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老後への私案
梁瀬 義亮
昭和六三年六月二三日(一九八八年)
(於 五條市公民館 高齢者を対象にした講演会)
それから、大事なのは、呼吸と姿勢です。血圧の高い方は特に、深呼吸をすることが非常に良いので度々して下さい。又、年を取ってから肺を使わないでいると、肺がゆるんできます。肺がゆるんで来ると、老人性気管支炎(私もその一人なのですが)、そしてひどくなると気管支拡張になります。気管が膨れてくると、咳持ち痰持ちになり難儀します。運動をよくするのも、呼吸を大きくして肺を使うことになります。深呼吸することは大変大事です。
それから、姿勢が大事です。ともかく背骨を伸ばす稽古をして下さい。といって無理にすると背骨を痛めますから、徐々に伸ばして下さい。かつて私が若い時分の話ですが、「長生きの方法、秘訣を教えてあげよう」と言った人がありました。どんな秘訣を教えてくれるかと思っていると、「毎日庭に出て自然体に立って手を上げながらいっぱい息を吸い、そしてすーっと息を吐きながら手を落とす。これを朝晩十回ずつしなさい。そしたらわしのように長生き出来る」と。その時はなんだかばかみたいな話だなと思いながら聞いていたのですが、やはり背骨を伸ばすということと呼吸を大きくするということは、とても良いことです。それから、堅い床の上に寝て、少し足を広げて、全身の力を抜いていても背骨は伸びます。背骨を伸ばすということと、腹式の呼吸を大きくするということ、これを忘れないようにしていただいたら結構かと思います。生活の主な注意としては以上です。
もう一つ注意しなければいけないことは毒物の注意です。「毒物に関する注意」これは、皆様案外御存じないのです。現在の世の中は機械が出来て便利になりました。けれども、それに伴い毒物が多くなりました。いろいろな機械が出来るのは結構なのですが、しかし、これらが出来る過程で、色々な毒物を使ったり、毒物が出来て来たりする訳です。又、この毒物の種類が非常に多いのです。
まず、ご存じのように農薬の問題があります。これは、農薬を直接使わない皆様にも、農作物と一緒に少しずつ入って来る訳です。これには充分気をつけなければいけません。
次に、どんな食べ物でも、色付けしたり防腐剤を入れたりする等、色々な食品添加物が加えてある訳です。何でもしてあることには驚くばかりです。この食品添加物に関しては日本は非常にルーズな国でして、政府がごく最近迄に、三四七種類の添加物を許可して来たのです。そして堂々と使っていたのです。こんな国は世界でも大変少ないのです。最近は、更に食品の輸入を増やすため添加物の規制をゆるくしてその種類を増やしております。世界中が段々このような傾向になってきております。何よりも経済第一という訳で、このようなことをやっておりますが、これは、微量ながらも始終体に添加物が入っている訳です。
その他に医薬品があります。医薬品は薬と言いますけれど、これは全部化学薬品です。病気に効果はあるけれども、多かれ少なかれ人間の体にとっては異物です。いいものではないのです。その効果と害とを天秤にかけて、効果の多いのを薬と言っている訳ですから、乱用してはいけません。あくまで消防車は消防車であって、平生の火の用心を大事にして、やむを得ないときだけ使うようにしなければいけません。平素、火の用心を大事にせずに消防車ばかり頼っていたのでは、家が壊れてしまいます。同じように、平生の生活を大事にしないで薬ばかり飲んでいると、今度は薬にやられてしまいます。例えば年をとられると血圧が上がって来ますが、血圧が上がるから、血圧が下がる薬を飲む。これは当たり前のことと思われますが、ところがそうではないのです。血圧を下げる薬というのは化学薬品です。体にとっては異物ですから、体はこれに対して抵抗する訳です。血圧を上げよう上げようとします。ですから薬をやめると、ぐーんと血圧が上がってしまいます。非常に血圧の高いときにはやむを得ず薬で下げますけれども、後は、生活によく気をつけて、薬を止めても上がらないような体を作ることが大事で、薬はその間の時間を持たすために使うべきです。一生、血圧の薬を飲んでいると、今度は薬の害が出てきたり、薬が効かなくなってきたりします。こういうことを知っておいて、薬にも良く気をつけてください。
農薬に関してもう一言ご注意申し上げますと、季節外れのものは危険です。そんな危険な農薬を残念なことに悪いと分かっていながら使用が許可されているのです。季節外れのものは食べないようにして下さい。季節のものでも、夏は、なすとか、或いはキャベツやレタス、白菜といった白い野菜は高冷地で作っていて、非常にたくさんの農薬を使いますので気を付けていただきたい。芋、豆、菜っ葉と言えば、農薬に関しても割合にいいものです。それから、これは大変悲しい話ですけれども、今は果物の農薬汚染がものすごくきついので、赤ちゃんに果汁を飲ませたりするのは大変危険です。果物の汚染は驚くばかりです。よくよく気を付けて下さい。果物は食べなくても、芋、豆、菜っ葉を摂っていれば栄養上は差し支えありません。出来るだけ農薬のかかっていないものを食べる。又、農薬のかかった普通のものを食べるとしても、皮を剥いて食べる。そして、あんまり沢山食べない。このようなことに注意していけば大丈夫です。それから、外国から来るものも怖いものですから気を付けなくてはいけません。特に南方から来ますバナナとかパパイヤとかいったものは何をしてあるか分かりません。南方では農薬に対する規制がないので、いくら使っても良いのです。ですから、日本からも国内では使ってはいけないという恐ろしい農薬を南方の国々へ商社が持って行くのです。そしてそういった農薬で汚染された農産物を輸入しているのです。これを農薬のブーメラン現象と申します。何の為の農薬に対する規制か分からなくなってしまっているのです。この日本だけでなく西ドイツでもアメリカでもこういうことが大きな問題になっています。農薬の害はすぐには出ませんが、平生から頭が重いとか、肩が凝るとかいった変なことから出て来ます。
このように毒物は非常に多いのです。しかも、この毒物に関する害は、今日食べて明日すぐ病気になるとか、一週間先に下痢するとかすれば皆分かるのですが、大体十年から二十年経たないと出て来ないのです。しかもその害は中毒として出て来ずに、ガンであるとかリューマチであるとか、色々な慢性病として出て来ます。ですから平生からよく気をつけなくてはいけません。子供さん方には特に気を付けてあげて下さい。少し気を付けると大丈夫です。少々のものは、体が処理してくれますし、又、良く運動しておると毒素の排出が良いのです。運動するということは、公害を免れる一つの良い方法なのです。しかし、運動するといっても決して無理はしないで下さい。あまり無理をするとしくじります。このようなことをお心得下さい。
(以下、次号に続く)
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近刊案内
梁瀬先生の著書「生命の医と生命の農を求めて」の復刻版が一月末に、地湧社から刊行される運びとなりました。先生御自身の手による補稿も載せさせて頂いています。是非、御一読下さい。
定価2100円 (本体2000円)
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そよ風に乗って走る電車
さだめし、こんなふうに表現できる電車がスウェーデンに登場しました。風力発電された電気を一〇〇%動力として走る電車です。そんな電車が広々とした野原を走る光景を思い浮かべますと、実にさわやかな清々しい気分になりませんか?
スウェーデンでは、電力マーケットの自由化が進み、消費者が自分の消費する電力を「風力、水力、火力、原子力」の中から、自由に選ぶことができるようになっています。
風力は現在のところ、火力より料金が割高になっていますが、その電力を買う消費者は確実に増えつつあり、その結果、原子力や火力のように環境を汚す電力は、だんだん売れなくなって来ているそうです。電力会社としては、消費者のニーズに合った発電形式を選んで行くことが余儀なくされますので、消費者の意向がそのまま反映されるわけです。
国民投票で、「国内の原発を2010年までに総て閉鎖する」と決定したスウェーデンでは、消費者も電力会社も社会のシステムも、一つの価値観に基づいて動いている、といえそうです。地球環境や未来の子供達の幸せを守ることを優先する、という価値観でしょうか。そのためにはたとえ今は割高でも風力発電を買い支えよう、という姿勢が、消費者の意識の中にしっかりと根付いているのでしょう。
日本でも、そんなふうに、そよ風に乗って走る電車が動き出す日の来るのが待たれます。
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煙草を吸う人も実は被害者です
最近では「嫌煙権」というものが、大きく注目されるようになってきました。飛行機や新幹線、特急列車など座席指定のある乗り物には禁煙席が設けられていますし、病院なども禁煙の所が増えてきました。又、「食事の本当の味が分からなくり、他のお客様の迷惑になるから」という理由で「たばこNO」と宣言するレストランも数年前に比べると八倍も増えているそうです。
禁煙にしないまでも「分煙」にし、喫煙所コーナーを設けて、その場所以外では喫煙できないという所も多くなりました。それだけ、煙草の害への認識が世間の人々に浸透して来たとも言えますが、それでも、時として煙草を吸っている人のそばにいなければならないこともあり、非喫煙者の人、特に妊産婦や呼吸器に持病のある人にとっては本当に深刻な問題となっています。
他人の煙草の煙をいやおうなしに吸わされる事を「受動喫煙」又は「強制喫煙」と言いますが、その害は「肺ガン」「心臓病」「動脈硬化」「喘息」などとして現れる可能性があるといわれています。このため喫煙者は、非喫煙者から「加害者」として白い目で見られるケースが多いようです。しかし、「本当は喫煙者自身も被害者である」ということに気づいている人は、まだあまり多くありません。煙草は自分の意志で吸ったり、止めたりすると多くの人が信じていますが、そうではなく、実は喫煙者は医学的に見ると「ニコチン中毒の被害者」なのです。
「煙草に含まれるニコチンは、ヘロインやコカインと同様の薬理学的、行動学的なプロセスで、たばこ依存症を引き起こす」(1988年:米公衆衛生長官報告書)ということは、医学的には既に常識になっているそうです。ですから、「煙草を止めたくても止められない人は意志が弱い」、とは一概に言えないのです。止めるには、医師から適切な処方を受けることが、今日では、重要な方法となってきています。「禁煙外来」を設置し、患者(喫煙者)の禁煙指導を専門的に行う病院は、現在、全国で一〇〇ヶ所にのぼっています。
一方で、日本では煙草のPR取り締まりに甘い、という声をよく耳にします。諸外国では若者達が喫煙習慣をもたないように、煙草税を高くしたり、たばこ自動販売機やテレビ広告を禁止したりしています。又、喫煙の恐ろしさについて正確な情報を提供するために、詳細な警告文を煙草の箱に表示することを義務づけています。例えば、オーストラリアの煙草の箱に書かれている文は次のようなものです。
《喫煙は人を殺す。》
《肺ガンをおこす。》
《心臓病の原因になる。》
《あなたの赤ちゃんに悪影響を及ぼす。》
《あなたの喫煙は他人に迷惑をかける。》
《喫煙は中毒をおこす。》
又、煙草は健康に害があるのみではなく、経済的にも大きなマイナス面があることが明らかにされました。
「医療経済研究機構」の調査によれば、煙草が引き起こす様々な疾患に必要とされる医療費を計算すると、年間で一兆二千二百四十三億円になり、国民の全医療費の五%を占める、とのことです。去年の六月には、アメリカでたばこ会社が訴えられ、州政府に巨額の医療費を支払って和解した、という判例もでました。又、喫煙が原因で必要とされる医療費に、「煙草の火の不始末」(火事の原因の第一位)による火災で失われた財産を足すと、年で三兆九千七十億円の損失になるのだそうです。
一方でこのような実験もありました。喫煙者に、煙草を吸い続けた場合の平均余命と、煙草を止めた場合の平均余命を提示したところ、禁煙する人が俄然増えた、というものです。命の危機を目前に突き付けられると、初めて人は危機意識を持ち、行動を起こすものなのかもしれません。この例を見ても、煙草の害について正確な情報を得ることは、大変大事なことであると言えるでしょう。
梁瀬先生は「良いものを摂取することは、大変大切ですが、悪いものを体に入れないということの方が、もっと大切です。」とおっしゃっていました。そして、「お酒やタバコ、これは最近添加物が多い上に、それ以外の公害物質との相加作用、相乗作用を起こしますので沢山おあがりにならないようにした方がよろしいです。出来るだけ禁酒・禁煙にすることが大切です。」と勧めて下さいました。
「愛煙家の人は、実はニコチン中毒の被害者であった」という新たな視点に立って、一層、禁煙や減煙をお勧めしたいと思います。
奈良県内の「禁煙外来」の一部に下記のところがあります。詳しくは直接お問い合わせ下さい。分かりやすいパンフレットも、用意されています。
六三五 奈良県大和高田市磯野北町1−1
大和高田市立病院 内科 禁煙外来
0745-53-2901/FAX 0745-53-2908
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