽培のものが欲しい」と言い出しますと、今度はこれを利用して、インチキやウソを言ってお金儲けをすることが大はやりになりました。市場の物を買って来て無農薬だと言って高い値で売り回ったり、ひどいもので、ここまで人間も落ちぶれたものかと呆れることが多いのです。くれぐれもご注意下さい。この頃はお菓子でも、無添加等と色々な事が書いてあります。これが嘘か本当か一般の人には分かりません。無農薬と書かれたレッテルが一枚一円五〇銭で売っているそうで、それを貼って出せばもう分かりません。これは本当に困ったことです。五條の方は出来るだけ慈光会をご利用下されば結構なのですが…。慈光会としましても何とかしなければと思って、一生懸命努力して来ているのですが、このような状況の中で苦労しております。
また純正品は少し高くつきます。これは大変残念なことです。一つには、余計な毒物が入っていないという事と、上等なものということを混同しているためです。と言いますのは、こういった純正なものを欲しいという人は、割にインテリで金持ちの人が多いのです。そういう人に売り込める高い製品を作ると儲かる、と言うような気風が純正食品メーカーにも出て参りました。慈光会は出来るだけ安くするよう努力し、あまりぜいたくな物は売らないようにする等していますが、それでも少し高い物は、格好が似ていて名前も同じであっても、中身は全く違うのですからご辛抱下さい。(以下、次号に続く)
先般日本消費者連盟提唱の「遺伝子組み換え食品反対」の署名を会員の皆様にお願いしましたところ、短期間だったにも拘わらず、沢山の署名が集まりました。遠方の会員の方で連盟の方へ直送して下さった方もおられました。ご協力ありがとうございました。
慈光会さんの入り口を入りますと、いつもいい香りが漂っています。それはその日にお出し下さったお野菜類が放つ滋味溢れる香りなのです。
梁瀬先生は、信じ頼れるものの一つとして慈光会さんを残して行って下さいました。 現代進歩を遂げているかに見えるこの世の中、その結果として感動を受けるような事象がどれほどあるでしょうか。心ある人の三人も寄れば、言いたくもない嘆きや怒りや憂いで時間が費やされてしまいます。そしてその後味の悪さと言ったら、皆さんにも覚えがおありかと思います。
先生は仏教を御身に具され、お医者様として、また、農業を実践なさり、その上で世の人々が心身ともに健康保持出来得るようにと「慈光会」を設立して下さいました。「慈光会」が小さいながらもよい見本となって、国中、世界中に広がることを願ってのご決心でした。この恩恵に易々と浴させて頂けます私たちはこの事をいつも心に持って正しく歩まねばなりません。大きな叫びも大切ですが、微力な者の数多くの集まりが真実を全うできるものと確信しています。ただいい物を頂戴するだけに止まらず、人の世の大切な事柄、正しい考え、慈愛の心を忘れてはならないと存じます。
この間ある方がしみじみと申されました。「この今の世の中、いくらいいことでもなかなか実行、継続は困難と聞いています。それにつけても、先生がこうして慈光会さんをお造り下さった事というのは、大変なことだったのですね。」
《慈光会会員の岡田さんの投稿を頂いて、梁瀬先生の慈光会設立当時のご苦心に思い馳せると共に、職員一同、益々心を引き締めて、先生の残されたものを受け継ぎ守って行かなければならないと決意を新たに致しました。》
これは新聞記事の見出しです。
この文は、テーマに選んだ新聞記事を軸に、書籍からの引用文を配して組み立てました。引用ヶ所の文頭には書名(略記)・頁を付記しました。形は次のようになります。
「おやおや!本当か」驚いて私は声を上げそうになりました。これは朝日新聞に載った(九六年一一月二四日付)「がんを疑う」というシリーズの書き出しですが、何しろがんセンターの所長さんのおっしゃる言葉ですから「何言ってるんだこの人は」と一言で片付ける訳にもまいりません。ますます記事の中身が気になります。
(記事)【現在世界で疫学の第一人者といわれるのは英オックスフォード大のリチャード・ドール名誉教授と、弟子のリチャード・ピート教授という方だそうですが、八一年に出した報告書によると、がん死亡増加の最大の要因はたばこであるとし、米がん協会の調査をもとに調べた吸う人と吸わない人の死亡率を比べると、米国のがん死亡のほぼ三〇%がたばこが原因で、もっと大きな影響を及ぼしていそうなものは日常の食事、例えば脂肪や肉をたくさんとっていると大腸と直腸のがんが多い】
肉や動物性脂肪を多量に摂取するとがんに罹りやすいということは今では一般の常識です。「健康と食生活」をテーマにした記事やテレビ番組で、食品の栄養成分についての細かい解説、例えば、パセリ・からし菜・ブロッコリー・かぼちゃ・人参のような緑黄色野菜は、ビタミンA・C・カルシウム・食物繊維が豊富だし、又その食物繊維を多量に含む大豆・さつまいも・ごぼう・ひじき・きのこ類などは糖尿・胆石・高血圧・腸がんなどの予防に有効だと云います。テレビではこのような時の解説の中心になるのは大方医大の先生か、栄養学の専門家です。当然信用度も高いし説得力もあります。
しかし話が終わった後、農薬のかかった野菜だったら?、添加物たっぷりの加工食品だったとしたら?と云う不安と疑問が頭をもたげます。解説の先生方はそこのところは全く素通りです。ほんとにこれでいいのでしょうか。こんな心配をしている私なんかは「…つくづく世間では添加物が理解されてない」と、がんセンター所長さんを嘆かせる一人なのでしょうか。それはそれとして記事を続けます。
(記事)【ドール教授たちは、こうしたデータを突き合わせて、がん死の三五%は食事によると推定した。ただし食事内容についてきちんと調べるのは難しく、推定にはかなりの誤差が伴うが、食事の影響は一〇%から七〇%までの範囲におさまる。報告書は、食品添加物の影響は、一%未満推定し、誤差を考えてマイナス五%からプラス二%の間という。マイナスはがん死亡を減らしていることを意味する。また、保存料で腐敗をくい止めることなどをさす。日本のデータをもとにこうした推定をした研究はないが、傾向としてはほとんど同じだと疫学者たちは見る。】
食品添加物の影響についての説明は少々分かりにくいのですが、疫学者たちが言わんとしているのは、がん死亡の原因は食事によるものが非常に多く、世間で喧しく云われている添加物の被害は取るに足らないほどのものである、ということなのでしょう。もちろん脂肪や塩分の摂りすぎは健康維持の大きな障害であることはよく理解しています。でも疫学者たちが食品添加物についての世間の無理解を嘆くほどにノーテンキであっていいとはどうしても納得できません。さらに記事を追ってみましょう。
(記事)【食品添加物として発癌物質が使われていたことがかつてはあった。六五年に添加物に指定されたAF2は、魚肉ソーセージやかまぼこ、豆腐の殺菌用として使われた。ところが、七三年に培養細胞の染色体異常を引き起こすとの研究が発表され、使用禁止を求める消費者運動が広がった。厚生省は七四年に指定を取り消した。】
「高度成長期は大量生産のために、食品添加物や農薬が見境なく使われた時期だった」と記事は事もなげにこう書いていますが、これは本当に大変なことでした。見境も無くとは何という無謀な行為でしょうか。余りにも大きな犠牲者が出ました。森永砒素ミルク事件、イタイイタイ病、水俣病、そして、梁瀬先生が告発したホリドール農薬事件などなど、何れも高度経済成長を至上とする政府の人命無視の政策が生んだ結果の悲劇に他なりません。現在のエイズ薬害また然りです。それでは、添加物、農薬はどのように見境なく使われたのか、当時の状況を克明に記録し、近代農業に警鐘を鳴らした[生命の医と生命の農を求めて](梁瀬義亮先生著)又七四年一〇月から朝日新聞に連載、社会に大きな反響を呼んだ[複合汚染](有吉佐和子氏著)を中心に読み返し、振り返りながら話を進めます。
私が食品公害への関心を持つきっかけとなった「複合汚染」のプロローグに登場するのが問題のAF2です。その中に著者が「妙」な現象として指摘したAF2にまつわる話があります。先ずはその一部です…
(複合)…六七頁 〈この原稿を書いている時点(七四年)では、AF2は全面使用禁止になっているのだが、今後に備えてAF2の前後の歴史を少し詳しく振り返って見たい。AF2は日本だけで使われている殺菌料である。上野製薬という会社が開発し、昭和四〇年から厚生省が認可して、各食品メーカーが一斉に使用するようになった。ではAF2の前は何を使っていたかというと、「Zフラン」という殺菌料で、これを開発したのも同じ上野製薬であった。使用許可になったのは、昭和二九年、パテントが切れるのが昭和四一年。そしてZフランは理由不明で昭和四一年に使用禁止になっている。注目すべきはこの点だ。厚生省がZフランを使用禁止処分に付した昭和四〇年に、同じ製薬会社にAF2の認可が下りている。これは偶然の一致だろうか。
Zフランの前に何があったか。戦後この会社はニトロフラゾンという殺菌料のパテントをアメリカから買って製造販売をしていた。ニトロフラゾンは薬としては昭和二六年に皮膚の色素が抜ける等の理由から目薬や化粧品に使用することを厚生省が禁止した薬品であった。食品衛生法ではあまり問題にされることもなく、パテントが切れる前にZフランが開発され、慢性毒性についてのテストも行われたかどうか、ともかく厚生省を通過してしまっていた。多くの業者は一斉にZフランを使い出した。“ニトロフラゾン⇒Zフラン⇒AF2”この変遷を辿って、いくつかの妙な点があるのに気が付く。それはいつも一つが駄目になる頃には、別の化学製品が用意されていたことである。これを単純に開発する技術と毒性を検出する化学のシーソーゲームだと云ってしまっていいものかどうか。 AF2を認可した時点では、その毒性を指摘するほど科学が進歩していなかったというのが厚生省の言い分だが、それではこうした化学合成品が認可される前に厚生省はいったいどういう方法で毒性がないという判断を下してきたのだろう。〉
そして
(複合)六八頁 〈医者や生物学の専門家たちが、AF2の強い毒性を指摘したとき、その安全性が一〇〇パーセント立証できるまでは使用停止にするのが、厚生省の本来あるべき行政指導というものではなかっただろうか。疑わしきは罰せずというのは人間に対する法律であって、食品に関しては疑わしきはただちにストップをかけるべきではないか。 肝臓障害を引き起こすという警告に引き続いて、AF2は突然変異を誘起するという報告が、国立遺伝研究所から出されても、厚生省では「微生物や昆虫の実験が、そのまま人間に当てはめられるとは考えられない」という見解を発表していた。〉今、エイズ薬害の責任追及は司法の手に移っています。しかしはしなくも暴露された産・官・学の癒着の構図は、有吉さんが上野製薬の製品の認可存廃についてのタイミングのよさに向けられた不審の眼の中に明らかに読み取ることができます。