慈光通信#77-#123 慈光通信#120-#最新号



有機農法について 
  

前理事長・医師 梁瀬 義亮


    
                             
(昭和五十年三月二五日に書かれた原稿です。)

  私は財団法人慈光会を興した。これは、無農薬の有機農法を実践する協力農家と、正しい食を求める需要者と、正しい流通機構の役をする慈光会健康食品販売所、(これに五ヘクタールの直営農場が附属する)を擁した一つのモデルである。
  第二のノアの洪水ともいうべき日本の現在の毒の洪水の中のノアの方舟第一号で、このあと、次々と同じような方舟が全国に出来ることを祈るのである。それをやっているうちに、有機農法とは単に化学肥料の代わりに有機質を使う農法でないことが分かってきた。もっと深い哲学的意味のあることを。
  今まで私達は、「大自然を人間と断絶した一つの物」と考えてきた。そして、自然からいろいろ取ってきて、人間が幸せになると考えてきた。ここから自然破壊が起るのである。又人間と人間、人間と動物及び植物の間に、断絶の直観があった。これが近代思想の特徴である。しかし、自然を破壊して人々は知った。自然が生きていることを。
  有機農法という言葉の意味を私は次のように考えている。大自然は生きている。その大きな生命の営みの中に多くの生命が生かされているのである。このことの認識による感動と、この感動に基づく愛と慈悲の精神とその実践、これが有機農法の基本である。
  今までのような大自然の生命を忘れた自然観と各生命の断絶の思想に基づく行動の中では有機農法は行われず、早晩「死の農法」に転落する実例を私は多く観たのである。大自然に対する畏敬と感謝、一切の生命に対する愛と慈悲心の中に日本農業の再建がある。
  先日某地の有機農業「土と人を生かす会」をテレビで見た。一人の若い農民が怒鳴るように叫んだ。「消費者は俺等農民の苦労を知っているのか。」と、彼の暗い顔を見ながら私は、私の協力農家の、南八重子さんの明るい顔と、彼女が言った言葉をおもいだした。「私がこうやって美しく健康な自然の中で働かせて貰い、出来た農作物を消費者の皆さんが食べて健康になって下さる。ああ私は本当に幸せ者です。」消費者も農家も感謝の念を厚くしている。有機農法は明るく、楽しく健康である。  
                        
【完】


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環境ホルモン講演会
  

三宅 征子


    
                             
(1998年10月18日 五條市市民会館での講演を要約したものです。)

 
  
  私共のこれまでの活動の中で、研究の主力としてきた問題が、ポストハーベスト農薬の問題でした。わたし達日本人の食生活において輸入農産物の占める割合は六割にも達しているわけです。穀物自給率では七割以上、カロリーベース自給率でも、四二〜三パーセントが輸入に頼っているのです。その中でも特に、日本人の食生活に非常に密接な関わりを持っている大豆とかいったものが、ほとんど輸入に頼っている実態というのは、本当に異常としか言えないと思います。大豆の自給率はわずか二パーセントしかないのです。しかもこの大豆に関してポストハーベスト農薬の他にさらに問題が起きています。それは「遺伝子組み替え食品」という問題です。輸入大豆のうちの八割以上はアメリカから輸入されてきます。ところが今やそのアメリカの大豆生産量の半分に近づく勢いで伸びていると言われているのが、遺伝子操作された大豆なわけです。これは殺虫成分とか、除草剤の成分とか、いわゆる農薬の成分を大豆の中にそのまま組み込んでしまう、そういう操作が行われた大豆が入ってきているということです。本来農薬というのは、有害な化学物質なわけです。もともと毒ガス兵器あるいは、様々な形で人を殺傷するような目的をもって開発された毒物が、戦争後農薬に転用され、その使用が高まってきたわけです。けれども、今やアメリカなどでは、穀倉地帯といわれるところで、かなり砂漠化が進んでいてこの影響の大きさが大きな問題になっているのです。現実、これらの砂漠化が進行しているというのも、農薬や化学肥料の使いすぎによる土の再生産力がなくなり、土が死んできてしまっていることから起きているといわれているわけです。
  このように、農地の砂漠化が進み、しかも、異常気象ということで作物の収穫においての不安定な要因が増して、収穫量が大幅に減るようなことがありますと、有機農産物という循環型の作物の生産が改めて見直されてきているということです。世界的に見ても、そして日本においても、有機農業の全農業に占める割合は、まだ数パーセントの段階に過ぎません。でも、これを何とか拡大していかないと世界の食料というのは大変大きな問題に直面してしまうということです。そこで、ここに目をつけて開発されつくりだされたのが、この遺伝子組み替えの食品だったわけです。この遺伝子組み替え食品を開発した世界的な農薬メーカーであるモンサントなどは、「二十一世紀の食糧危機を救う夢の技術だ」と言って、この遺伝子組み替えの作物の売り込みを謀ったのです。
  けれども、ここへきてその目的がそうではなく、その目的とするところは、そういった一部の開発メーカーによる世界の食糧支配だということが、現実となって姿を現してきています。それは「ターミネーター種子」というものの開発です。「ターミネーター種子」というのは「その種を蒔いても芽が出ない、次の世代をつくれない」こういう種子のことなのです。それを遺伝子を操作することによって創りだしたのです。これの持つ意味というのは、作物をつくるその度ごとにその種を持っているメーカーから買わなければならないということです。「二十一世紀の食糧危機を救う夢の技術だ」と言っていたにも拘らず、メーカーの本来の目的がここで明らかになったと言えるわけです。大豆のような私たちの食生活の基本を成す大事な作物でも種を特定メーカーから買わないとつくれないという、大変大きな問題を含んでいるわけです。しかもこの遺伝子組み替えの作物はすでに、大量に日本に入っていますし、そしてそれを私たちは食べているというのが今の現状です。
  ですからこれは早急に対応をはかっていかなければいけないということです。対処療法的な措置として表示を義務づけるという動きが今大きくなっております。農林水産省が、遺伝子組み替えの表示をしようという方向で動いております。でも、それが実施に移されるのはもう少し先のことですし、そうなったとしても根本的な解決にはならないわけです。私たちの健康に大きな影響がある、さらに自然界の生態系を崩すとも言われている、この遺伝子組み替え食品の問題の根本の解決をしようと思ったら、日本において限ってみれば、国内産の生産物をもっと拡大し、しかも、有機農産物で自給率を高める動きをつくりだしていかなければいけないということだと思います。そうでないと、これからお話させていただく環境ホルモンの問題とか、様々な私たちの健康を蝕み次の世代にもリスクをそのまま渡してしまうような問題の解決にはつながらないという風に思うからです。私たちはそういう意識を持って一日の生活をしていく必要があると思います。
  今日のテーマである環境ホルモンですけれども、これはマスコミ等で今一番話題になっておりますので、どういうものが環境ホルモンといわれるものかということは多くの方がおわかりかと思いますけれども、わたくしどもが「家族を救うチェックリスト」の八号目として作りました「子孫を絶やす環境ホルモン」というポスターをご覧いただきます。ここに環境ホルモンというのはどういうものかが、一応まとめられていると思います。様々な農薬だとか、有毒物質と言われる水銀カドミウム、有機スズ、そして史上最強の毒物とも言われる、皆様方が前回学習会をもたれたというダイオキシン、これらが環境ホルモンであるというふうに言われています。「環境ホルモン」という名前は日本でだけ付けられた名前でして、世界中では「内分泌攪乱化学物質」という名称がついております。これはその名の示す通り、私たちの身体のホルモン系を攪乱することによって、私たちの身体の中のホルモンバランスを崩し様々な問題を生じさせる化学物質というものなのです。今日本の環境庁が「内分泌攪乱化学物質」、いわゆる「環境ホルモン」としてリストアップしたものとしては約七〇種類の化学物質があります。つい最近になりまして、国立の検査機関である国立医薬品食品衛生研究所が、「環境ホルモン」の作用があると疑われる物質として、一五三種類という多くの化学物質をリストアップしております。そのどういうものがどのくらいの割合かというのを見てますと、殺虫剤、除草剤、殺菌剤などに代表される農薬が約半分。そして二三・五パーセントぐらいがいわゆるダイオキシン、有機スズ、カドミウム、鉛というような有害有毒物質です。それから二一パーセントがプラスチックの原料とか可塑剤など、いわゆるプラスチック類、そして約六パーセントが医薬品というふうに分類されております。農薬が非常に多いということですが、農薬は毎日いただいている様々な農産物から私たちの身体に入り込んでくる割合が大きいということを考えますと、この環境ホルモンの半分が農薬で占められているということは非常に大きな意味があると思います。ですから、農薬の問題をより真剣に考えて出来る対応をすぐにでも図っていく必要があるということが、こういう数字からも明らかというふうに思われます。        
                 (以下、次号に続く)


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くぬぎ林
  

花野 五壌


    
                          
  くぬぎ林、沢消(つやけ)しの様な冬の光を受けて交錯する枝々が、煙った様である。なだらかな丘の向こうに、また丘が続いて山膚を包むように銀灰の垂直の平行線を見ると、まさに郷土の冬をひしひしと感じるのである。
  秋の終わりから、カサカサと黄褐色の枯葉が微かな葉ずれの音を立てて、昼も夜も絶え間なく散って、そのすき間を通り抜ける秋の風が、いつの間にやら北からのみぞれまじりの風にかわると、全くの冬景色になる。
  昨夜からの雪が、枝にもかすかに残っている。銀髪の様な光が美しい。
  このくぬぎも、もう実用には縁遠くなったのであろう。炭焼きもなくなり、薪もガスや電気にかわり、果たしてこの木は何に使うものか、椎茸の台木など数も知れているはずてある。
  たたくと「ちん」と音のする堅い木炭、表面に白い灰が浮いて、切口にはっきりと年輪の出た切炭 火鉢の灰の中に音もなくまつ赤におこった炭火の色、新しい紙の障子に日が当っている座敷がなつかしい。炭火の上にかけた鉄瓶の湯が、微かな音を立てている静けさ。
  このいかにも日本の庶民生活の美しさの一つも、もう消えて終わったようである。
  先日古道具屋で鉄瓶を見て、その大ききと形と古い鉄の膚に心引かれて持ち帰ったが、さて家に古い火鉢、木灰はあったが、かんじんの木炭のない事に気づいてがっかりした事がある。
  電気暖房やガスストーブは、実際には暖かいにちがいないが、目や心までは一向に暖かくはならない。事務的な仕事であればそれでもよいが、本当に心の憩いの場には物足りない。当然なくなるものではあるが、なつかしい生活の美しい一つである。
  このくぬぎ林もそんな人間の利用価値など関係なく、冬の眠りから一斉に目覚めて淡緑の煙がたなびく様に、新緑の林に変わるのももうま近である。

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