梁瀬 義亮
しばしば私達はよい動機で事をはじめ乍ら、それをやっている中に原点たる「よい動機」を忘れてし
まって枝葉末節に夢中になり挙句のはては思わぬ不幸や不祥事を招くことが極めて多いのです。農の
原点は人間の健康に役立つ健康な食物をつくることです。然るにその原点が忘れられて量を多くとる
とか、或いは農家や肥料会社や農薬会社の経済のためとか、或いは市場の便利の為とか原点を忘れた
農政の為に民族が心身共に狂ってしまう様な悲劇が起っています。医の原点は「病める人間」を救う
ことです。然るにいつの間にか人間を忘れてしまって病気の科学的追求のみに汲々とするようになり
現在いろいろ問題になる医原病とか「患者不在の医学」とかが起って来ます。医の原点を忘れた為で
す。教育も然りです。人間生存の原点は「自然に生かされる」而も「自然生態系の中で生かされ、生
かし又生かされる」ということであり「天行は健也」と云われる如く、自然の法則に従えば必ず健康
に天寿一ぱい生きさせて貰える、ということです。その原点を忘れて「自然を征服する」とか「人間
が中心であって、人間は他の動植物に、又は自然に何をしてもよい」とか、一七世紀頃からの原点を
忘れた近代発想が現在の人間滅亡の危機を招来したのです。私達は今健康と云う問題について、様々
の運動をしていますが常にその原点を忘れないように気を付けましょう。つきつめた様な顔をして健
康健康と叫びながら「健康のためなら命も要らぬ」ようなことをしでかす人も居ます。これ等は健康
の原点を見失っているためと思われます。
「天行は健也」健康は本来与えられているのです。ゆったりした気分で、出来るだけ現在の不自然或
いは反自然のことをさけるように気をつけるが、しかしそれ以上は悠々とうけてゆくという余裕ある
心の持ち様が、他のいろいろのことと共に大切と思われます。
(レイチェル・カーソン著)
慈光会会員 井西 治
(この文章の形式 『 』 のマーク 本文引用箇所 )
『みんな、催眠術にかけられているのか。よくないもの、有害なもの、仕方ないと受け入れてしまう。よいものを要求する意志も、目も失ってしまったのか。生態学者ポール・シェパードの言葉をかりれば、《あと何インチかで、環境の破滅という海におぼれてしまうのに、やつと何とか頭だけ水の上に出してその場をしのぐ生活がいいのだ。なぜまた、すこしずつわれわれをむしばんでゆく毒をあてがわれて黙っていなければならないのか。ぬるま湯の環境のなかのわが家、われわれの敵でもない、味方でもないような知り合いのサークル、もう少しで気がくるいそうなエンジンの音を我慢しなければならないのか。いまにも破滅しそうで滅びない世界に住みたいなどと思う人がいるだろうか》』(引用 )
これは、一九六〇年頃のアメリカでの話です。それから四〇年たった現在はどうでしょうか。先日われわれも「遺伝子組み替え食品」に対する反対運動に協力の署名をしました。現段階では十分に安全であるかどうかが分からないから止めてほしい、又すでに市場に出回っているものもあるから、そのような商品には「組み替え表示」をして欲しいという要求です。ところが厚生省は「安全と判断したものに対しては表示は必要ない」という一方的な態度を固執しています。しかし、その安全とされている組み替え作物の中には、除草剤を散布しても枯れない植物や、細胞の中に殺虫毒素を作ることによって、葉・茎・実をたべたガやチョウの幼虫を死なせて害虫の被害を防ぐという植物もあるそうです。厚生省はどうしてこういうものを、人間が食べても安全だなどと断定し、「せめて表示」をという市民のささやかなな要求さえ無視するのでしょうか。エイズ問題も水俣事件も厚生省はいつもこのような姿勢で市民に対してきました。だから厚生省の安全宣言などは全く信用できません。現状は四〇年前と全く同じです。いや、むしろカーソン女史の憂慮を遥かに上回る勢いで破壊と汚染は進行しています。
『だが、まさにそのような世界が、私たちの頭上にのしかかっている。化学薬品で消毒した虫のいない世界をうち立てるのだという専門家、また防除業者と呼ばれる人々は十字軍を起こしかねまじき狂気の勢いである。かれらが、どんなに残酷な暴力行為につっぱしるかは、いたるところで例証されている。《防除に熱心な昆虫学者は、検事、裁判官、陪審員、税査定人、税徴収官、保安官の役を一身に集め、自分たちの考えを力ずくで押し通している》とは昆虫学者ニーリー・ターナーの言葉である。この上ない悪が、国家、ならびに州関係の機関で野放しに行われている』(引用 )
カーソン女史の怒りの声に体が震える思いです。その同じ頃(一九五〇年代)の日本でも、熊本県水俣湾では、海の魚や貝を食べた猫が脳を犯されて狂いまわり、ついには海に飛び込んで死ぬという奇病の発生や、また魚を啄んだ鳥が方向感覚を狂わされ、群れをなして岩に激突したり、海に突っ込んで行くという信じられない異変が起こっていました。いわゆる有機水銀禍による水俣病です。初めは奇病といわれていましたが、熊本医大の研究者たちはその原因を企業の垂れ流す水銀であることを突き止めました。しかしその水銀説を攻撃し、もみ消しを謀ったのは、企業と政府(通産・厚生省)と結託した東大医学部教授たちの権力組織だったといわれています。アメリカの場合、カーソン女史の告発に対する攻撃を救ったのは、時の大統領ケネディであったと書かれています。しかし日本では違いました。政府は加害者の側に加担し、解決への道筋を大きく遅らせてしまいました。やがてそれは、数年後の新潟阿賀野川に起こった第二水俣病の悲劇へとつながっていきます。
『人類の歴史がはじまって以来、いままでだれでも経験しなかった宿命を、私たちは背負わされている。いまや、人間という人間は、母の胎内に宿ったときから年老いて死ぬまで、恐ろしい化学薬品の呪縛のもとにある。だが、考えてみれば、化学薬品が使われだしてから、まだ二○年にもならない。それなのに、合成殺虫剤は、生物界、無生物界をとわず、いたるところに進出し、いまでは化学薬品によごれていないもの、汚れていないところなど、ほとんどない。』(引用 )
私たち家族は、まだ子どもたちが小さい頃、ある時期瀬戸内海に面した阪神間に住んでいました。夏は子どもたちと一緒に緑の松林を通ってよくこの海へ泳ぎにいきました。白い砂浜は遠浅で、波と戯れる子どもたちにとってはこの上ない遊び場でした。ところがいつの頃からか、その浜辺の白砂が少しずつ浸蝕されて、打ち寄せる波に油のようなギラギラしたゴミの浮遊物が漂いはじめました。いよいよ高度成長時代の幕開けです。瀬戸内海の臨界部には、石油化学コンビナートを中心に、各種の巨大な工場群が建設されはじめました。その頃を境に白砂の海辺はもう泳げる海ではないことは誰の目にもハッキリ分かるようになりました。海岸近くに住む人たちは眼前の海を横目で見ながら、遠く日本海へ泳ぎに行かなければならなくなってしまいました。汚染された瀬戸内の明石の鯛や穴子、広島の蠣など、かつては海の幸と呼んだすべては、毒に変身してしまったのです。
本当に悲しいことです。 (以下、次号に続く)
妹山吉野町河原屋にて
花野 五壌
上市町の美吉野橋あたりから吉野川の上流の方を見ると川の両側にこんもりとした山が相対して坐っているのが見える。妹山背山である。
左が妹山で右が背山と。歴史的な由来はさて置いて、両方が何かを語り合っている様な目に見えない両方からの引力が働いている。人間関係でいえば縁というものか。
然し近づいてみると、背山の方は後に長く峯が続いて普通の山になるが妹山の方は全く独立した筍の様な形である。津風呂湖口と表示のある道を山裾をまわって見ると、正に原始林というだけあって、もりもりと茂る木々が野性的な塊となってうず高く盛り上がり、迫力をただよわせている。何かにつかれた様に、暑さも忘れて仏国寺の石段を登って山を見ると、野生の動物がうずくまっているようで、荒い息遣いが聞こえそうである。
山が生きている、これが生きた本当の山であろう。日常そこらで見る山は山のイミテーションなのか。山もやはり、現在イミテーション時代の一つであったのか。
先日お墓参りに行った時、近くの墓の前に不思議な色の供花を見つけて近よって見ると造花であった。墓にも造花。見た時ギクッとするような驚きであった。思いがけない身辺に、底のない洞穴を見つけた様な感じであった。何ともいいようのない現在の空白感を覚えたことである。
うっかりしていると、いつの間にやら自分自身の知らぬ間に自分もイミテーションになっている様な事があるかも知れない。ご用心。ご用心。
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第85号でも紹介致しました花野五壌先生の「大和あっちこっち」の一文です。
今後も折々に紹介させていただきます。
財団法人 慈光会 第二回学習会
まったく新しいタイプの環境汚染と言われ、50メートルプールにたった一滴の目薬を入れるよりも薄い濃度で、動物にも人間にも重大な影響を与えると言われる『環境ホルモン』
また、子孫を絶やすともいわれる『環境ホルモン』について
「いったいどんなものなのか?」
「何をどのように気を付けたらよいのか?」
といったことを絵入りのポスターを見ながら分かりやすく学習する会です。
是非この機会に環境ホルモンの実態を知り、どのような対策を立てて被害を免れるようにしたら良いかを、共に学ばせて頂きましょう。
記
テーマ:環境ホルモンとダイオキシン
講 師: 三宅征子氏(日本子孫基金運営委員)
日 時: 10月18日(日)午後1:30〜3:30
場 所: 五條市市民会館 3階大会議室
定 員: 130名 (定員になり次第、締め切らせて頂きます。)
資料代: 500円
子孫基金発行の4種類のポスターが資料となります。
◎ 参加ご希望の方は整理券(資料引換券)が必要です。
◎(財)慈光会までお申し込み下さい。(木・日休み)
主催:財団法人 慈 光 会
後援:日本子孫基金